2台に共通する品質と快適性
当記事の目的は、同じメーカーの2台を同条件で試乗して、各車の個性を明らかにすることです。今回の素材は、日本では2024年1月に発売が開始された、トライアンフの「モダンクラシック」シリーズに加わった排気量400ccの単気筒車で、オンロードスポーツの「スピード400」と、悪路走破性を意識した「スクランブラー400X」の2台です。じっくり乗って比較してみました。
【画像】「超カッコイイ!」トライアンフ新型400cc単気筒2モデルを画像で見る(14枚)
本題に入る前に概要を説明しておくと、兄弟車として開発された2機種のトライアンフ製400cc単気筒車は、エンジンやフレームを含めて、ほとんどの部品が新規開発で、生産はインドのバジャジオートが担当しています。
なお、インド生産と言うと世の中には品質に疑問を抱く人がいるようですが、実際にこの2台に接した私(筆者:中村友彦)は、兄貴分の900/1200ccツイン車に勝るとも劣らないクオリティを実現している……と、感じました。
改めて考えると、バジャジオートは年間300~400万台を生産する超巨大2輪メーカーで、十数年前からはKTM・ハスクバーナの公道用アンダー400ccモデルを製造しているのですから、それはまあ当然のことでしょう。
そして品質に加えて、2台のトライアンフ製400cc単気筒車で私が大いに感心したのは、あらゆる場面に対応できるフレキシブルな特性と、自由度が高くて身体のどこにも負担がかからないライディングポジションです。
近年の400ccクラスでは、エンジンや足まわりに物足りなさを感じたり、長距離走行時に予想以上の疲労を感じたりすることが少なくないのですが、両車を乗り換えつつ丸一日をかけてさまざまな場面を走った私は、ほとんどストレスを感じませんでした(フロントブレーキタッチはもう少しダイレクト感が欲しいけれど、慣れで対応できるレベル)。
ただし2台のライディングポジションは別物で、コンパクトにまとまっている「スピード400」と比較すると、「スクランブラー400X」は大柄、と言うか、大らかです。とはいえ、状況に応じて着座位置を変更できることや、ロングランも腕や尻や足腰などに妙な痛みや違和感が発生しないことは、両車に通じる要素だったのです。
ちなみにメーカー希望小売価格(消費税10%込み)は、「スピード400」が72万9000円、「スクランブラー400X」が81万9000円です。
どんなライダーに、どちらが向いているのか
そんなわけで、2台のトライアンフ製400cc単気筒車に好感を抱いている私ですが、どちらが自分の好みに合っているのか、そしてどんなライダーにどちらが向いているのかと言うと、なかなか表現が難しいところです。
もちろん足まわりの構成やライディングポジションで判断するなら、「スピード400」は市街地や峠道、「スクランブラー400X」は悪路やロングランに適しているのでしょう。
また、車重/シート高/軸間距離に注目すると、「スピード400」は170kg/790mm/1377mm、「スクランブラー400X」は179kg/835mm/1418mmですから、小柄な人には「スピード400」、大柄な人には「スクランブラー400X」が向いている、と言えなくはありません。
ちなみに、身長が182cmでロングランが大好きな私が最初に自分の好みだと感じたのは「スクランブラー400X」の方でした。アイポイントが高くて視界が広く、豊富なサスペンションストロークのおかげで乗り心地が良好で、フロント19インチタイヤならではの悪路走破性と穏やかなハンドリングが実感できるこのモデルは、事情を把握していない道を走るツーリング試乗では、相当に使い勝手がよかったのです。
サスペンションストロークを比較すると、「スピード400」はフロント140mm/リア130mmで、「スクランブラー400X」は前後150mmとなっています。
でもその一方で、私は「スピード400」にも捨て難い魅力を感じました。いや、捨て難いなどという表現は失礼な話で、前後17インチ+小柄な車格ならではの俊敏さやキレ味の良いコーナリグを実感すると、トライアンフ製400cc単気筒の主役は、街乗りや現代的なスポーツライディングが楽しみやすい(サーキットランもイケそう)、「スピード400」の方ではないかと思えてきます。
だから現時点での私は、どちらが自分に向いているかの判断が困難で、こういうライダーにはこちらが向いています……などという安易な発言はできないのです。
いずれにしても2台のキャラクターはかなり異なっているので、どちらかの購入を考えている人は、できれば同条件で2台を比較試乗をした方が良いでしょう。
ステップアップの必然性を感じない?
さて、何だかスッキリしない展開になってしまいましたが、この2機種はどちらも多くの人にオススメしたくなるモデルで、間違いなくトライアンフの支持層拡大に貢献するはずです。
ただし試乗後の私の脳内には、もしかすると「トライアンフにとって罪深いモデルになるのかも?」……という疑念も芽生えていました。
と言うのも、両車を走らせていると、兄貴分に当たる900/1200ccツインにステップアップする必然性をあまり感じないのです。それどころか日本のチマチマした道路事情では、むしろ400cc単気筒車のほうが楽しめるんじゃないか、という気持ちにすらなります。
もちろん、大型車には大型車の魅力があるのですが、ステップアップを想定しているなら、トライアンフはこの400cc単気筒車に「物足りなさにつながる隙(スキ)」を設けるべきだったのかもしれません。
我ながら妙な意見ですが、そんなことを考えてしまうほど、「スピードツイン400」と「スクランブラー400X」は魅力的なのです。
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