2021年12月4~5日、長野県の南部、木曽、上伊那地域周辺で「ジャパンクロスカントリーラリー」が開催されました。海外では盛んに行われているものの日本ではあまり馴染みのないオフロード競技ですが、この大会は日本の道路事情や環境に合わせアレンジされたコースとなっており、国内でのクロスカントリーラリーの実現に向けたテストイベントという位置付けで行われました。
参加車両はその名の通りクロスカントリー4WDモデルが主流で、ランドクルーザーやジムニー、そしてピックアップトラックのハイラックスや懐かしいいすゞビークロスなどが参加しました。コースは初日の林道ツーリング区間と2日目に行われたSS区間(タイムアタックを行う競技区間)、そしてリエゾン(移動区間)の合わせて約280km。初日の林道ツーリングはある程度の悪路の走行が可能なクロスカントリー車であれば誰でもエントリーでき、2日目は6点以上のロールバーをはじめとするFIAに準拠した安全装備を備えたモデルのみが競技に参加できます。このように2つの形を併せ持たせた形での開催でしたので本気の競技に参加したい人はもちろん、クロカン4WDは持っているものの今まで林道などを走る機会がなかった人も気軽に参加できるという敷居の低さが大きな特徴となっています。
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初日は長野県らしい高地の林道が多いコース設定で、クロカン4WDの性能が生き、また風景も楽しめるというよく考えられたコースでした。ツーリングながら通常のラリー同様コースを先導する0カーが安全確認を行い、1分間隔でスタートする形ですので仲間内で連ねて走るツーリングとはちょっと趣が異なります。もちろん全車走行後にコースチェックを行うスイーパーもいます。もちろん初日だけの参加も可能です。
2日目はいよいよ競技です。今回は一般公道となる林道を使用せず、季節柄ススキの穂がキラキラと美しい広大な敷地や、ゴルフ場のコースなどに8つのSS(競技区間)が設定されました。もちろんこちらは全力のタイムアタックです。
結果は俳優の哀川翔さんが率いるFLEX SHOW AIKAWA Racingの「FLEX SHOW AIKAWA Racing with TOYO TIRES PRADO」が圧倒的な速さを誇り総合優勝を飾りました。ドライバーはD1グランプリでの3度のシリーズチャンピオンの他FIAインターコンチネンタルドリフティングカップ初代王者などドリフト界で数々の栄冠に輝く川畑真人選手。コ・ドライバーはアジアクロスカントリーラリー(AXCR)等で長年コ・ドライバーを努め、2019年にはタイ~ミャンマーで開催されたAXCRで川畑選手とともに戦った深野昌之選手です。このコンビはなんと8つのSSで全てトップタイムをマークしての完全勝利でした。
2位には竹野悟史/柳川直之 組の「Garage MONCHI JAPIND Jimny」。東南アジアで開催されるAXCRでも強力なエンジンを搭載したライバル相手に軽さを武器に戦ってきたAXCRではお馴染みのジムニーのスペシャリストです。そして総合3位は北海道から参戦した惚田政樹/橘涼子 組の「ソーダファクトリー ランドクルーザー」。クロカン4WDの王道とも言える反面スピード競技のイメージは薄い70系ランクル(HZJ76)での激走はなかなかの見応えがありました。ちなみにSSは全て観戦可能です。
4位のFJクルーザー「FLEX SHOW AIKAWA Racing with TOYO TIRES FJクルーザー」の走りも見応えがあり、中でもゴルフ場のSSでのジャンプシーンは圧巻。FLEX SHOW AIKAWA Racingのマシン製作、メンテナンスを担当した自動車整備の専門学校、中央自動車大学校(千葉県)の学生はその飛距離に大盛り上がりでしたが、実は指導する先生たちはかなりマシンの状態にかなりヒヤヒヤしたそうです。
2日間を通じて、参加者の誰もが本当に楽しそうでした。昨今流行しているアウトドアライフのツールとしてではなくオフロードマシンとして安全管理がなされたステージで自分の愛車を思いっきり走らせる場所が日本では思いのほか少なかったのかな?とも思わされる風景でもありました。ホント皆さん楽しそう。
記念すべきこのテストイベントで勝利を飾った川畑選手はこのジャパンクロスカントリーラリーについて「初日のツーリングでは普段見られないような風景に出会えたのは凄く楽しかった。クルマがあってちゃんとしたタイヤ履かせて、あとは仲間がいれば普通にプライベートチームで参加できますし、これ絶対に流行りますよ!」と絶賛します。
また、その走りについても「まだまだいくらでもイケます。とにかくミューが低い荒れた路面からタイヤを通すベストラインを見極めながら走るのがすごく面白い」と1000馬力以上のマシンでサーキットを攻めるD1GPとは違う世界の楽しさを満喫したようでした。
また、参戦を予定していたアジアクロスカントリーラリーが2年連続で中止になってしまったことに触れ「このマシンを仕上げてくれた学生に走る姿を見せたかったので、そういった意味でも今回のイベントで走ることができた意義はとても大きかったと思います」と語ってくれました。
振り返って見れば、90年代初頭のクロカン4WDブームの時も、久しぶりに復活したトヨタ・ハイラックスが好評な今もそのパフォーマンスを発揮して楽しんでいるのは常に限られたファンだけだったのかもしれません。日本の道路環境や社会情勢を鑑みれば致し方ない部分もあるでしょうが、川畑選手は「僕はクロスカントリーラリーの世界をAXCR参戦で初めて経験しましたが、今回は日本でも体験できることを知りました。実は日本の林道は初めてだったのですが、こういう道って全国に色々あるんじゃないかと思います」と興味津々。
大会の主催者K’sRacingTeam、特別協賛のFLEX、トーヨータイヤが目指すところもそこなのでしょう。と、この原稿を書いている間にもトーヨータイヤから公道の使用も可能なオフロードレース向けタイヤ(オープンカントリーM/T-R)の新サイズが発売開始されるなど、いろいろな面で動きが出てきたようです。日本各地に点在するであろう魅力的な林道は、これまでオフロードで楽しんできたクロカン4WDやオフロードバイクのファンがたくさん知ってるでしょう。
今回開催された「ジャパンクロスカントリーラリー」は環境や社会情勢と協調しながらベテランから初心者まで幅広いオフロードファンが楽しむクルマ遊びの裾野を広げる大きな一歩になりそうです。
〈文と写真=高橋 学〉
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