毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回は日産 スカイラインクロスオーバー(2009-2016)をご紹介します。
文:伊達軍曹/写真:NISSAN
■スカイラインの名を纏った上級クロスオーバーSUV
日本車としては珍しい「FRプラットフォーム採用の高級クロスオーバーSUV」として2009年に登場。
しかし当の日産はあまり売る気がなかったのかどうか、ろくな販促活動も展開されないまま2016年途中、静かに消えていった隠れ名車。それが日産スカイラインクロスオーバーです。
海外における日産の高級車ブランド、インフィニティのモデル「EX35」にスカイラインの名を冠する形で登場。他のスカイラインシリーズとエクステリアの部品で共有しているのはウインカーのレンズのみだった
この車、日本での車名には「スカイライン」と付いてますが、もともとは北米で「インフィニティEX37」との車名で2008年に販売されたものです。
ご存じとは思いますが、インフィニティというのは北米市場での日産の高級車ブランドです。
V36型スカイライン(先代の日産スカイライン)と同じFR-Lプラットフォームに載せられたエンジンは、同時期のフェアレディZにも搭載されていた「VQ37VHR型」という最高出力330psの3.7L V6。
そこに組み合わされたトランスミッションは、MTモード付きの7速ATです。駆動方式は前述のとおりFRが中心でしたが、電子制御トルクスプリット四輪駆動システム「アテーサE-TS」を採用した4WDも用意されました。
もともとはインフィニティブランドとして販売されていたクロスオーバー車だけあって、スカイラインクロスオーバーはインテリア全般の高級感も十分というか、十分以上。
そして居住性は良好で、リアシートのアレンジも簡単。後席のバックレスト(背もたれ)はワンタッチのリモコン操作で倒したり起こしたりすることができました。
ゆったりとしたロングアームレストなど、扱いやすさを重視してデザインされたインテリアは高級グレード「インフィニティ」の名に恥じない上質なものだった
サスペンションは他のスカイラインシリーズ同様の前ダブルウィッシュボーン/後マルチリンク式ですが、味付けはセダンやクーペよりややエレガント。
しっかり引き締まった味わいのなかに快適さもあるという、なかなかのモノだったのです。
そんなこんなで、今にして思えば「けっこう売れそう」にも思えるスカイラインクロスオーバーでしたが、販売台数的には最後まで低空飛行が続きました。
そのため前述のとおり2016年途中――具体的には同年5月に生産終了となり、翌6月には販売終了となったのです。
■スカイラインの名を纏ったからこその低迷だったのか
スカイラインクロスオーバーが1代限りで販売終了となった理由。それは要するに「売れなかったから」なのですが、それではなぜ、売れなかったのでしょうか?
前章で考察したとおり、そのスペックは今にして思えば「けっこう売れそうな感じ」であったにもかかわらず。
外装色はスパークリングロゼシルバーを含む全7色のボディカラーを設定。アラウンドビューモニターや現在の「LKA」の先駆けとなる「レーンデパーチャープリベンション(車線逸脱防止支援システム)」など、多くの先進装備を採用された
よく言われているのが、まずは「3.7Lという排気量がいけなかった」という意見です。自動車税が無駄に高くなるため敬遠された、と。
これは確かにそのとおりでしょう。
また「車両価格が高すぎた」という声も聞きます。スカイラインクロスオーバーの新車時価格はFRが420万~472.5万円で、4WDが447.3万~499.8万円。
要するに総額500万円または500万円超級の車ということですので、確かにちょっと高すぎたのかもしれません。
しかしそれだけでは、このなかなか悪くないクロスオーバー車がぜんぜん売れなかった理由を完全に説明することはできません。
なぜならば同時期、3.6L V6を積む1000万円超級の先代ポルシェ カイエンはバンバン売れてましたし、排気量はちょっと違いますが、800万円超級だった先々代BMW X5の「xドライブ35i」もよく売れていたからです。
しかしスカイラインクロスオーバーは例えば2013年、わずが447台しか売れませんでした。
高級材 カーリーメイプルを本木目フィニッシャーに採用したブラウン内装。この他アルミフィニッシャーでスポーツテイストを表現したブラック内装があった
結局のところ――これは筆者の推測に過ぎませんが――「スカイライン」という名称のバリューを日産が過信したことが、スカイラインクロスオーバーという車がぜんぜん売れなかった最大の理由だと思っています。
「本当なら日本でもインフィニティブランドを使いたいけど、そうもいかないからとりあえず“スカイライン”って付けとくか。そうすれば、『昔からみんな大好きなスカイライン』だから、特に宣伝費使わないでもぼちぼち程度は売れるだろ」
日産の担当者がそう思ったかどうかはわかりませんが、これに近いニュアンスの思考行程はあったはずです。
しかし残念ながら2009年から2010年代前半にかけての日本では、「スカイライン」という言葉にもはや神通力はありませんでした。
とはいえ繰り返し述べてきたとおり、スカイラインクロスオーバーことインフィニティEX37は「悪くないクロスオーバー車」ではありましたので、しっかり宣伝すれば、まあまあぐらいは普通に売れたはずです。
そういった宣伝活動をしてくれなかったことが、この車にとっての不幸でした。
■日産スカイラインクロスオーバー 主要諸元
・全長×全幅×全高:4635mm×1800mm×1575mm
・ホイールベース:2800mm
・車重:1740kg
・エンジン:V型6気筒DOHC、3696cc
・最高出力:330ps/7000rpm
・最大トルク:36.8kgm/5200rpm
・燃費:9.7km/L(10・15モード)
・価格:472万5000円(2009年式370GT タイプP)
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