最近、トヨタがランクルプラド、プリウス、C-HRにグリルからアルミホイールまで「全身黒ずくめ」の3つの特別仕様車を立て続けに設定。
そして6月24日に発表されたマセラティギブリ・フラグメント・オペラネラは、ファッションデザイナーでストリートファッション界のカリスマである藤原ヒロシとマセラティがコラボレーションして誕生したもので、これもまた全身黒ずくめの限定車だった。
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なぜここまで黒くするのか? かつてラッピングが流行し、マットブラックのメルセデスAMGやゲレンデヴァーゲンを街でよく見かけたものだが、今こうした全身ブラックのクルマが流行しているのだろうか、モータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説する。
文/岩尾信哉
写真/トヨタ、メルセデス・ベンツ、BMW
【画像ギャラリー】時代の最先端!? 限定車ブラックエディションの世界
■日本ではいまだに白、黒、シルバーが人気のボディカラー
よく世間で聞かれるのは、「不景気にはモノトーンが流行する」という話だが、インターネット上の情報を調べてみると、世界的にマーケットの人気があるボディカラーは2020年では1位がホワイト、2位がブラック、3位がグレー、4位がシルバーといったところ。
日本も同様で、グレーとシルバーの順位が入れ替わる程度の差でしかなく、いっぽうで欧州ではグレーとホワイトが約4分の1ずつでトップを争い、ブラックがこれに続いているようだ。
2020年7月に欧州トヨタが発表したRAV4ハイブリッドブラックエディション
最近のトヨタが打ち出してきた“真っ黒”仕様車の端緒は、意外にも欧州での特別仕様車だったかもしれない。欧州トヨタはEU域で販売されているRAV4ハイブリッドの「ブラックエディション」を発表した(2020年7月発売の受注生産車)。
具体的には、フロントのグリル周りやバンパー、ドアミラーやリアガーニッシュ、スポイラーをオールブラックで仕立て、19インチアルミホイールもブラックで仕上げられていた。
ランドクルーザー70周年を記念して2021年6月に設定されたランドクルーザープラド TX“Lパッケージ・70th ANNIVERSARY LIMITED”
そしてなにより、今年6月に入って3つの特別仕様車が一気に3日連続で投入されたことが注目される。まずは6月1日、ランドクルーザープラドに「TX Lパッケージ・70th ANNIVERSARY LIMITED」が設定された。
このランドクルーザーの70周年記念車には、外装に2020年8月に発売された特別仕様車「ブラックエディション」(グレードは共通のTX Lパッケージ)を基本として、黒色のメッキグリル&ヘッドランプガーニッシュの加飾や専用ブラック塗装の18インチアルミホイールなどを装備。
70周年記念車としては、ホワイトなどの計5色のボディカラーを用意する。シート表皮にはブラウンのサドルレザーなどを改めて設定した。70th ANNIVERSARY LIMITED(ベース車両はTXの2.7L、直4ガソリンと2.8L直4ディーゼル、5/7人乗り)。価格は429万~511.8万円となっている。
プリウス S”ツーリングセレクション・Black Edition”
続いてトヨタは、6月3日にプリウスの特別仕様車「Aツーリングセレクション」と「Sツーリングセレクション」にブラックエディションを、さらに同4日にC-HR “Mode-Nero Safety Plus II”」を発売した。
このうち、見た目としてのインパクトがあったのはやはりプリウスではないだろうか。この“ブラックプリウス”のボディカラーは、メインとなる特別色の“プレシャスブラックパール”のほか、2トーン2色を含む全6色を用意。
ブラック仕立ての17インチアルミホイールを与え、内装にダーク基調のセンタークラスター・インパネオーナメント、サイドレジスターベゼルなどを備えて、独特なイメージを施している。価格は294万7000~341万4000円(税込み)。
C-HR G“Mode-Nero Safety Plus II”
いっぽう、C-HRの“真っ黒仕様車”はカスタマイズモデルの影響なのかどこか見慣れている感覚があるとはいえ、GとG-Tをベースとした特別仕様車である“モードネロセーフティプラスII”にブラック基調の内外装を設定して発売した。
