2017年10月にXC60を日本で販売し、その年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」大賞に輝いたボルボ。さらに2018年3月にはワンサイズ小さいXC40を発売し、こちらも大ヒット、自動車関係者から「あれはいい」と絶賛されている。
先日、編集長Tが取材から帰ってくるなり「いやー、ボルボいいわあ」、「(車両本体価格が)高いしデザインやサイズは日本向けじゃないし、正直いって舐めてたんだけど、乗るとすごくいい。クルマとしての基本性能が高い。今まで持っていた偏見を謝罪したい」と話し出した。出先で乗ってきたらしいのだが、勝手に偏見を持って勝手に謝りたいとは、なんとも勝手な話だ。
ともあれ編集長のその感慨深げな、そしてワクワクと楽しげな言葉と様子は深く印象に残った。
なにしろここ最近、評価が急上昇中のボルボって、そんなにいいのか? 巷で聞く評判は誉め言葉ばかりだが、調べてみると決してここまで順風満帆でやってきたわけでもないらしい。そこで今回は、そんなボルボ快進撃の中身に迫ってみた。
※本稿は2018年1月のものです
文:国沢光宏、大谷達也、ベストカー編集部/写真:ボルボ、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2018年2月26日号
■実は紆余曲折の歴史をもつボルボ
TEXT/ベストカー編集部
本題にいく前に、現在までのボルボについてすこし振り返ってみたい。
1927年に誕生したボルボは、1999年にフォードモーターに乗用車部門が買収されたが、2010年8月、中国の民営自動車大手、浙江吉利控股集団=ジーリー・ホールディンググループに売却され、ジーリーの傘下となる。
創立が1986年、自動車業界に参入したのが1997年と、中国企業としても新興勢力にすぎないジーリーによって約18億ドル(約1850億円)で買収されたことについては否定的な意見が多かった。
しかし2012年10月にボルボ・カー・グループCEOに就任したホーカン・サムエルソンの言葉はそうした見方を一蹴するものだった。
「吉利汽車とボルボのオーナーは一緒ですが、両社はあくまで並列の関係で、独自の決定権を持っていますので素早く判断できます。ボルボブランドを独立した形で運営しているのはブランドを大切にする李書福氏(浙江吉利控股集団・董事長)の考え方です」。
ボルボはジーリー傘下になったことで110億ドル(約1兆3000億円)という投資額を得た。潤沢な資金によって新工場建設と、新型パワートレイン Drive-Eに加え、SPAとCMAという2つのプラットフォームを刷新した。
世界販売台数は2011年に42万1951台だったのが、右肩上がりで2017年には57万1577台と過去最高を記録。
187万台のアウディ、約246万台のBMW、約229万台のメルセデスに遠くおよばない約57万台のボルボが自社開発のエンジンや2つのプラットフォーム、世界最先端の安全技術を持つのは、まさにジーリーによるものだ。そこで培われた技術は今後ジーリーや高級SUVブランドのLYNK&COにも流用されていくのだろう。
日本での販売は1990年代後半には年間2万台以上を記録していたものの、2000年以降は徐々にその数を減らし、2009年には6170台にまで大きく落ち込んだ。
しかしそれ以降はV字回復を果たし、2014年にいったん落ち込みはするものの、2015年以降、順調に業績を伸ばしている。今後、新型V40が登場することで、さらに躍進を遂げるはずだ。
■褒められすぎ!? ボルボ車に死角はないのか?
