1990年代には意欲的な日本製のスポーティ・カーが何台もあった。小川フミオがそれらから印象的な4台をピックアップし、振り返る!
日本の自動車メーカーがエライと思うところは、SUV全盛時代にあっても、クーペやスポーツカーを作り続けてくれている“心意気”だ。趣味性が高いスポーティなクルマの市場占有率はわずか数%といい、開発費が回収できるのか不安になるけれど、乗れば”これはいい”と納得できるクルマが多い。
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すこし過去を振り返ってみても、日本にはスポーティなクルマが多かった。なかでも1990年代には、いまとすこしちがう傾向も。ラグジュリアスな雰囲気のスポーツクーペ(GT)がしのぎを削っていた。いまではドイツ車の独壇場ともいえるセグメントだ(レクサスLCなどは数少ない例外)。
「スポーツクーペこそ、そのメーカーの顔」と、とらえられていたのが、1990年代だ。いまでも欧米ではそのトレンドが残っており、メルセデス・ベンツやBMWはさまざまなモデルを提供してくれている。時代をさかのぼれば、日本にもかなりよいモデルが存在し、いまでも、魅力を失っていない。
(1)トヨタ「スープラ」(4代目)
バブル経済の最後の輝きともいうべきモデルが、1993年に発売された4代目トヨタ「スープラ」だ。ドイツのポルシェ911などのライバルに対するトヨタの回答ともいえるモデルである。
空力特性をあらわすCD値は0.30と、当時としてはかなり低い。それでも、これみよがしなおおげさな空力パーツなどは控えめで(例外は“鳥居”のようなリアスポイラーをそなえた「RZ」)、スタイリングの印象はおとなっぽいともいえる。いまみても好感がもてるたたずまいなのだ。
直列6気筒ガソリンツインターボ・エンジン、前後ダブルウィッシュボーン式サスペンション、高性能ダンパーなどの高性能パーツのてんこ盛り。さらにアクティブスポイラーや、トルセン式LSD、それに大容量ブレーキまで。
このときからトヨタは、ニュルブルクリングの北コースを走りこんでの性能の磨き込みをうたっている。まさに現行スープラの原点といえるモデルだ。
ボディ全長は4520mm。ホイールベースは2550mmに抑え、トレッドはフロントで1520mm、リアで1525mmと、まずまずワイドで、コーナリング性能の高さが大きなセリングポイントだった。
2997cc直列6気筒エンジン(コードネーム「2JZ-GTE」)には“2ウェイツインターボ”なる2基のターボチャージャーを使ったシステムが搭載され、エンジン回転域が低いときは加速レスポンスを向上させる目的で、1基のみが作動した。
もうひとつの「2JZ-GE」はノンターボ(自然吸気ともいう)仕様で、ターボの280ps(当時はこれ以上の数値を掲げることをメーカーは自主規制していた)に対して、225ps。それでも充分いじょうに速かった。
同時にルーフの一部を取り外せる「エアロトップ」なるモデルも設定。ニュルブルクリングなどで鍛えあげたことをうたっていたものの、同時にオープン走行など、エレガントなライフスタイル訴求も行った。まさにドイツの高級クーペをターゲットにしていただけある。
(2)日産「シルビア」(6代目)
1993年に日産自動車が発表した6代目「シルビア」は、先代のキープコンセプトで、すこしだけ快適性重視のGT的性格を強めたモデルだ。
1988年に登場した5代目(S13)が、スタイリッシュなクーペボディと、気持ちのいい走りとで爆発的なヒットとなったのを受けてのフルモデルチェンジだったため、メーカーとしては悩みもあったかもしれない。
スタイリングは、前後長をすこし切り詰めたクーペスタイルのキャビンと、ロングノーズのプロポーションを受け継いだ。そのうえで、エンジンは基本的に踏襲しつつパワーアップ。
たとえば、ラインナップの頂点に置かれる1998ccの直列4気筒ガソリンターボ(SR20DET)は、3代目の205psから220psへ最高出力が上がっている。後輪操舵システムの電動スーパーHICAS(ハイキャス)を受け継ぎつつ、トレッドは前で15mm、後ろで10mm拡大。操縦性の向上がはかられている。
