去る2月18日、旧くからの友人に誘われて袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された「Classic Porsche Sports Day(以下、クラシックポルシェスポーツデイ)」に行って来た。
筆者の位置付けとしては、友人I氏のチームの監督(誇張あり)兼雑用係(これがメイン)だ。
「クラシックポルシェスポーツデイ」とは?
主催はとある出版社さん、事務局はとあるショップさんではあるが、まったく閉鎖的な感じもなく、旧いポルシェが好きな人達が集まって、可愛がっている愛車をサーキットで思う存分走らせてあげよう、というイベントだ。
毎年この同じイベントがあったようだが、最近まで930以前が条件で、964以降は出られなかったようだ。しかし今回は、964も出走できるようになっていた。とはいえ、出走車は356からナローが中心で、1974年式以降のクルマの方が少ないという状況であった。
エントリー車の大半が自走で袖ヶ浦サーキットへ
雑用とは言うものの監督も兼ねていたので、重役出勤が許され、9時前に現地へ到着。既に車検およびドライバーズミーティング(通称ドラミ)は終わっており、作戦会議のタイミングでの到着となった、
出走車を見てみると、ほとんどの車両がナンバー付きであった。そのため、会場である袖ヶ浦サーキット~自宅やガレージまで自走で帰るというスタイルが主流だ。積車に載せてやってくる「お大名」はほんの数台であり、親近感ありまくりのイベントだ。ピットにモニターを並べたり、ケータリングサービスが来ているようなチームもあったが、その大半は「ピットにトランクの中のものを全部出しました」みたいな状態の方が多かったように思う。
性能差を埋めるため、公正性にも配慮が
このイベントは、1チーム最大3台までエントリーが可能だ。そしてドライバーも最大3人までと決められている。だから2時間の間、3人で1台のクルマを走らせてもいいし、2人のドライバーが2台のクルマに分かれて交代に走ってもいいのだ。ただし、クルマの性能ごとに交代時のピットストップの時間が0分~4分で設定されており、そこで公平性を保っている。
さて、私が監督(兼雑用)を務めるチームのゼッケンは11。一号車は白い1973年式ポルシェ911カレラRS2.7、いわゆるナナサンカレラだ。二号車は、筆者に声を掛けてくれたI氏の1984年式ポルシェ911カレラ、三号車が1992年式ポルシェ911カレラRS(964RS)という布陣だ。それぞれのピットストップは2分、3分、3分と決められており、例えば、他のチームの356のピットストップは0分、カリカリにチューニングされた964は4分といった具合になっている。
スタートはル・マン方式
30分間のフリー走行の後、ル・マンスタイルのスタート方式に則り、ホームストレート上に出走する17チームのクルマが斜めに整列。964までのいわゆる「蛙顔」のポルシェ、しかも、ナローポルシェ率がかなり高い上に、ものすごいチューンを施した車両も混じって整列することなった。こうなると、カメラ小僧でなくてもシャッターを切りまくる光景であったことは間違いない。当然、昨今のトレンドからレースクイーンは皆無だ(笑)。
疑似ル・マン方式のスタートは、ホームストレートの外側から走ってきたチームのメンバーが、最初のドライバーへグローブを渡したところでエンジンスタートとなる。我がゼッケン11は、くじ引きで得たポールポジションを活用し、なんとトップでスタート、そのまま第一コーナーへ滑り込んでいった。その後方では、スタート時にお尻を振るクルマもあったが、混乱やクラッシュもなかった。だって皆んな、乗って帰らないといけないわけだし(笑)。
1号車は1973年式ポルシェ911カレラRS2.7
安定して40分は走ってもらおうと思っていた1号車、最初は順調な滑り出し。1周を1分20秒を切るタイムでラップを重ね始めていたなか、なんとトラブル発生。「オレンジボールフラッグ」が、我がゼッケン11に出ているというのだ。
