ついに現行型ジムニーが約20年の発売期間を終えようとしている。新型のうわさもチラホラと聞こえてきているが、ジムニーというコンパクト4WDは多くのファンだけではなく、寒冷地域などで生活必需品として君臨してきたことを忘れてはならない。そんなある意味「敵なし」なジムニーだが、かつて一度だけライバルが出現したことがある。そう、それが三菱パジェロミニ。同じ軽自動車枠でしかも「パジェロ」の名を冠したライバルにジムニーも少なからぬ影響を受けた。ジムニーファンですら知らないエピソードかもしれないが、現行型のファイナルにあたり、渡辺陽一郎氏に振り返ってもらった。
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
■ジムニー生産終了の理由
軽自動車のオフロードSUV、スズキジムニーが小型車版のジムニーシエラと併せて生産を終えた。通常の生産終了と異なるのは、次期型の発売スケジュールが不明瞭なことだ。本誌は「2018年7月頃」という情報をつかんでいるが、販売店に尋ねると「メーカーから情報が発信されておらず今のところ未定」だという。
こうなった理由は、軽自動車のジムニーに、生産を終えなければならない事情があるからだ。今は安全性を高める横滑り防止装置の装着義務化が進み、軽乗用車は、継続生産車も2018年2月以降の届け出では必ず装着しなければならない(新型車は2014年10月以降は義務化された)。
現行型ジムニーは20年の間、軽自動車4WDのトップに君臨し続けた。次期型の存在も明らかになったが少し寂しい気もする
ところがジムニーは、軽乗用車なのに横滑り防止装置が備えられていない。そこで装着済みのジムニーシエラも含めて生産を終えた。フルモデルチェンジを行う一番の理由は、現行型の発売から20年を経たことだが、横滑り防止装置の問題がなければ生産終了がもう少し先送りされたかも知れない。
ジムニーは軽自動車のオフロードSUVで、初代モデルは1970年に発売された。フルモデルチェンジの周期が長く、2代目は1984年、3代目は1998年に発売されている。初代と2代目は14年、3代目は約20年間製造された。現時点でライバル車は不在だが、一時期、三菱パジェロミニと競ったことがある。パジェロミニの初代モデルが発売されたのは1994年だから、2代目ジムニーのライバル車に位置付けられた。
■「FRベースの4WD」がパジェロミニとジムニーの共通点
パジェロミニは、薄利多売の軽自動車に設定されたSUVで、20年以上の実績を持つジムニーの市場に切り込んだから相当なチャレンジであった。これを可能にしたのは、当時の三菱に勢いがあったことだ。1990年に初代ディアマンテ、1991年に2代目パジェロ、1992年にはランサーGSRエボリューションなどを発売して話題になり、売れ行きも伸びている。
1994年の三菱は、小型/普通/軽乗用車だけでも国内で約39万台を販売しており、2017年に比べると4倍以上の売れ行きを誇った。だからこそジムニーの独壇場とされる軽自動車のSUVに挑めたわけだ。また当時の三菱はパジェロを筆頭にRVR、ピックアップトラックのストラーダなどの4WDをそろえ、ミニバンのデリカスターワゴンやスペースギアも4WDの採用で走破力を高めた。
1995年に発売されたコンパクトカーのパジェロジュニアも含めてSUVの品ぞろえを充実させるねらいがあり、パジェロミニもそこに組み込まれた。2代目ジムニーと初代パジェロミニを比べると、共通点と相違点がハッキリしている。
パジェロの意匠を色濃く残したパジェロミニ。オフロードでの性能も高かったが、やはりその分野で突出していたジムニーにかなわないこともあり、オンロード性能も磨き上げた
まず共通点は、後輪駆動のシャシーをベースにしたオフロードSUVであることだ。4WDシステムは、カーブを曲がる時に前後輪の回転数を調節するセンターデフなどを備えないパートタイム式だから、舗装路は基本的に後輪駆動の2WDで走る。その代わり4WDにした時には前後輪の駆動系が直結されるから、悪路の走破力が高い。ギヤ比をローギヤード化して駆動力を高める副変速機も装着した。
ボディは両車ともに3ドアで、後輪駆動がベースだから、前輪駆動の乗用車に比べると空間効率は低い。後席と荷室は狭くなる。いっぽう、相違点は足まわりだ。1994年時点のジムニーは、前後にリーフスプリングを使うリジッド(車軸式)サスペンションを装着していた(1995年にスプリングをコイルに変更)。それがパジェロミニでは、前輪側はストラットによる独立式で、後輪はリジッドではあるがコイルスプリングを使う5リンクであった。
