最近、「レストモッド」という言葉を耳にしたことがあるかもしれない。
これは「レストア」と「モディファイ」をかけあわせたもので、つまりは「レストアついでにモディファイしてしまう」というものだ。
ポルシェが自らレストモッドの手本を示した
ポルシェは今年、自動車メーカーとしての活動を開始してから70周年、という大きな節目を迎えた。
そこで今年は様々なイベントが開催され、数々のプロジェクトも進行中だが、空冷ポルシェファンが注目したのが「プロジェクト・ゴールド」だろう。
これは、ポルシェが993世代の空冷911ターボを「レストモッド」するというプロジェクトであり、ポルシェはこれに対して大々的なプロモーションを行っている。
ポルシェはこれまでも自社製品のレストアや、クラシックモデルの修理や販売を担当する「ポルシェ・クラシック」を通じ、多くの車体を蘇らせてきた。
だが、今回ポルシェは「今回のようなクルマは、過去に存在しなかった」という。
その真意は語られていないが、おそらくは、「過去のモデルを、現代の技術を用いてレストアした」事例がなかったという意味ではないか、と考えている。
つまり、ポルシェはこれまでのレストアについて、「当時の姿を再現すること」に注力しており、そこへ新しい何かを盛り込むことを行ってこなかったものの、今回はこれまでと違うということだ。
レストモッドの功罪を考える
そこで問題となるのがレストモッドの功罪だ。
なぜ「罪」を問われるのかということだが、これは「オリジナルに忠実ではないから」ということになるだろう。
ポルシェ911「プロジェクト・ゴールド」は、993世代のポルシェが発売されていた当時(1994-1997)には存在しなかった技術が盛り込まれている。
主には塗装ということになるが、高輝顔料を含む塗料やレーザーによる加工がそれに当たる。
世には「オリジナルこそが正義」だと考える人々が存在し、しかしボクはその考え方を否定しない。
だが、同時にボクはレストモッドを支持している。
なぜか?
ボクたちは未来に生きねばならず、過去と現在、そして未来は同じ延長線上にある。
過去ばかり見ていては先に進むことはできないし、未来を生きることはできても過去に生きることはできないからだ。
そして自動車とは「乗ってナンボ」だ。
過去の自動車が製造された時点では、「採用したかったが、採用できなかった技術」があるかもしれない。
つまりそのクルマの思想や設計に「当時の技術や法が追いつかなかった」パターンだが、現代であれば「当時やろうとしてできなかったこと」も実現可能だ。
そういった意味では、現代だと「過去の設計者がやろうとしたが、できなかったこと」を、彼らに代わって実現できる環境にあり、それを取り入れて過去のクルマを蘇らせることは「過去の否定」ではなく、過去を未来につなげるという、「現代に生きている」ボクらの役割ではないかとも考えている。
だからボクは必ずしも「過去のまま」レストアを行う必要はないと考えているし、設計者の意図を汲み、その延長線上で「当時彼らがやりたかったこと」を代わって実現することには賛成だ。
そうやって快適に乗れるように、現代の環境に適した状態へとレストアし、飾っておくのではなく、できるだけそのクルマに「乗る」ことが彼らに対する敬意の表し方ではないか、とも思う。
クルマは芸術品ではなく、復元して置いておくよりも、「実際に乗ってやる」ほうが過去の設計者たちも喜ぶに違いないとボクは考えている。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]
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