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スバル、第三者調査チームにより明らかになった完成車検査の深刻な問題点

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スバル、第三者調査チームにより明らかになった完成車検査の深刻な問題点

2018年9月28日、スバルは2017年10月に判明した完成車検査での無資格者による検査問題、さらに同年12月に判明した燃費・排ガス測定時の不適切なデータ計測、さらに2018年5月の国交省の立入検査時に発覚した燃費・排ガス測定の不適切な取扱などが明らかになったため、スバルは弁護士など社外の第三者専門家によるチームに調査を委託し、その報告書を受領したと発表した。しかし、そこには新たな不正が存在していた。
 

新たな不正の発覚

スバル、2018年8月度の生産・国内販売・輸出実績を発表

この報告書により、過去に報告書を公表している完成車検査に関する不正行為に加え、新たな不適切行為が行なわれていたことがわかった。

燃費・排出ガスの抜き取り検査では、トレランスエラー時間の書き換え、温度および湿度エラーに関わる測定結果の書き換え、測定端末におけるデータの書き換え、その他不適切な測定プロセスの運用などが新たに明らかになった。

また燃費・排出ガスの抜き取り検査以外のライン完成検査(組立ラインの最終工程後の全数検査)では、ブレーキ検査における不適切行為、舵角検査における不適切な検査、スピードメーター指針誤差の検査における検査方法の違反、サイドスリップ検査における検査方法の違反、ずさんな計測値の記録および管理、その他の問題点・不適切行為なども明らかになった。
 

原因と背景は何だ?

こうした検査工程での不適切な測定やデータの書き換えの原因・背景としては、完成検査に係る工程処理能力に対して、過大な業務量が検査員に課されていたこと、不適切行為を抑止し、早期に察知する内部統制体制に脆弱さがあること、検査員が容易に不適切行為に及びうる環境があったこと、完成検査業務を担う部門の組織上の特性などの背景があり、検査員の規範意識が著しく低下しており、完成検査工程の現状・課題に対する経営陣の認識、その改善に向けた関与が十分でなかったことなどが挙げられている。

スバルは、再発防止策を抜本的に見直し、まず経営陣による品質保証(完成検査を含む)へのコミットメントを強化し、その一環として、完成検査部門を製造部門から移管し、検査業務の独立性を確保すること、完成検査プロセスの全面的な分析によるプロセスと業務量の抜本的な見直し、検査における不正・不適切行為の抑止・早期発見に向けた内部統制システムの運用の見直し、絶対不正に手を染めない強い規範意識の醸成などの対策を行なうとしている。
 

燃費・排ガスの抜き取り検査の問題点

完成車検査のうち、燃費・排ガスの抜き取り検査は、生産された台数から計算されて割り当てられた台数を行なう必要がある。計測に失敗した場合、本来はこれを試験不成立として処理する必要があるが、再測定を実施した場合、社内規程上の走行距離制限50kmを超えてしまい、新車として販売できなくなってしまうこと、そもそも再測定を行なうには1台あたり余分に2日間を要する手間がかかること、再度完成検査ラインから別の測定用車両を抜き取り直した場合も、新たに2日間を要し、結果的に月次の車両抜取計画を達成することができなくなるなどの背景がある。

燃費・排ガスの測定は、指定された油・水温の管理、試験室の室温管理、タイヤ空気圧管理、測定器のキャリブレーション、冷間始動からの測定のために計測室内での放置・待機時間が長い、測定時のJC08モード運転を行なう測定員は集中力が求められるなど、簡単にやり直しができないという実情もある。当然ながら生産台数が増大すれば、抜き取り検査の台数も増大するが、検査部門の体制に変更はなく、管理職も関与しないため、現場での解決が迫られたというのが実情であろう。

調査チームの1ヶ月当たりに測定ができる台数の試算結果でも、測定実績が工程処理能力を上回るか、あるいは工程処理能力に対して余力がない月が相当程度存在したことが確認されている。また検査・測定員は、管理職からモード運転操作ミスや技量不足を指摘されることを恐れるという背景もあった。

管理職の係長、課長は、燃費・排出ガスの測定値が記載された月次報告書を確認しているが、そもそも現場の測定作業に習熟も、関与もしておらず、現場の実情は把握していなかったとされる。

