■賛否両論からスタートしたポルシェのSUV
ポルシェが新たな市場開拓のため、2002年に投入した「カイエン」は、賛否両論を巻き起こしました。孤高のスポーツカーブランドであるポルシェには、車高の高いSUVモデルは必要ないとするコンサバ派と、ポルシェといっても一大ムーブメントであるSUVを投入して経営基盤を強化すべきだとするプログレッシブ派に別れたのです。
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ポルシェが世界デビューさせたカイエンは、大成功を収めました。販売台数は100万台に達する勢いです。911しかポルシェを知らない人々にも、あらたなポルシェワールドを提供したのです。デビュー当初は、SUV版ポルシェを否定していたコンサバ派も、いまでは口をつぐんでいるようです。
そのカイエン、今では3タイプのモデルが日本に輸入されています。「カイエン」「カイエンS」「カイエンターボ」がそれです。弟分のカイエンはV型6気筒3リッターターボエンジンを搭載し340psを発揮します。兄貴分のカイエンターボはV型8気筒4リッターツインターボで550psを絞り出します。今回試乗したカイエンSは、V型6気筒2.9リッターツインターボで440psを発揮、三兄弟の中でもっともバランスのされたモデルというべきかもしれません。
ただ、バランスがとれたモデルといっても、他メーカーのSUVが一般的にそうであるように、乗用車風の走り味ではありません。「セダンより広く、バンよりも乗り心地がいい」というSUVとは一線を画すことに疑いはありません。SUVは今では通勤や買い物にとても便利なクルマとして認知されていますが、カイエンSをそれと同等に考えるのは過ちだと思います。(実際にはカイエンSを通勤や買い物に活用している裕福な方も多くおられますが・・・)
カイエンはポルシェなのです。スポーツ度はとても高いですから、できれば長距離旅行やワインディングや、あるいはサーキットに持ち込んでその性能の高さを味合うのはカイエンらしい使い方と言えるかもしれません。
エンジンはたしかに強力です。車重が重いので、軽快に加速するのではなく、まるで巨象が突進するように豪快に加速するのです。鉄の塊が突き進む姿は、恐怖感すら覚えるほどです。サウンドも勇ましいので、とくに威圧的に感じるのでしょう。
■そのスペックは狂気の沙汰!カイエンはSUVスポーツカー!!
走り味も巨象のようです。太い大径タイヤをドタバタとさせて走ります。駆け回る巨象にのった経験はありませんが、イメージとしてはそれなのです。塊感は桁外れなのです。
メーカーが公表した資料によると、最高速度は265km/hに達し、停止した状態から一気に加速すると、わずか5.2 秒で速度計の針が100km/hに達します。265km/hに達するのは、スポーツカーであっても稀です。2トンを超える巨象が5.2秒で加速するなど、狂気の沙汰ですね。そう、それがポルシェなのです。
冒頭で、ポルシェがSUVに参入することを否定する人たちがいたことを伝えました。そしてその方々が口をつぐんだことも報告しました。その理由は、販売が好調だったからではなく、SUVとなってもスポーツカーメーカー「ポルシェ」のテイストを失っていなかったからなのです。
カイエンSにはいまだにスターターボタンがありません。ステアリングコラムの脇にあるイグニッションスイッチを捻ることで火が入るのです。かつては常識だったそのイグニシッションキースタイルは、時代の流れによっていまではほとんど見かけることがありません。ですがポルシェはいまだにその旧式のスタイルを守り通しています。
なぜでしょう。
イグニッションキースタイルのそれは、かつてポルシェがル・マン24時間レースに参戦していたときに、ル・マン式スタートを有利にするための細工だったのです。いまではポルシェはル・マン24時間には参戦していませんが、その名残を伝統として受け継いでいるのです。
つまり、ポルシェはSUVになってもスポーツカーメーカーですよという誇りとメッセージなのです。だから走りは巨象が突進するように激しいことに納得するのです。
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