いっぽう、ホイールベースを50mm延長したうえ、全長は30mm、全幅は40mm、全高は5mm、それぞれサイズを延ばした。、S14型とよばれる4代目シルビアの特徴をひとことでいうと、走りも室内の居住性もあげて、GT的な性格も強めようとしたのだろう。
ドイツ車にならい、収益性も高い高性能クーペが欲しかったのは、(スープラのトヨタ同様)日産も、おなじだったのだ。じっさいにおとなっぽくなって、走りの質は向上した印象だった。
しかし、市場での評価は期待はずれで、多くのファンはS13に変わるあたらしい時代のスポーツクーペを、このS14に期待していた。スタイリングも、R33スカイラインを手がけたデザインチームの仕事だろうか、主張が弱く、はなやかさに欠けるものだった。
乗れば、速いし快適で、いまみてもどっしりと路面に吸いつくようなプロポーションはスポーティさがじゅうぶん。スポーティクーペの理想像を、ユーザーと共有できなかったのが、なんとも残念である。
(3)ホンダ「プレリュード(4代目)
4代目ホンダ「プレリュード」の登場は1991年。このとき、デートカーとして大ヒットした先代と先々代から、コンセプトが大きく変わったのに、とまどいにも似た気持ちを抱いたのをおぼえている。
でも3代目が、2代目のあからさまなキープコンセプトだったので、スポーティクーペとして大きく変わった4代目のありかたは、いさぎよさを感じさせたのも事実だ。
エンジンは2156ccと、バブルの時代だけあって大排気量化。ただしこのエンジンは、「Si」と「Si VTEC」とで排気量はおなじでありながら、エンジン・シリンダーの内径と行程を変えていた。
パワフルな「Si VTEC」(VTECはエンジンの可変バルブタイミングおよび可変バルブリフト機構)のほうがショートストローク(行程)なのだ。一般的にはショートストロークのほうが、エンジン回転はスムーズになると言われているため、ホンダの開発者は、微妙ながらその差を追究したのだろうか。
スタイリングは、アメリカ市場向けの製品であることを、まったく隠そうとしていない。リアウィンドウが大きく寝た、小ぶりのキャビンは、基本的に後席を使わない北米のユーザーを念頭においたデザイン。F1マシンを思わせるグリルレスグリルといい、力強くふくらんだ前後フェンダーといい、全長4440mmのコンパクトスポーティGTとして存在感をはなっていた。
こののち、1996年にホンダはプレリュードのモデルチェンジを実行。5代目はすっきりしたプロポーションに加え、印象に残るフロントマスクを持つモデルである。ようやく、メーカーの迷いが晴れたという思いを、私は強くしたものだ。
(4)三菱「FTO」
三菱自動車が1994年に発売した「FTO」は2プラス2のスポーティクーペ。往年の「ギャランFTO」(1971年)を彷彿させるネーミングで、当初は話題を呼んだ。
FTOとは「Fresco Turismo Omologato」の略らしい。レースに出るためには統括団体(FIA=国際自動車連盟など)の認可が必要になる。車名のオモロガートは認可で、ツリズモはクルマ、そしてフレスコはフレッシュ、つまり認可をうけたばかりのモデルの意味だとか。
新しいFTOは、低いノーズに小さなキャビンと、スポーツカーの王道をいくプロポーションである。それでもリアルスポーツカーでなく、ランサーとミラージュをベースに開発されただけあって、あくまでもGT。
三菱は1990年にパワフルなエンジンに新技術を盛り込んだスポーツクーペの「GTO」を出していただけに、FTOは弟分ととらえられた。ノーズ高もスカットル(エンジンと客室を遮る構造材)も高く、出自は乗用車と意識してしまった。前輪駆動方式だったのも、その印象に輪をかけた。
それでも全長4320mmに対して、トレッドはフロントで1490mm、リアが1485mmとかなりのワイドトレッド。そのがんばりは、意外なほど楽しい操縦感覚として結実した。
スペックがひとり歩きする1990年代に作られたのがFTOの不運だったかもしれない。ハンドリングがなかなか楽しい前輪駆動のスポーティなクーペというパッケージは、いまの目からしても、けっして悪くない。スポーツカーが売れなくなっていた時代の流れに巻き込まれて、2000年に生産中止となったのは、なんとも残念だった。
文・小川フミオ
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