特別色のスパークリングブラックパールクリスタルシャインをボディカラーに設定したうえで、マットブラックの塗装とダークスモーク仕立てのメッキナットを組み合わせた18インチアルミホイールを装着。ブラックの専用シート表皮などが与えられ、価格は271万5000~304万5000円。
■なぜ全身黒ずくめの3車種を矢継ぎ早に発売したのか、トヨタ広報部に聞いてみた
なぜ矢継ぎ早に全身黒ずくめの特別仕様車を発表したのか、トヨタ広報部に聞いてみた。
「今回ブラックの特別仕様車が続きましたのは、偶然です。特筆すべきことがなく恐縮です」とのことだった。
ちなみに、参考までに、各モデルの人気カラーは以下のようになる。
■ランドクルーザープラド
1位:ホワイトパールクリスタルシャイン
2位:ブラック
3位:アティチュードブラックマイカ
■プリウス
1位:プラチナホワイトパールマイカ
2位:アティチュードブラックマイカ
3位:シルバーメタリック
■C-HR
1位:ホワイトパールクリスタルシャイン
2位:ブラックマイカ
3位:ブラック×ホワイトパールクリスタルシャイン
※2021年1~4月
このデータを見ればわかる通り、ほぼ見事に白黒のラインナップになっていて、なんともコンサバではあっても、黒のボディカラーによる販売訴求は堅いビジネスということになる。
加えて「一般的な話として、黒や白は日本人には受け入れられやすいカラーのようで、それは先の3車種の人気カラーに、まさに表れているかと思います」(トヨタ広報部)とのこと。
また「ブラックでコーディネイトすることによって、スポーティさ、スタイリッシュさが向上し、特に若年層のお客様を中心に、好評をいただけるようです」(同)というのは、特別仕様車の買い得感なども含めて、至極真っ当な話ではある。
■BMWが投入したブラックスペシャル
いっぽう、これらのトヨタのブラックの特別仕様車の設定にどことなく影響を与えているように感じられるのが、ドイツ生まれのプレミアムブランドであるBMWとメルセデス・ベンツ&メルセデスAMGの存在だ。
決して特別仕様車を連発することなく、ほどよいタイミングと限られた数を販売するのは、ドイツ2強の優れたマーケティングのなせる業。高級輸入車ブランドでは顧客に対してカスタマイズが広く効くので、特別仕様車の数は想像するほど多くはない。
BMWは“ブラックエディション”や“ピュアブラック”、“ブラックアウト”の名を与えたブラック仕様の特別仕様車を登場させることを見ても、ブラックの特別仕様車を販促素材として巧みに活用している。
2020年11月、オンラインで10台限定販売されたBMW 118dピュアブラック
最近登場して完売となった特別仕様車を見ると、2020年11月にBMWオンラインストアにて10台限定で販売された、内外装をブラックで仕立てた「118dピュアブラック」は、ボディカラーにサファイアブラックを選定。ハイグロスブラック仕上げのキドニーグリル/バーやブラッククローム仕上げのテールパイプを与えていた。
2019年9月のフランクフルトショーに出展されたBMW X6のコンセプトカー。地上で最も黒いといわれるベンタブラックは光をほとんど反射しないため、もはや色として認識するのが困難だ
これはあくまで参考だが、BMWは過去にこれぞ本物の「ブラック仕上げ」といえるコンセプトカーを仕立てている。
ナノレベルの超微細なカーボン素材で覆われた「ベンタブラック」と呼ばれる、まさしくスペシャル素材で仕立てられたBMW X6は、2019年9月のフランクフルトショーで披露された。
このモデルに施されたベンタブラックコーティングは、世界で最も黒く、可視光の99%以上を吸収し、ほとんどすべての反射を除去するとされ、ボディ表面は、人間の目には明確な特徴を失い、2次元に見えるとされ、まさに吸い込まれるような“漆黒”に仕上げられていた。
2021年6月に15台限定で販売されたBMW8シリーズのフローズンブラックエディション
BMWジャパンは直近の6月30日からオンライン限定ストアにて、内外観を漆黒で統一した限定車「8シリーズフローズンブラックエディション」をクーペ(限定5台1500万円)、グランクーペ(限定15台1510万円)で販売した。
