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著者 :松村 透
なぜ、メーカーの認定中古車は割高なのか?その疑問に迫ってみた
「プラレール号」こと、1970年製のポルシェ911と暮らしている筆者ですが、こんなディープな世界にハマるにはそれなりのきっかけがありました。今回はそのことについて触れてみます。
私がポルシェ911に興味を持ったのはバブル絶頂期。もう30年も前のこと。いわゆる「タイプ964」が現行モデルだった時代です。
■とある自動車雑誌の長期レポートの記事がすべてのはじまり
とある自動車雑誌の長期レポートの枠に、編集者の方が手に入れたという、新車(!)の964ターボの記事を見つけたことが原点だったといえます。
「ポルシェの神様」と呼ばれていたメカニックの方とのエピソードや、マフラーのテールパイプ真っ白にする乗り方、慣らし運転ひとつでエンジンのコンディションやパワーに差が出る…等々。他のクルマ雑誌では読んだことがないエピソードが満載だったのです。街中でポルシェを見掛けたことはあっても、当然ながら乗ったことはもちろん、触れたことだって1度もありません。どういったことなのかを知りたくても、現在のようにインターネットで簡単に調べられる前の時代。周りに教えてくれる人もいません。
何とかしてポルシェに触れてみたいと思い悩む日々が続きました。そんなある日、いまでも付き合いのある幼なじみが「地元の酒屋の社長さんがポルシェ持ってるよ」と教えてくれたのです。あとで知ったことですが、この社長さんが所有していたのは930型の真っ白な1984年式の911カレラ。結局、1度も見ることはできませんでしたが、コンクールコンディションと呼べるほど美しく磨き上げられた個体だったと聞いています。
■ポルシェ911を所有する社長さんのお店でアルバイトとして採用される
その幼馴染みは前述の酒屋さんでアルバイトをしていて、仕事のあとにときどき社長さんのポルシェに乗せてもらっているとのこと。そこで幼馴染みに頼み込み、社長さんを紹介してもらいました。その後、ご縁あって、この酒屋さんでアルバイトとして採用してもらえることとなったのです。
「これでついにポルシェに乗せてもらえるかもしれない…」。そんな淡い(邪な?)期待を抱いていた矢先、アルバイト先の社長さんがそれまで乗っていた'84カレラを手放してしまったのです。その代わり、後期モデルとなった964型のカレラ2を買うから、今度ディーラーに行くから一緒に来る?と誘ってもらったときは、さすがに冗談だろうと思いきや…。
■人生初のポルシェディーラー体験
それから数日後、日曜日のことです。社長さんから「いまからディーラーに行くよ」と連絡があり、本当に連れて行ってもらえることになりました。その日の朝まで夢にも思わなかった、当時の正規ディーラーへ行くことになったのです。人生初の「ガイシャディーラー」がよりにもよってあのポルシェとは…。そもそも、自動車ディーラーにもほとんど行ったことがなかったので(当時は高校生)、それがいきなりポルシェとは。一体どんな服装で行けば良いのだろう。当時流行っていた紺ブレ(懐かしい)を着た方がいいのかな…等々、外出時に着ていく服にこれほど悩んだことはいまだにありません。
社長さんの普段の足であったクラウン マジェスタ(懐かしい!)に乗せてもらい、ディーラーに到着すると、敷地内はポルシェであふれています(当たり前ですが)。街中でときどき見掛けるようなポルシェが、ここには3,40台単位で置かれているのです。到着する前から分かってはいたんですが、耐性ほぼゼロの高校生の身には情報過多すぎました。頭がくらくらしつつ、おそるおそる店内へ。とんでもなく豪華な店内かと思いきや、意外にもシンプルかつクラシカルな印象のショールームのたたずまいに、少しだけほっとしました。
アルバイト先の社長さんとガッチリとした体型のセールス氏が談笑している隣で、私はほぼフリーズ状態。妖艶なショールームレディが差し出すディーラー物(?)のコーヒーを出されても、味わう余裕なんてまったくありません。そもそも高校生でブラックのコーヒーなんてほとんど飲んだことないし、どうすりゃいいの。なにしろいま自分がいるのは誰が見てもポルシェのショールーム。本来であれば、自分のような子どもが入ることのできない場所です。ふと、外を歩く人の視線を痛いほど感じました。コイツはイイトコのボンボンなのかと(笑)。いえ違うんです。誤解しないでください。
■初911のボディカラーはルビーストーンレッド
