「日本一速い男」と呼ばれ、かの元F1ドライバーE・アーバインをして「日本にはホシノがいる」と言わしめた「星野一義」。通算133勝、21の4輪タイトルを獲得した稀代のレーシングドライバーの50有余年に渡る闘魂の軌跡を追う。(「星野一義 FANBOOK」より。文:小松信夫/写真:瀬谷正弘/モーターマガジン社)*タイトル写真は、1990年9月1日、全日本F3000 Rd7富士。
10戦6勝と絶好調の90年シーズン、JTCと合わせて二冠に輝く
バブル景気のまっただ中であった1990年。89年でGCが終了した影響もあって、全日本F3000選手権は過去に例のない大量のエントリーを集めた。開幕戦にエントリーした台数が31台に達し、予選はA組、B組に分けて行うほどだった。
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F3000ではリタイアが多く、満足できない89年シーズンを送っていた星野だが、この年は星野らしい強さを取り戻していた。
ローラT90/50・無限に乗って、開幕戦の鈴鹿で優勝という絶好のスタートを切ると、第2戦の富士でも勝って2連勝。さらに第6戦・第7戦の富士、第8戦・鈴鹿と3連勝。さらに最終戦・鈴鹿でも勝って10戦6勝と絶好調。
しかも全戦で完走してノーポイントは1戦だけという、圧倒的な安定感でシーズンを終える。未勝利ながらもポイントを着実に重ねてきた、2位の小河等に大差を付けて、3年振りに国内最高峰クラスのチャンピオンを取り戻して前年の鬱憤を晴らした。
星野が久し振りにチャンピオンナンバー、ゼッケン1を付けて走った91年の全日本F3000。高橋国光、長谷見昌弘、松本恵二といった百戦錬磨のベテランドライバーから、片山右京、中谷明彦、服部尚貴といった新鋭たち、そしてR・チーバー、V・ヴァイドラー、E・アーバインといったヨーロッパ勢まで、この年も大量エントリーが集まり、さらに戦いは激しさを増していた。
星野は前年のような独走ができないどころか、10戦行われたレースで完走は3戦のみという散々な内容。だが、完走した3戦では2勝、2位1回と速さは見せる。第7戦の時点では最終的にチャンピオンとなり、F1GP行きを決めた片山右京とのポイント差は小さく、星野にもチャンピオンの可能性はあった。しかし、終盤の3戦連続リタイアでそれも潰える。最終的にシリーズ4位にはなったが、納得のいかない1年だったろう。
不振の2年間、そしてアーバインンとの激闘を乗り越え、再び王者に
しかし92年の全日本F3000での星野は、91年どころではない不調の波に飲み込まれてしまう。開幕戦の鈴鹿ではR・チーバーに続く2位となったが、第2戦・富士はリタイア。第3戦・MINEではなんと予選落ちを喫する。
シーズン途中にシャシーを2回乗り換え、挙句の果てにはエンジンを 無限からケン松浦チューンのDFVに変更するなど、あらゆる手を尽くしてスランプ脱出を図る。
だが、第7戦の富士で3位になったのを除き、ポイント圏外かリタイア。シーズンを終えた時には、誰もが「星野の時代は終わった」と思っていた。
極度の不振からの復活のために、星野はチーム体制を大幅に変更する。ライバルチームから、エンジニアを招聘。さらにニスモからのサポートも受けて93年シーズンを迎える。
この荒療治で速さを取り戻した星野の最大のライバルとなったのは、91年から全日本F3000を走っていた、若手イギリス人ドライバーのE・アーバイン。2人は終始壮絶に競り合い、星野は4戦でリタイアするが、2勝、2位1回、5位1回でポイントを獲得。
一方のアーバインは、1勝、2位2回、3位2回、4位・6位各1回。総得点ではアーバインが1ポイント星野を超えたが、有効ポイントは32ポイントと全くの同点に…。
最終的に勝ち星の差で星野がチャンピオンとなったが、歴史に残る名勝負として記憶されるべきシーズンだろう。(次回に続く)
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