続いてはクルマの本質に迫ってみたい。ボルボの各車種をさまざまな角度から検証し、死角はないのか? さらに代表的な車種のいいところと悪いところも挙げてもらった。
* * *
TEXT/国沢光宏
ボルボに死角がないかと聞かれたら、瞬時も躊躇わずに「ある!」と答える。ボディ幅だ。
なにしろXC60ですら1900mmもあり、XC90の1930mmとほとんど変わらない。さらに間もなく日本で発売される新鋭XC40のスペックを見たら1863mm。これまたXC60に肉薄するほど幅広い(海外仕様。日本仕様は未定ながら1860~1865mm程度になると思う)。XC40、C-HRなどと同じCセグメントなのだ。
ただワイド化はボルボに限ったことじゃない。BMWの新型X3もXC60と同じDセグメントベースのSUVで車幅1891mmある。アウディ Q5だって1900mm。日本車は少し控えめながら、CX-5の1840mmすら充分ワイドだと思う。
CセグメントもXC40の1863mmが標準的になっていく? 実際、車庫事情の悪い日本で乗ろうとした場合、けっこう気合いが必要。ドアを開閉できるか確認しなければならぬ。
もちろん一般的なタワーパーキングだと、車幅1850mm超えてアウト。まぁSUVの多くが車高制限に引っかかるためハンデにならないと思いますけど……。
次期V60が車幅1850mmに収まればタワーパーキングでイケる。一方、走行中は幅広ボディも気にならない。ボルボも充分認識しており、ドアミラー形状を工夫し、あまり飛び出さないようにした。ドアミラー畳むような道を走るような人を除けば、何とかなると思う。
それ以外に死角がないか? 熟考するも「思いつかないですね~」。以下、本当にないいか、さまざまな評価項目を挙げて考察していきたい。
■メカニズム
基本的に2L 4気筒だけで勝負するという戦略ながら、今のところあまり弱点となっていない。そればかりか、WTCC用のレースエンジンを量販ブロックで作れるほどで、積極的に「よい!」と評価されているのだった。ディーゼルも触媒タイプはスス溜まるなど世間一般と共通する弱点を持つが、尿素を吹くシステムに切り替わっていけば、あまり神経質になる必要ない。電動化は「優」である。
■先進安全装備
世界中の自動車メーカーがボルボをベンチマークにしていることを見てわかるとおり、世界トップである。先端技術はすべて標準装備。その上で、昼夜問わず歩行者を検知可能な自動ブレーキに始まり、コースアウトして着地した際、下から受ける衝撃を緩和するためのシートレール構造など、枚挙に暇なし。新世代のボルボなら、常識的な速度で走っている限り事故を起こすのが難しいほど。自動運転技術も熱心。
■走り
フォード傘下だった時代、ボルボの走りは眠かった。安全性を確保するための必要最小なハンドリングしか持っていなかった、と言い換えてもよかろう。フォードの呪縛から抜けるや、猛ダッシュ! すでにV40すら今までのボルボとまったく違う「楽しさ」を持っていた。
私も最初にV40のハンドル握った途端「どうしちゃったの?」。今やハンドリングも乗り心地も文句なし。SUVはベンツやBMWすら凌ぐ!
■クオリティ
あまり知られていないことながら、ボルボの故障率は輸入車のなかでダントツに少ない。なぜか? 日本製の部品をたくさん使っているためだと言われる。トランスミッションはアイシン製。インジェクションを含めた電気系もデンソー。ここにきて使い勝手がよくなったナビは三菱電機製だ。ベンツやBMW、VWなどはドイツの部品メーカーを使わなくちゃならないのが厳しいところ。
■居住性
これまたフォードの束縛から解放されて以降、急速に向上してきた。ご存じのようにV40とフォーカスは兄弟車種なのだけれど、質感が圧倒的に違う。以後、ボルボの独自開発となるXC90で素材もコストをかけ始め、S90/V90はライバルのベンツEクラスやBMW5シリーズと比べたって負けていない。長く暗い冬を快適に過ごせる北欧家具風の明るく広く感じるインテリアは、クルマと相性もよい。
■コストパフォーマンス
基本的には「優れている」と思う。例えばV40T2のナビエディションなど、299万円で自動ブレーキやブラインドスポットセンサーに代表される安全装備すべて標準されるうえ、ナビやドライブレコーダーまで付くのだ。XC60も190馬力の2Lディーゼルエンジン搭載モデルで599万円。同じ190馬力の2Lディーゼルエンジン搭載のBMW X3は662万円となる。安全装備の差など考えたらお買い得プライスかと。
以上、さまざまな方向からボルボの死角をチェックしてみたが、新世代モデルは文句なし。だからこそ日本COTY(カーオブザイヤー)も獲ることができた。割安な価格で勝負中のS60(2018年6月発表・日本未発売)とV60も、新型になったら大化けするだろう。このまま値上げをせず、競争力のある価格戦略を続ければ台数も延びていくだろう。
■ヒットの要因は北欧デザインにあった!?