そのうちセールス氏が「せっかくだからポルシェ乗ってみる?」と促してくれたのです。ああ、ついにこのときが来たか。とうとう憧れのポルシェに乗れる。デモカーの仕様はいまでもはっきりと覚えています。1992年式の911カレラ2(964)MT。ボディカラーはルビーストーンレッド。992型では「ルビーレッドネオ」といったボディカラーも用意されていますね。こんなボディカラーのポルシェを颯爽と乗りこなす女性がいたら、目で追ってしまいそうです。
繰り返しますが、何しろまだ高校生。運転免許はありませんからもちろん運転はさせてもらえません。一緒に連れて行ってもらっていた幼馴染みとじゃんけんした結果、私は911の「あの後部座席」に座るはめになりました。ドアノブに手を掛けて開けた瞬間、まるで金庫のドアを開けたかのようなガッチリとした手応えに驚きました。ドアを閉めてみると、勢いが足りなくて半ドアに。そこで今度は思い切り閉めたみたら、クルマが横揺れしそうなほどの勢いになってしまいました。素人丸出しです。
ドライバーはディーラーのメカニック氏。「では、行きまーす」といいつつ、ひょいと左足を上げてクラッチミートしたかと思いきや、ものすごい勢いでディーラーを飛び出していきます。
背後で吠える空冷フラットシックスエンジン。横断歩道のわずかな段差がはっきりと伝わってくる乗り心地。いままでに乗せてもらった、どのクルマともまったく違うフィーリングに一瞬で魅せられてしまいました。まさに自分自身のその後の人生が決まった瞬間です。その後、ブレーキテストを兼ねて、交通量の少ない場所でABS体験。1○0km/hまで急加速後に、ブレーキペダルを蹴飛ばす勢いでフルブレーキ。後部座席に座っていた私は、そのあまりに勢いに助手席のシートの背面に頭をぶつけたのです。まさに噛みつくように効くブレーキ。これがポルシェなんだ。これが911なんだ。
何もかもが異次元の体験でした。あれから30年以上経ってもこれほど鮮明に覚えているくらいですから、これは一生忘れないかもしれません。多くの方を取材して思うのは「原体験でその人のカーライフが決まる」というもの。まさに私にとっての原体験がこのテストドライブであったことは間違いありません。しかし、まさかこのときの体験をこうして記事にすることになろうとは。
ポルシェ初ドライブの記念にと、セールス氏から当時のラインアップのカタログをいただきました。併せてプライスリストも。見てみると、911のなかではもっとも安いカレラ2(MT)でも軽く1,000万円オーバー。あれこれとオプションを追加していったら、あっという間に1,200~1,300万円の世界です。いったい、何をどうやったらこんな高額なクルマが買えるのよ。その日の晩、枕元にポルシェのカタログを置き、途方に暮れながら何度も何度も読み返した記憶があります。
そして後日、社長さんの964カレラ2のおおよその納車日が決まりました。自分のクルマでもないのに、わくわくしたことを思い出します。
■社長さんのニューマシンの納車に立ち会う
そしてある熱帯夜の夏の夜、ついにその日がやってみました。私が偶然アルバイトとして出勤していた日に、純白の911がやってきたのです。
覚えている限りの仕様は、
・1992年式ポルシェ911カレラ2(MT)
・色:グランプリホワイト
・内装:ブラックレザー
・スポーツシャーシ
・スライディング・ルーフ
・17インチカップホイール
・オンボードコンピュータ
・リアワイパーレス
こんな感じだったと思います。まさにいまでも人気の高い仕様です(果たして、この個体は日本にあるのでしょうか)。
さっそく試運転とのことで、助手席に乗せてもらいました。独特の内装の匂い。張りのあるシート。フロアマットには汚れひとつありません。ああ、どうやったら自分もこのクルマが買えるようになるんだろう…。身の程知らずもいいところです。
これが原体験となり、その後の人生を大きく変えてしまうとは…。このときはまだ気づいていないのでした。
[画像・Porsche/撮影&ライター・松村透]
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みんなのコメント
「カトーオートテクノロジー」だね。「パラノイア」にもよく行ったな。
>マフラーのテールパイプ真っ白にする乗り方
40キロ前後の市街地走行の時、車速を下げる時に普通アクセルをオフにするが、アクセル開度はそのまま、左足でブレーキを強く踏んでいって車速を下げることで排気温度を高温に保ってススを出さない乗り方。必死に練習したものだったよ。
そういやシフトアップの時にもアクセルを戻さなかったのは、戻しちゃうと回転の落ちが速すぎて変にギクシャクしちゃうんでね、それほど加藤さんの組んだエンジンは凄かったんだよ。