車に乗ることは、イコール車の椅子に座ることでもある。愛車でのロングドライブはもちろん、仕事で運転する人にとって、車のシートは毎日座る仕事場。そして、まさに車のシートを仕事場とする究極の職業がレーサーだ。自身もかつて腰痛に悩んだというトップレーサーの脇阪寿一氏は、良いシートを選ぶことで日々の腰痛を和らげることにも繋がると言う。
“最速の座り仕事”レーシングドライバーが語る、疲れにくい椅子の見分け方とは。
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Report:脇阪寿一
Photo:平野学
取材協力:メガウェブ
“椅子”の選び方次第で疲れ方は変わる
レーシングドライバーである脇阪寿一氏にとって、車のシートは仕事場。自身もかつてシートの座り方や良いシートを知ることで腰痛を克服したという
ジェットコースターでコーナーに入った時、首が「バタン!」と倒れますよね。速度は100km/h程度(編注:日本一のドドンパは約180km/h)。それでも、横にかかるG=重力加速度は、我々がレースで日々体感しているものより抑えられています。
例えば、僕が走っていたスーパーGTやスーパーフォーミュラなどの選手は、体重の3~4倍の重力がかかり、心拍数は最大で180程度に達するような状態で競技をします。
ですから、単に椅子に座って運転しているように見えても、見た目以上に筋力・体力を使います。そして、オフィスワークをされる方にとって、会社のデスクが仕事場であるのと同様、僕らにとって、車のシートは大事な“仕事場”です。
だから、自分が一番「働きやすい環境」にするため、我々は車のシートに高いレベルを要求します。
ひとつ面白い話があります。リクライニングしないシートってしんどいと思いますよね? レース用のシートは、当然背もたれが倒れません。それでも、メカニックの作業が長時間に渡る時など、我々レーシングドライバーは、このシートでよく寝ます。
なぜなら、身体にフィットするシートを手にすれば、例えリクライニングしないシートでも眠ることができるから。市販車でも、シート次第で疲れにくさは大きく変わります。
疲れるシートと疲れないシートの見分け方
シートはともにアルファードのもの。左は皮革で、右がファブリックシート。同じ車でも、表皮の素材により「滑りにくさ」に違いが出るケースも!
疲れにくいシートの条件として重要なことを3つあげるなら「滑りにくいこと」、「正しい運転姿勢をとれること」、そして「骨盤の角度が反らないこと」です。
なかでも、一番判断しやすいのはシートの滑りやすさです。「滑る」ということは、その動きを身体で支えなければならない。
例えば、座面が滑りやすいシートに座ると、お尻が前のほうにずれる。すると、お尻がずれないように身体が支えなくてはならない。だから、疲れるんです。
この滑りやすさには、シートの材質も大きく影響します。一般的な良いシートは、本革製ということが多いですが、実は滑りにくさでは、布製シートが優るケースも多いんです。
これは「価格を抑えたいけど、シートは革製にしたい」といった“安い革製シート”に多く、布製シートより滑りやすい傾向にあります。
もちろん、革のなかでも上質なシートには、布では出せないフィット感があります。でも、滑りにくさに関しては「革製だから良い」とは限らないんですね。
ただし、布製シートでもデザイン性や耐久性ばかりを重視した表皮のものは、逆に滑りやすいものもあるので、ぜひ実際に座ってみて、滑りにくさをチェックしてみてください。
疲れにくいシートは“芯”が潰れない!
このように指で押してみてサイドサポートが潰れやすい場合、横方向に身体が動きやすく疲れやすい
もうひとつ、疲れやすさに影響するのがシートのサイドサポートの部分です。座った時に身体の側面を支える機能を果たす部分ですね。
サイドサポートの形状に凹凸がない、平板なシートだと、当然横方向の動きに対して身体を十分に支えることができません。昔のランクル100なども滑りました。
同時に、サイドサポートの芯が潰れないことも重要です。
実際にシートのサイドサポート部を手で押してみると、簡単に芯が潰れてしまうシートもあります。これでは、たとえサイドサポートがある、立体的な形状のシートでも身体を支えることができず、疲れやすくなってしまいます。
肩がこりやすい姿勢の秘密は「接地面積」にあり
自然な着座姿勢(左)と「前のめり」の着座姿勢(右)のイメージ。後者の場合、シートで充分に身体を支えれず、疲労の原因に
次に座って、ハンドルを回したり、アクセル操作をしてみて、自分が安心して視界を確保でき、運転操作ができること。これも重要です。
車に乗っていて、疲れがくるのは首・肩・腰が主。なかでも肩こりしやすい姿勢には、「視界」も関係しています。
小柄な方、女性の方にも多いんですが、高い着座位置から前を見たいと意識すると、シートに背中を付けず、「前のめり」の運転姿勢になりがちです。
でも、背中をシートから浮かしてしまうと、(身体を支えることを)ハンドルに依存してしまう。すると、ハンドルに力が入る。それによって、肩や首が疲れる。実は背中をシートにつけることは、背中で身体を支える機能もあるのです。
また、首が疲労してくると、目の疲れにも影響が出てきます。
もちろん、写真のように極端な姿勢をとる方は少ないと思いますが、太腿の下から肩まで、いかにシートとの接地面積をとれるかが、疲れにくさに大きく影響してきます。
例えば、シートを倒し気味にすれば、それだけ背中の接地面積は減りますよね? 最近では座面の角度を調整できるシートも多いので、こうした機能も使いつつ、たくさんの面積で身体を接地させられるシートは“疲れにくいシート”と言えるでしょう。
車のシートは腰痛解消の可能性を秘めている
シートの良し悪しは、「疲れ」に直結します。とはいえ、シートだけで車を選ぶわけではないですよね?
もし、愛車のシートが滑りやすいなら、まずは座面だけでも滑りにくくすること。例えば、滑りにくいシートカバーを付けるというのも一つの手。それだけで、疲れやすいシートの状態を緩和することができるでしょう。
実は僕も昔はレースが終わると激しい腰痛に悩まされていました。でも、正しい骨盤の角度や、その角度で座れる良いシートを知ってから、腰痛に悩まされることはなくなりました。
だから、良いシートを選ぶことは、日々の腰痛を和らげることにも繋がると僕は思っています。
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