フェラーリ365GT4 2+2はお買い得? それとも地雷?
クラシックカーだろうと、あるいは通常の中古車だろうと、たとえ安価であっても不用意に手を出すべきではないクルマが、たしかに存在することはご存知のとおりです。2024年6月12日、RMサザビーズ欧州本社は、その本拠のあるロンドンからほど近い壮麗なホテル「クリブデンハウス」を会場として、「Cliveden 2024」オークションを開催しました。その175点におよぶ出品ロットのなかには、これまでAMWにおいても、価格は安くとも手強いクルマの代表格としてしばしば取り上げてきたフェラーリ「365GT4 2+2」も含まれていたのです。今回は、そのモデル概要を今一度おさらいするとともに、注目のオークション結果についてお伝えします。
5億8200万円! 本物のフェラーリ「365GTS/4スパイダー」は別格でした。クラシケ認定の有り無しで跳ね馬の価値は大きく変わります
ドルチェ・ヴィータの魅力を湛える、実用的なV12フェラーリとして誕生
V型12気筒エンジンを搭載した4シーター・グランドツアラーの魅力は、ある種のニッチなエンスージアストにとってたまらないものであることが証明された。イタリアらしい華やかさとスポーツカーらしさ、そして実用的な室内レイアウトの機能性を求める人々にとって、フェラーリ「365GT4 2+2」は、ファミリーユースにも供用できる「やや」実用的なV型12気筒GTの代表格。そしてイタリア式「ドルチェ・ヴィータ」の世界観を、1970年代に継承するフラッグシップでもあった。
1972年のパリ・サロンにて、本格的4シーターGTとして誕生した365GT4 2+2は、前任にあたる「365GTC/4」の2500mmから2700mmまで延長されたホイールベースを活かしたフル4シーター。スタイリングはフォーマルなノッチバック型とされ、類まれなエレガンツァと高い実用性を両立したモデルである。
ボディデザインを指揮したのは、当時ピニンファリーナに所属していた名スティリスタ(スタイリスト)、レオナルド・フィオラヴァンティとされている。そして、彼が今なお自身の傑作と称するピニンファリーナ製クーペボディは、同時期のピニンファリーナ作品であるフィアット「130クーペ」やロールス・ロイス「カマルグ」などを経て、アルド・ブロヴァローネやパオロ・マルティンら、ピニンファリーナの名だたるスタイリストたちとともに構築したデザイン哲学を反映したものといえよう。
そのかたわらV12エンジンは、365GTC/4譲りの4カムシャフト・4390ccとされ、最高出力は340psを発生。メーカー公表値の最高速度は245km/hと、当時の4シーターGTとしてはまずまずの性能であり、長距離ドライブも快適かつスタイリッシュにこなせる、当時の世界最上級プレミアムグランドツアラーとして位置づけられた。
また、オートマチック式トランスミッションを初めて搭載した量産フェラーリとして知られている後継モデル「400」とは異なり、365GT4 2+2には5速MTのみが組み合わされ、マラネッロがこのモデルを400系に置き換えるまでに、およそ525台が生産されたと考えられている。
現在の実勢価格はリーズナブル、でもオーナーの経験と覚悟が必須条件
このほどRMサザビーズ「Cliveden 2024」オークションに出品されたフェラーリ365 GT4 2+2は、シャシーナンバー「17545」。1973年末に、当時のフェラーリ英国総代理店「マラネッロ・コンセッショネアーズ」と、そのパートナーディーラーであるロンドンの「H.Rオーウェン」を経由して英国在住のオーナーに納車されるために注文されたものである。
車両に添付されるファイルで閲覧可能な、オリジナルのファクトリーオーダー書類コピーで確認できるように、この365GT4 2+2は「グリジオ・アルジェント(シルヴァーグレイ)」のボディカラーに、ダークブルーの本革インテリアの組み合わせで製造されたとのこと。さらに、フェラーリS.p.A発行の納品証明書によれば、1974年1月までに英国に到着したことが記されている。
1978年までに、このフェラーリはウェールズのカーディフに住むC.D.ヤップという人物によって保有。「383 YNY」のナンバーで登録され、その後1980年代に、ミスC.ボディなる女性オーナーのもと「CDT 400T」として登録されたとの記録が残る。
そののち、シャシーナンバー17545は1997年に某オークションで落札され、その時点では黒ボディに「マグノリア(クリーム色)」のレザー内装が施されていたのだが、それは1980年代後半にレストアされたときに仕立て直されたものと考えられている。またこの時点では、イギリスのプレート「24 NYB」で登録されていた。
その後、このフェラーリはギリシャに運ばれ、アテネの「ヘレニック・モーター・ミュージアム」の展示車両群にくわわったのち、現オーナーのもとに譲渡。そして今回のオークションに出品された。エンジンは現時点でも始動可能ながら、走行前には機械的な点検と整備が必要とのことだった。
今回はリザーヴなしで出品
このフェラーリ365GT4 2+2について、RMサザビーズ欧州本社は6万~7万英ポンド(約1182万円~1379万円)という、昨今のこのモデルとしては悪くないエスティメート(推定落札価格)を設定。さらにこの出品ロットについては「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うことを決定した。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、確実に落札されることから会場の購買意欲が盛り上がり、エスティメートを超える勢いでビッド(入札)が進むこともあるのがメリット。しかしそのいっぽうで、たとえ出品者の意にそぐわない安値であっても落札されてしまう落とし穴もある。
そしてこの日のオークションでは、リスクを冒したことが裏目に出てしまったようで、終わってみればエスティメート下限を大幅に下回る3万6800英ポンド、日本円に換算すれば約730万円という、出品者側からすれば不本意だったであろう落札価格で、競売人のハンマーが鳴らされることになったのだ。
RMサザビーズの公式ウェブカタログでは「次の冒険のためにスタイリッシュなグランドツアラーをお探しの方にも、希少性を増しつつあるフェラーリをお探しの方にも、365GT4 2+2は多くの方を魅了することでしょう」という、かなり楽観的なPRフレーズが記されてはいたものの、この落札価格こそがマーケットの回答と見るべきだろう。
右ハンドルであることは、バイヤーたちの嗜好によっては「希少性」と置き換えることもできよう。でも、これからメカニカルな部分で大規模なメンテナンスが必要な365GT4 2+2であれば、完調に走らせるためには1000万円単位の出費があっても不可解なことではない。
そして、新オーナー自身がフェラーリないしはイタリア製クラシックスーパーカーに対する豊富な経験を有し、しかも常に対処してくれるスペシャルショップが身近にあるという条件を満たさない限り、365GT4 2+2は安易に手を出してよいフェラーリではないと思うのである。
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