TEXT/大谷達也
最新ボルボのデザインを指揮したのはトーマス・インゲンラートだ。6年前に前任のピーター・ホーバリーからデザイン担当副社長の役職を引き継いだ彼は、昨年6月にボルボのサブブランドにあたるポールスターのCEOに就任したが、XC90に始まるボルボの新世代デザインはいずれもインゲンラート率いる同社のデザインチームが生み出した作品。今後登場するXC40などのニューモデルも、すべて彼が手がけたものだ。
こう聞けば、ボルボの復活劇がインゲンラートの手腕に多くを頼っていたことが明らかになる。では、彼の作品はどうしてこれほど多くの支持を得られたのだろうか?
前任者ホーブリーのデザインは、現行V40に代表されるように実に躍動的。これは全体的なプロポーションを後ろ上がり基調にするとともに、エモーショナルな曲線を多用することで実現したものだ。
対するインゲンラートのデザインは水平基調で直線中心。その意味では、彼の元の職場であるフォルクスワーゲングループのデザインと共通する部分もあるが、もしもそれが単なるコピーに留まっていたら、ここまでの成功は収められなかっただろう。
インゲンラートは水平基調で直線的な造形にスカンジナビアとボルボの伝統を折り込んで独自の世界観を構築した。ここにこそ、成功の秘密はあったと私は睨んでいる。
シンプルで直線的なデザインの北欧家具が嫌い、という人は滅多にいないはず。一見したところ冷たそうに思えて、実は温かみのある北欧家具のデザインは、先進的に見えながら時代を越えて愛され続けるという、いくつもの相反する要素を備えている。幅広い層から支持される理由は、この点にあるはずだ。
さらにインゲンラートは、ここにボルボの伝統的なデザイン・アイコンを盛り込んだ。アイアンマークを中心とするフロントグリルは、誰が見てもひと目でボルボと認識できるものだし、直線的で水平基調のデザインは1960年代の140シリーズで登場し、その後の240シリーズ、740シリーズにも引き継がれたトレードマーク的存在。これもまた、長い伝統に根ざしたボルボ一族の末裔にあたることを示す特徴といえる。
もっとも、どんな優れたデザインコンセプトも完成した作品が美しくなければなんの意味もない。この点でもインゲンラートは類い希な才能を発揮しており、バランスのいいプロポーションに怜悧で緻密なディテールを盛り込むことで全体として実に美しいエクステリアに仕上げた。フロントオーバーハングの短縮を可能にした新プラットフォームSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)もプロポーションの改善に大きな役割を果たしている。
最新ボルボのもうひとつの魅力がインテリアで、ダッシュボードには天然木の風合いを生かした素材を、シートには手触りの柔らかなレザーを多用することで温かさと質の高さを両立したキャビンを作り上げている。明るめの色調を中心としたインテリアカラーのラインアップも見事だ。
さらには各シリーズで微妙にデザインコンセプトを変えた点も注目されるが、ここで紙幅が尽きた。あとはご自身の目で最新ボルボ・デザインの魅力を確認してほしい。
※日本におけるボルボの販売拠点数107、サービスショップを含む拠点数は114。日本で販売されるボルボ車の車種別生産国はスウェーデン生産がV90、V90クロスカントリー、XC60、XC90、ベルギー生産がS60、V60、V60クロスカントリー、V40、V40クロスカントリーとなっている。
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