このフローズンブラックエディションはBMWのオーダーメイドプログラム、インディビジュアルの高品質ボディカラー、フローズンブラックを身に纏い、キドニーグリルや20インチのMライトアロイホイールをはじめ、ブレーキキャリパーなども漆黒。インテリアも専用のMスポーツシートやトリムなど漆黒で統一を図っている。
■メルセデス・ベンツ&AMGはマットブラックで人気を獲得
以前から「黒ずくめ限定車」の販売実績があるメルセデス・ベンツ。直近ではAMG GTをベースにした限定40台のナイトエディションを2020年8月に発表した
メルセデス・ベンツ(特にメルセデスAMG)では、過去には連発ではなくとも気合いの入ったブラック仕様車を登場させており、たとえば、メルセデスとメルセデスAMGともにブラック仕様の「ナイトエディション」を積極的に設定してきた。
2020年8月に発表した「GT」「GTロードスター」をベースとしたモデルでは、内外装をブラック基調として統一。カーボンファイバールーフ(クーペのみ)やマットブラックペイントのアルミホイールなどを採用したモデルだった。
ボディカラーはクーペ専用に「オブシディアンブラック」(クーペとロードスターにはグラファイトグレーマグノを設定)を用意したうえで、内装色はブラック、インテリアトリムはピアノラッカーの組み合わせで、ダイヤモンドステッチ入りのナッパレザーシートを含むフルレザーパッケージが採用されていた。全国 限定40台(クーペ合計35台、ロードスター5台)だった。
ベンツGLCの特別仕様車「ナイトエディション」。ベース車はGLC 220d 4MATIC
メルセデス・ベンツブランドとしては同時期の2020年8月に、「GLC 220d 4MATIC」に特別仕様車として「ナイトエディション」を発売した。
ボディカラーにオブシディアンブラック(とダイヤモンドホワイト)を用意。オプションの“AMGスタイリングパッケージ”をベースに、 通常シルバー加飾となるフロントグリル/スポイラー、ウィンドウモール、リアバンパー、ルーフレールなどにブラックカラーを施している。
これにハイグロスブラックペイントの19インチツインスポークアルミホイールを採用。インテリアにも通常モデルには未設定のブラックレザー表皮シートやトリムにもブラックアッシュウッドなどを採用した。
ちなみにメルセデスではダーク仕上げのヘッドライトやテールランプ、ウインカーレンズをはじめ、ブラック仕上げの前後バンパーやスペアタイヤカバー、サイドスカート、アンダーボディプロテクションなど、「ナイトパッケージ」というパッケージオプションを用意している。
■全身黒ずくめが流行の最先端であることを裏付ける藤原ヒロシ氏によるマセラティギブリ フラグメント
マセラティの限定車「ギブリフラグメント」。ストリートファッション界のカリスマ、藤原ヒロシ氏が手がけた珠玉の1台
6月24日、マセラティジャパンは、ストリートファッションの巨匠として世界的に知られる藤原ヒロシ氏とマセラティのコラボレーションによって生まれた限定車「ギブリフラグメント」を発表した。
黒(オペラネラ)と白(オペラビアンカ)の両モデルが用意され、全世界で175台、日本ではオペラネラが36台、オペラビアンカが4台販売される。価格はいずれも1425万円。
このギブリフラグメントを手がけた藤原ヒロシ氏はデザイン集団「Fragment Design」を主宰し、世界のさまざまなブランドやアーティストとコラボレーションしてヒット作を生み出しているのでご存知の方もいるだろう。
その藤原ヒロシ氏が全身黒ずくめ(白ずくめもあるが)に目を付けたということは、やはり全身黒ずくめのクルマが流行の最先端であることを裏付けているのではないだろうか。
■まとめ
いわゆる艶消しのマットブラックは、フルラッピングにより、ランボルギーニやフェラーリなど、スーパーカーのマットブラック仕様が10年ほど前から流行しているが、メーカー純正としては全身黒ずくめ仕様がこの3年で急激に増えている。特にBMWやメルセデス・ベンツが顕著で、明らかに欧州発。相当人気が急上昇しているとみた。
今後はSUVを中心に全身黒ずくめの特別仕様車が増えていくだろう。筆者はすべて黒黒なので、夜、対向車や歩行者はさぞや視認性が悪いのではないかと心配になるが、いかがだろうか……。
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「暑い」を通り越して「熱い」。黒い革シートなんて、もう〜最低最悪。