高速道路で105km/h(普通車、軽自動車は85km/h)を超えると、「キンコン♪キンコン」という鉄琴のような音が鳴り出す……。そう、速度警告チャイム音だ。
50代以上のクルマ好きなら一度は耳にしたことがあるだろう。しかし、いつしか、そんな音も聞かなくなった……。
意外に多い注意点 車載AC100V電源は便利だけど誤使用は危険!!
高速道路の最高速度が一部区間だが120km/hに引き上げられた今、改めて速度警告チャイム音がなぜなくなったのか、調べてみた。
文/岩尾信哉、写真/ベストカーweb編集部、TOYOTA、NISSAN、HONDA、SUZUKI
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普通車で105km/hで鳴り出す警告チャイム音が懐かしい!
AE86スプリンタートレノ。かつての日本車には、一定以上の速度を超過したときに「キンコン」という音が鳴る速度超過警告ブザー(速度警告音)が装着されていた
AE86のコクピット。『頭文字D(イニシャルD)』でも速度描写の1つとして速度警告チャイムが描かれている
ようやくというべきか、2020年12月22日に新東名高速道路の御殿場JCT~浜松いなさJCT間145kmが完全6車線化されるとともに、一部区間で限定的に運用されていた普通車の最高速度が正式に100km/hから120km/hに引き上げられた。
最高速度の100km/hと聞いて思い出すのは、最高速度を超過した場合に耳にした「キンコン」とも「チャイム」と呼ばれていた金属音だ。
この警告音の発生装置は1974(昭和49)年から車両の保安基準として義務付けられたもので、日本で生産され国内で使用する車両について、普通乗用車で車速が100km/h(実速度では約105km/h)、軽自動車で80km/h(同:約85km/h)で設定され、速度超過をドライバーへ警告するために装着されていた。
そもそも、なぜ速度警告のための装置が義務づけられることになっていたのか? 主な理由として考えられるのは、日本の乗用車の高速巡航性能が主な日本の高速道路の速度設定に追いついていなかったこと、警察による速度取り締まりが関わっていたことなどが挙げられるだろう。
いうまでもなく、現在では乗用車では速度警告音が装着されていない理由として、ハード面では高速走行時の走行安定性が向上したことが大きく、これに伴って交通環境の変化とともに速度警告音を装着する意味合いが薄れてしまった、というのが実情といえる。
余談ながら御馴じみの自動車漫画『頭文字D(イニシャルD』でも速度描写に一つとして警告チャイムが使われている。1987(昭和62)年5月に発売した6代目カローラから廃止され、当時はオプション設定されていたという。
ついでの個人的な経験でいえば、親戚が所有していた5代目日産スカイライン(C210型)の助手席で「キンコン音」を初めて聞いた記憶があるが、同モデルの販売期間は1977~1981年だから時期的には一致していることになる。
またR32スカイラインを購入した友人の横で、「キンコン、キンコン」と鳴る速度警告音を聞いて「これ外せないの?」と聞いたら、友人に「メーターの裏にある5cm四方のボックスがあって、そのなかに鉄琴が入っていて、コネクターを外せば音が鳴らなくなるらしいよ」と言われたのを覚えている。
見逃せない“外圧”の影響
2代目プレリュードのインパネ。かつては車検においても警告のチャイム音が鳴ることを確認していた
自動車検査場での検査業務を手掛ける、独立行政法人の自動車技術総合機構によると、かつて速度警告音を発する装置は、保安基準第46条第2項「速度警報装置の装備要件及び性能要件」において装備が義務づけられていた。
車検において速度計の誤差や指針の振れ具合のチェックとともに、警告音が発生することを確認していたとされる。
速度警告音装置の装備が始まった初期(1970年代半ば以降とされる)には、メーター裏側に装着された小型の鉄琴と呼べるような装置を使って警告音を発していたモデルも多く存在したという。
警告チャイムを鳴らす部品は単純な構造で、電磁石で鉄芯を引っ張ったり離したりすることで、鉄芯の両側に置かれた鉄琴を叩くというものだった。
1980年頃から電子音のブザーが発生するタイプも増加していった。ほぼ同時期からデジタルメーターの採用が始まったことも速度警告音の機能がなくなっていく要因になっていたかもしれない。
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なぜ警告チャイムが1980年代以降消滅していったのか?