また、測定室での大気圧、乾球温度、湿球温度の数値管理の書き換えなどの不正は、特に本工場では、建屋が1960年代築と古く、ドアなどに目張りをしなければ試験室内にすきま風が入ってきてしまうような建物であったことも要因にある。さらに、試験室内の空調設備も老朽化しており、設備の更新がなされていなかった点が挙げられ、エアコンの性能が正常に機能していなかったことも指摘されている。

 

ライン完成検査での問題点

今回の調査で、新たにライン完成検査でのブレーキ検査や、最大舵角検査での不正な検査が判明した。これらは古い検査設備を使用した時に、車両と計測装置の乗り入れ角度が悪かったり、検査結果が基準値からわずかにズレていたような場合に、再度改めての測定検査を行なわなかった。

ブレーキ検査では、エアコンの排水でブレーキテスト用のローラーが滑りやすくなったような場合でも、より強くブレーキペダルを踏んだり、サイドブレーキを併用して検査をパスさせており、最大舵角検査でも、車両が斜めだったり、基準値に足りなかったり多すぎた場合でも、検査員が調整してパスさせていた。舵角の検査が不合格の場合、本来はタイロッド調整を行なう必要があるが、ライン上でそのような調整は不可能だったという。

これらはいずれも生産ラインの最終工程で、検査のやり直しを行なうと、ラインが滞留する原因になることを嫌っての行為である。

またスピードメーター検査では、ローラー上で計測器側のマスターメーターが40km/hに達した瞬間に計測スイッチを押す行為が行われていたが、これも時間短縮のためで、検査が形骸化していることを物語っている。

サイドスリップ検査では、2~6km/hでサイドスリップ・テスター状を通過することになっているが、テスターのロック解除忘れ、あるいは通過速度のオーバーなどの事例があることも判明した。もちろんこれも検査要領の違反とされる。

いずれも再検査を行なうことで、ラインの停滞が発生することを回避するために行なわれており、生産台数の増大に検査体制が追いついていないことが原因となっている。
 

問題の本質

結局の所、こうした完成車検査、ライン完成検査での問題点は、完成検査に係る工程処理能力に比して、過大な業務量が検査員に課されていたことが、多くの不適切行為の誘因となっている。不適切行為を抑止し、早期に察知する内部統制、管理職体制の脆弱さがあり、検査員が容易に不適切行為に及び得る環境が存在したことは大きな問題である。また、完成検査業務を担う部門の組織上の特性等を背景に、検査員のコンプライアンス意識が低下していたことや、こうした完成検査工程の現状・問題に対する経営陣や管理部門の認識、その改善に向けた関与が十分でなかったことが挙げられる。

また燃費・排ガス測定検査での温度エラー、湿度エラーに係る測定結果の書き換えの直接的な誘因となった本工場の試験棟(旧棟)の設備の老朽化も大きな原因となっている。温度、湿度の厳格な管理が要求される燃費・排出ガス測定において、試験室の密閉性を確保するべく検査員がドアに目張りを行なったり、電気ポットを使って手動で湿度調整を行なうような異常な事態となっていた。こうした設備老朽化による試験環境の整備の難しさにより、試験の失敗やミスも増え、検査員の業務量を一層過大なものとしていた。

ブレーキ検査でも、2018年1月に実施されたブレーキテスターの設備更新以降、不適切行為を行なった検査員はおらず、古いブレーキテスターを使用していた時期にのみ不適切行為が行なわれていた。老朽化したテスト設備に起因していることは明らかだ。

さらに検査員の教育は現場担当者が行なうことが通例になり、検査の意味や適法性についての教育を受けるより、測定手法やその修正方法など実務に関する教育を受けるというシステムになっていたことも、長年に渡り不適正な検査が行なわれる原因ともなっている。

また、検査部門は、直接付加価値を生まない組織として、製造部門に比べて必ずしも重視されず、社内的な地位も必ずしも高くないことも、こうした結果を招いた遠因と言うことができる。

経営システムに目を向けると、国内外の同業他社との間で厳しい競争を強いられていることなどから、経営陣の基本姿勢として、新たな設備投資については相当抑制的な傾向があり、直接利益につながる部門ではない検査部門の設備投資については特に抑制的であった。現場の創意工夫によって局面を乗り切ることが美徳として受け止められる社風があり、老朽化した設備の性能や設備の調整不良を検査員の努力によって補うという対応が常識化していたといえる。新たにスタートした新経営体制のもと、スバルはこれらの内在する問題点を早急に解決する必要に迫られている。
 
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