足まわりの形式が異なる理由は2つある。まずはコンセプトの違いだ。ジムニーは初代モデルを悪路で使う作業車として1970年に発売したからオフロード指向がきわめて強く、足まわりも4輪にリジッドを採用した。これに比べるとパジェロミニは、ジムニーとの競争を避ける意味でも乗用車感覚を強めた。4輪にコイルスプリングを使って前輪は独立式にすることで、走行安定性と乗り心地を向上させている。
■姿を消したライバルとジムニーのこれから
そのために運転感覚も違う。ジムニーは舗装路が得意ではない。特に先代型は操舵感が曖昧で、カーブではボディが唐突に傾いた。乗り心地は前後方向の揺れが大きい。しかし悪路に乗り入れるとこれらの欠点がすべて美点に変わり、激しいデコボコを軽快に乗り越えていく。この豹変ぶりもジムニーの楽しさだ。
パジェロミニも専用のシャシーを備えたオフロードモデルだから走破力は高いが、ジムニーほどハードは使われ方は想定していない。後席の広さも含めて、ジムニーに比べると幅広い用途に適する。ジムニーで悪路を走らないと、選んだメリットが実用性では皆無になるが、パジェロミニはそれほどではない。
660ccエンジンも異なり、ジムニーは直列3気筒ターボだが、パジェロミニは直列4気筒の自然吸気とターボを用意した。車両重量が900kg前後に達するから自然吸気では実用回転域の駆動力が不足したが、ターボならパジェロミニは4気筒とあって加速が滑らかだ。
大きな違いのエンジン。パジェロミニは4気筒を搭載した
対するジムニーの3気筒ターボは回転の上昇が活発で、これも悪路を機敏に走る時に都合が良かった。1998年10月には衝突安全性の向上を目的に軽自動車の規格が変更され、全長の上限が100mm拡大されて3400mm、全幅が80mm広がって1480mmになった。これに基づいて時速50kmにおける前面/側面衝突時の乗員保護、後面衝突における燃料漏れの防止が義務付けられた。
この時には16車種の軽自動車がほぼ一斉にフルモデルチェンジを行い、未曾有の新車ラッシュになっている。ジムニーとパジェロミニもこの時に一新された。ジムニーは現行型になり、エンジンは直列3気筒660ccターボを搭載する。衝突安全性の向上も視野に入れて、ラダーフレームから新設計されたが、サスペンションは4輪にコイルスプリングを備えるリジッドだ。
ホイールベース(前輪と後輪の間隔)やトレッド(左右のホイールの間隔)の拡大で走行安定性と乗り心地を向上させたが、悪路指向のクルマ造りに変化はない。パジェロミニは直列4気筒エンジンを踏襲。ジムニーと同様にホイールベースとトレッドを広げて、基本部分を小型車のパジェロ・イオと共通化した。ホイールベースも2280mmで等しい。そのために乗り心地が一層快適になり、従来以上に乗用車感覚を強めてジムニーとの違いも明確になった。
ジムニーは初代モデルの発売から50年近くにわたり、日本に最適な生粋のオフロードSUVとして走り続けている。狭く曲がりくねった林道には、ジムニーのサイズがピッタリだ。軽自動車のSUVというより、日本の悪路に最適なクルマを開発したら、それがちょうど軽自動車のサイズに収まった印象を受ける。ジムニーは時間を超越して、日本の悪路と向き合っている。
対するパジェロミニは、悪路の走破力を含めて機能を総合的に高めた軽自動車のオフロードSUVだ。かつて人気車だったパジェロの軽自動車版でもあり、市場動向に沿って開発されたから、オフロードSUVとパジェロの衰退に伴って姿を消した。
次期型ジムニーはキープコンセプト+初代の意匠へのオマージュも見れる。ラダーフレームも健在とベストカーは情報をつかんでいる
しかしSUVの人気は、海外を含めて新しい段階に入っている。新しいジムニーとパジェロミニの登場に期待したい。1994年から2010年代の前半にかけて、ジムニーは、パジェロミニとの相対性においても個性を発揮することができた。次期型ジムニーは従来の路線を踏襲すると思うが、パジェロミニは(開発すると仮定すれば日産だが)、斬新な軽SUVの提案をしてくれるだろう。
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