「オレンジボールフラッグ」とは何かというと、音量オーバーである。えっ?っと思うかもしれないが、この袖ヶ浦サーキットのローカルルールで、近隣の養鶏場に配慮して音量は95dB以下と決まっているのだ。タイム計測をするコントロールライン上で音量も計測し、既定値以上の音量の場合はピットストップの上、オフィシャルの警告を聞いてから再スタートするというペナルティが課されるもの。
無線通信でドライバーは「え?何?なんなの?ピットインする?」と言っていたが、ピット上のオフィシャルは無線での音量警告だけでいい、という話だった。当初は「コントロールラインではアクセルを抜く作戦」で凌ごうと相談していたにも関わらず、数分後に大会本部からはピットインの指示。というわけで、開始10分後に痛恨のピットストップとなった。ピットから出る時の音もえげつなかったので、やっぱ、キミ、うるさいよ。とはいうものの、ホームストレートの後半はアクセルを抜くという厳しい制限の中、ほぼ2位をキープして走った1号車に30分後に新たなる試練が。「99.75dBで今日一番ウルサイです」、熱くなってアクセルを戻しきれなかったらしく、2回目のピットストップペナルティ。これは痛恨だ。そして、予定の40分を走りきって二号車へバトンタッチ。
2号車は1984年式ポルシェ911カレラ
ピットに戻った1号車のリアのナンバープレートに装着した「トランスポンダー」という計測器を2号車へ移設し、オフィシャルのストップウオッチ計測で2分待つ。2分後にエンジンスタートして、コースイン。
その後、2号車は1分17秒代を含む好ラップを重ねてはいたが、これまたトラブル発生。予定の30分を走り切る前にガス欠しそうだという無線連絡。どのエントリーカーも、軽量化のためにギリギリの量しかガソリンを入れないのだが、フリー走行で予定よりがんばり過ぎてしまったようで、本戦でまさかのガス欠となった。そこで、予定よりも早く3号車のポルシェ911カレラRS(964RS)へバトンタッチ。
3号車は1992年式ポルシェ911カレラRS(964RS)
3号車の964RSはエンジンはほぼノーマル、脚とブレーキだけを強化したクルマだが、エレガントに速い。1分18秒台でコンスタントに周回を重ねた。コースイン時は5位以下だったにも関わらず、順調に順位をあげ、残り20分のところでトップを行くゼッケン34を射程圏内に。
このゼッケン34は、ナローの顔をした964で、排気音というよりも吸気音がえげつないクルマではあったが、我が964RSはエレガントにこの首位のクルマを抜き去りった。残り10分は安全運転に徹し、見事トップでチェッカー。まさにポールトゥーウインだ。並み居る競合達のなかで、ナンバー付き車両だけでの優勝はなんともいえぬうれしさがあった。
クラシックポルシェスポーツデイのようなイベントに参加する魅力とは?
ショップのフラッグシップカーも数台参加していたなかでプライベーターが優勝すること、それはクルマの性能だけの勝負ではなく、チームワーク、ドライバーのテクニック、ちょっとした自分への演出(奥さんの写真をメーターの横に貼るとかね)などの総合力での勝利と言えると感じた。
ドライバーもパドック内で活動するスタッフも、言ってしまえばオジサンが多かった感は否めないが、筆者からすれば全員「歳を取った少年」でしかなかった。
休日の朝、愛車と共に箱根をはじめ、自分のテリトリーの気持ちのいい峠道へ走りに行くことの幸せは十分理解してはいる。しかし、年に1回、あるいは何回かは、レーシングスーツとヘルメットをまとい、愛車とサーキットを走ってみる行為は、さらに幸せかもしれない。
安全が確保されたクローズドなコースの中で愛車を限界まで走らせてあげること、そして、愛車や自分自身のドライビングに足りないことに気づく。そして、次回に向けた改善を誓うことは、試練でもなんでもなく、本当にヨロコビだと感じた。そんな愛車を走っている皆さんをこの上なく羨ましく見ていた。
クルマの調子やタイムに一喜一憂し、ライバルを気にしつつ、自分もドライビングを楽しむという、本当に楽しい時間をすべての参加者が過ごせたイベントだと感じた。無理に若者を呼ばなくてもいいかな、と思うほど、会場にいた年齢の高い少年たちの笑顔はキラキラしてましたよ、はい。
[ライター・撮影/ryoshr]
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