R30型スカイラインRSターボRS-X。自動車技術総合機構によると「速度警告音のように保安基準上から項目そのものが撤廃される例は珍しいかもしれない」という
なぜ「キンコン音」が1980年代以降に消滅していったのかを探っていこう。当時の背景として、日本車の性能向上や道路事情の変化というよりも、日本の法律(主に保安基準を含めた車検制度)における「非関税障壁」の撤廃を求めた海外自動車メーカーによる“外圧”の影響があったことが改めて浮かんできた。
すなわち、速度警告音装置の装着が日本独自の規制であったために、海外メーカー、特に日本車の攻勢にさらされていた米国メーカー(当時のビッグスリー)と政府の圧力を受けて廃止された経緯があり、“政治的理由”という、あまり馴染みの薄い要因で消えていったという経緯があったようだ。
この件に関して日本自動車輸入組合によれば、速度警告音装置は日本独自の装備であるとして、日米自動車協議の場で米国政府から日本政府に対して撤廃が求められたと報じられ(灯火類も“障壁”として追及されたと記憶している)、細部におよぶ法律の変更を要求されたという。
このなかで「非関税障壁」の具体例として、速度警告音発生装置が槍玉に挙げられたともいえる。
すなわち、本来この装置が装備されていない輸入車では、日本車の保安基準によって装着が義務化されていることで車検を含む認証作業に手間がかかるなどを理由に批判が高まった。「キンコン音」はあくまで日本独自のものであり、海外では使用されていない装備だったことが問題とされたのだ。
経緯の詳細は明らかではないが、結果として1986(昭和61)年3月に、この第46条第2項は項目そのものが削除された。自動車技術総合機構によると「速度警告音のように保安基準上から項目そのものが撤廃される例は珍しいかもしれない」とのことだから、技術的な問題とは考えにくい。
こうして、法律で義務付けられていた「キンコン音」の警告音装置は次第に消滅していくことになった。
当然ながら車検でのチェックもなくなり、速度警告音の機能は、2000年代まで一部の車種にはオプション装備として設定されていたとはいえ、最終的には新車への装備を設定しなくなったようだ。
あくまで感覚的といってよい話になるが、日本車でも1990年代になると性能向上によって100km/h巡航が安全かつ容易になったこともあったことも、消滅の理由として挙げておきたい。
警告ブザーが復活する?
トヨタのロードサインアシスト「RSA」は、カメラで認識した道路標識をディスプレイに表示することで道路標識の見落としを減らし、安全運転を促す
最後に触れておきたいのが、輸入車の高級ブランドや日本車でも搭載が進んでいる、道路標識自動認識システムだ。実体験できる機会はほぼないとしても、トヨタでは安全装備パッケージの「セーフティセンス」の一部として、RSA(ロードサインアシスト)を用意。
前方監視カメラとナビゲーションシステムなどを組み合わせて、メーターパネル内に道路標識の表示機能を与えている。
また、「認識した道路標識の制限速度に対し、運転者が制限速度を超過して走行、または禁止行為を行っているとシステムが判断した場合に、告知表示およびブザー音で運転者に告知します」とされているから、トヨタ車では警告音を耳にすることもあるかもしれない。
ほかの日本メーカーでも、道路標識を認知してアイコン表示する機能の設定が増えている。蛇足ながら、最近では当時のチャイム音を再現できるスマートフォンのアプリもあるので気になる人はチェックしてみてほしい。
この先、自律自動運転が高度化していくにつれて速度警告システムが装着されていく可能性もあるから、進化した「キンコン音」を耳にすることもあるかもしれない。
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そのチャイム部品の電源コネクタを外した。