モータースポーツでの活躍が販売へ影響
今では想像しにくいが、1970年代から1980年代にかけて、モータースポーツは驚くほどの人気を世界的に集めていた。それへ後押しされるように、強力なエンジンを載せた数多くのホモロゲーション・モデルが作られていた。
【画像】南アフリカで生まれたM5の起源 BMW 530 MLE(E12型) M1に2002ターボ、3.0 CSL 最新M5も 全105枚
遡ること1976年、BMW南アフリカ(SA)は、ドイツ本国へ先駆けて高性能なサルーンを提供していた。スーパーカーのM1が発表される2年前に、Mモデルの原型と呼べる5シリーズが誕生していたのだ。
1966年、BMWは旧西ドイツの自動車メーカー、ハンス・グラース社を買収。南アフリカへ中型サルーンのグラース1700を製造する設備が運ばれ、エンジンとロゴを置き換え、子会社のBMW SAが新モデルとして生産することになった。
これは、当初BMW 1800と2000を名乗っていたが、後に1804と2004へ改名されている。一方、ドイツのディンゴルフィンク工場では新しいE12型5シリーズ、520と525、528の生産がスタートした。
その頃、市販車をベースとしたレーシングカーの活躍が、販売へ大きな影響を与えていた。フォードとマツダ、日産は、南アフリカに設備の整ったファクトリー・チームを擁していた。
新しい5シリーズも、重要な新市場の1つ、南アフリカへの輸出が想定されていた。しかし528は車重がかさみ、充分な競争力を見込めなかった。BMW モータースポーツ社、後のBMW M社が誕生したのは1972年。まだ態勢も充分とはいえなかった。
M30型ユニットが搭載された5シリーズ
小さなクーペのE3型2002と、大きなクーペのE9型3.0 CSLが頭角を現し始めていたが、Mを冠した高性能モデルは生まれる前。そんな中、BMW SAの要望へ応えるべく、BMW モータースポーツ社は特別な5シリーズを用意する。
フロントに搭載されていたのが、ツインキャブレターで2986ccのM30型・直列6気筒ユニット。BMW モータースポーツ社は、既にM30型ユニットを搭載した5シリーズをドイツで開発しており、理にかなったパッケージといえた。
BMW SAは開発期間を大幅に短縮でき、さらにチューニングを加え、279psの最高出力を引き出した。果たしてその5シリーズは、デビュー直後からサルーンカー・レースで圧倒的な強さを披露した。
1977年シーズンは、15戦15勝という完全勝利。1979年にかけて、3年連続で総合優勝を奪った。1980年代まで、南アフリカでその強さは保たれた。
ただし、サルーンカー・レースへ参戦するには、市販車を100台以上製造している必要があった。この規定をクリアするべく、1976年から提供されたのが、今回ご紹介する530 モータースポーツ・リミテッドエディション(MLE)だ。
基本的には、M30型ユニットが搭載されたE12型の5シリーズといえ、近年の例と比べれば簡素なホモロゲーション・モデルではある。それでも、BMW SAの手で戦闘力はしっかり高められていた。
トリコロールのストライプ 軽量化のランダムな穴
まず目がいくのは、現在のMモデルでも見慣れたトリコロール・カラーのストライプだろう。レッドとブルー、パープルの3色が、ボディをぐるりと彩る。ホワイトのボディをキリリと引き締めている。
当時のBMWは、レーシングカーを想起させるカラーリングを市販モデルへ与え始めていた。2002ターボも同様のストライプで飾られている。しかし、ストライプだけで仕立てられたモデルは、530 MLEが初めてだった。
フロントとリアに追加された、プラスティック製の大きなスポイラーが最大の特長だろう。フロントバンパー下のスカートは、数年後にリリースされるM535iとデザインはほぼ同一。路面へ迫るように、下部が前方へ突き出ている。
リアスポイラーは、ダックテール・スタイル。フロント側と比べるとサイズは小さめで、トランクリッドへ接着剤で直接貼り付けられている。それでも主張は強い。
トランクリッドを開くと、軽量化のためにランダムに打ち抜かれた穴が、目に飛び込んでくる。本来、E12型のバッテリーはヘッドライトの後方へ載るが、重量バランスを考え荷室内へ移されている。
ドアを開くと、公道レーサー的な雰囲気は控えめになる。ダークブルーのベロア生地で仕立てられたシートは座り心地が良く、1975年の3.0 CSLに組まれたバケットシートほど、彫りが深くない。
ドアパネルやフロアカーペットもダークブルー。上級サルーンの雰囲気が漂う。ステアリングホイールは、3スポークでスポーティ。イタルヴォランティ社製で、現在はセンターボスが省かれている。
30km/hを超えた辺りから様子が変わる
サルーンカー・レースを戦ったマシンと異なり、530 MLEの直列6気筒エンジンは専用カムと高圧縮ピストンでマイルドに強化。同時期の530比で約20ps増しとなる、200psを発揮した。
トランスミッションはショートレシオ化。今回のクルマには、ツイン・ゼニスキャブレターではなく、トリプル・ウェーバーキャブレターが載っている。恐らく、オリジナルより若干速いはず。
実際に公道を走らせてみると、低速域では操縦系が重く感じられる。シフトレバーは1速へ押し込むのに力が必要で、軽さを求めてステアリングにはパワーアシストが備わらない。クラッチペダルも、繊細に扱うには硬すぎる。
低回転域での加速は、Mモデルの起源へ期待するより遅い。0-97km/h加速は9.3秒と驚くような数字ではなく、確かに出だしは少々鈍い。
ところが2速へシフトアップし、30km/hを超えた辺りから様子が変わる。まるでボディが軽くなったように、活発さを増していく。アクセルレスポンスは非常に鋭敏で、まさに意のままにスピードを求めていける。
車重は、この大きさのサルーンとしては少ない1233kg。3.0Lの直列6気筒エンジンをもってすれば、余裕で扱える質量だ。
ボディは各部が軽量化され、遮音性は低い。ガラスは薄肉化され、パワーウインドウもも省かれている。リアシートはクッションだけで、スチール製のフレームは組まれていない。約150kgのダイエットに成功している。
この続きは、BMW 530 MLE(E12型) 南アフリカで生まれたM5の起源(2)にて。
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みんなのコメント
軽量のための装備省略、穴開けるとか最高
今の高性能モデルは綺麗すぎる豪華すぎる