ドイツ人写真家が出会ったオーストラリアの伝説
世界中を旅して、各国のGT-Rを写真集「GT-R THE JOURNEY」に収めたアレキサンダー・キューレテム氏。彼は写真家でありながら、自らもGT-Rオーナーであるドイツ人だ。写真集の中でも特に思い入れのある人物やシーンを選んでもらったところ、トップに挙げてきたのはレーシング・ドライバー、ジム・リチャーズ氏だった。キューレテム氏のGT-Rライフの初期において、とくに大きな役割を果たしたジムは、オーストラリアのレースシーンでレジェンドのひとりである。
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GT-Rの「ゴジラ」伝説を作った男の話
ご存知の方も多いと思うが、GT-Rは日本国外では「ゴジラ」というニックネームで親しまれている。これはもちろん日本の映画から取られた名前。ではいつごろからこの名称で呼ばれるようになったのだろうか? 有力な説としては1990~92年にオーストラリアのツーリングカーレース(グループA)で大活躍していたR32に対し、現地のジャーナリストがニックネームとしてゴジラを使ったことがその発祥ではないか、とされている。
当時、まさにそのゴジラを駆っていたのがジム・リチャーズ氏だ。マーク・スカイフという若手ドライバーとタッグを組み、オーストラリア・ツーリングカー・チャンピオンシップ(以下ATCC)で暴れ回った。1990年はHR31とBNR32で8ラウンド中、3ラウンドで優勝。1991年、そして1992年もATCCで、さらにオーストラリア・エンデュランス・チャンピオンシップでも輝かしい成績を残している。
レース最後まで安定した走りがGT-Rの強みに
なぜR32がこれほど活躍できたのだろうか? ジムに当時のことを聞いた。「最大のライバルはシエラRS500(コスワースがグループA用に開発した車両。ベースはフォード社のハッチバック車であるシエラ)だった。GT-Rと同じターボ車ながら、出力はさらに上だったよ。だけど、R32は4輪駆動でコーナーリングのスピードが段違い。トラクションがとにかく強烈だった。シエラはそのパワーのせいで、レース中盤以降はリヤタイヤが持たないんだ。パワートレインはFRだしね。その点GT-Rは最後までとにかく安定していたよ」
なかでもジムが個人的に印象に残っているレースがあるという。「1991年、シドニーにあるアマルー・パークでのレースでのことだ。練習走行中にエンジンに問題が発生。結局、載せ換えなければならなかった。おかげでスタートは最後尾からだ。それでも、1位のBMW M3がチェッカーフラッグを受けた時、そのすぐ後ろまで追い上げたんだ。つまり結果は2位。もう1周あれば絶対に勝てたと思う。優勝できなかったこのレースが、今となっては逆に一番印象に残っているね」
ちなみに同1991年、ATCCは全9ラウンド開催され、前述の第6ラウンドのアマルー・パーク、そして第8ラウンドのレイクサイドはBMW M3によって1位の座を奪われたものの、他7ラウンドはすべてジム、もしくはスカイフのR32が制している。なお1992年のATCCは全9ラウンド中、4ラウンドをBNR32が、4ラウンドをシエラRS500が、かろうじて1ラウンドのみBMW M3が制するというリザルトで、シーズンを終えている。
強過ぎるGT-Rはオーストラリアレースから排除
オーストラリアでのR32の活躍があまりにも目立ったせいだろう。CAMS(コンフィデレイション・オブ・オーストラリアン・モータースポーツ。現モータースポーツ・オーストラリア)は1993年に突如、レギュレーションの変更を行い、GT-Rでのエントリーは不可能となった。1993年はフォード(シエラではなくファルコンで参戦)とホールデン(GM傘下のオーストラリアの自動車メーカー)がエントリー車の約8割を占め、残りはトヨタ(AE86などカローラ勢)とBMW M3でレースが進められた。日産車のエントリーはゼロという車両構成を見ると、あまりにも強かったGT-Rを排除する意向があったと読んでも、間違いではないだろう。
最後にジムに、BNR32への今の思いを聞いてみる。「R32は間違いなく、あの時代の最先端を走っていたクルマだと、今でも思っているよ。さらにこれもまた個人的な思いになるけれど、R32はGT-Rの中で最も愛らしいGT–Rだよね。1990年から4年間乗っていたけれど、そのまま乗り続けていればよかったと、今は後悔しているくらいだよ」
レジェンドは今でもゴジラを、愛している。
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みんなのコメント
R32で壊れたところってエアコンの液晶くらいじゃなかったかな。
手放したのは残念というのはこの人と同じ気持ちだね。価格からすればとんでもない車だと思ったよ。