いや、ビックリした。フェアレディZの6月販売台数は僅か7台だというではないか。ウソでしょう? 正直そう思ったのだが、これは事実。もうこのままZは消えて行ってしまうのか? 個人的には、昭和を代表するスポーツカーの現状に寂しさを隠せない。
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しかし、日産はエライ! そんなZにちゃんと愛の手を差し伸べていた。マイナーチェンジをひっそりと敢行していたのだ。どんなものなのか、さっそくニスモZを引っ張り出して試乗してみたのだ。
文:松田秀士/写真:池之平昌信、NISSAN
9年前に感じたフェアレディZの印象
これまでのZに対するボクの印象を書き留めておこう。現行Z34型になったのは2008年。ということは、Zもすでに9年が経過したモデルということになる。
普通なら、そろそろフルモデルチェンジかな? という時期にさしかかっている。だから販売が低迷するのも無理はないが、実際そんなに魅力度が落ちてしまっているのか?
2008年に登場したころの記憶を遡ると、このときZ34はホイールベースを短縮して、身の丈サイズというかコンパクトさを売りにして登場した。これはプラットフォームを共用するC36型スカイラインクーペと決定的に違う部分で、このためにリアセクションは専用に設計しなおされている。
Z34発売時に、設計担当者とサスペンションについて突っ込んだ話をしたが、ロール軸をいかに設定するかにこだわっていたのを覚えている。ロール軸とは、フロントとリアのロールセンターを結んだ線だ。
そう、ロールセンターはフロントとリアのサスペンションにそれぞれあるのだ。このロール軸と車の重心との関係が、いわゆるテコの原理によってサスペンションを動かしている。
重心とロール軸との距離が離れているほど、モーメントが大きくなりタイヤに掛かる荷重変動が大きくなる。ミニバンを例にとればわかりやすいと思う。
詳しいロールセンターの求め方は割愛するが、ロールセンターはサスペンション型式によってもその特性が異なる。
簡単な例はストラット式とダブルウィッシュボーン式(マルチリンク式も含む)。ダブルウィッシュボーン式に比べてストラット式は、サスペンションが動いた時のロールセンターの移動量が大きい。つまり、ロールセンターはサスペンションが動くことによって変動するのだ。だからモーメントも変動する。
路面にベタっと吸い付く安定感は絶妙だった
Zは前後にダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用している(リアはマルチリンク式)。理由の一つは、前後のロールセンターをちょうどいいレベルにデザインしたいからだ。では、それがどのようなドライビングフィールをもたらしたのか。
まず、ステアリングを切り始め、フロントが応答した瞬間からサスペンションに入力しロールが始まる。少し遅れてリアにも同じことが起こる。この前後の時間差と、前後サスペンションの動きを自然に気持ちよく感じられたのを覚えている。
特にZ NISMOでは、サスペンションがフルにロールしてバンプラバーに完全にタッチした状態でも、路面にしっかりと吸い付いたようなスタビリティを感じられた。
さらに付け加えると、タイヤが限界を超えた時の安全デバイスであるスタビリティコントロールの特性がスポーティーさをスポイルせずに、しかも安全性も損なわないレベルで絶妙にセットアップされていたのが印象的だった。
次ページ:今回の改良でどう変わった? そしてZの存在意義とは?
地味ながら細かな改良を施されたZ
では、今回のマイナーチェンジでどのように変わったのか? 一つには新ボディカラー「カーマインレッド」が追加され、エクステリアデザインの一部変更。また、「バックオープナースイッチ」が新設され、車内からバックドアを開けることができるようになった。
メカニズム面では、新型クラッチを採用してペダル踏力と半クラッチ時のシビアさを解消。また、一部グレードに19インチ鍛造アルミホイールを採用している。
そして、フロントウィンドウの合わせガラス中間膜に遮音層を挟み、遮音性を向上。NISMOモデルでは転がり抵抗を20%低減した新しいタイヤを採用。
つまり、スポーツカーながらロングドライブも苦にならないようにして、さらにNISMOモデルでは低燃費にも注力しているのだ。そこで、ボクの大好きなNISMOモデルを引っ張り出してもらった。
高まった軽快感とGT-RにはないZの存在意義
相変わらず心地よいステアリングフィールだ。ステアリング切り始めの初期ロールがスッと、しかも少しだけ入り、そのあととても安定したロール姿勢でコーナリングする。新タイヤの採用で、このときの軽快感がより高まっている。
今までコーナリング時、路面にベタっと張り付いていた感じがピッタリ吸い付いた感じに変化している。そう、確かにタイヤの効果だ。確かにベタのほうが安心感は高いが、ピッタリのほうがフットワークは軽く感じる。
そして、大きな変化は新クラッチの採用だろう。確かに踏力が軽くなり、ストップ&ゴーでの半クラッチコントロールがやりやすくなっている。MT初心者でもすぐに馴染めるはず。これによるものなのか、シフト操作も軽快さが加わり、これまでよりも明らかにシフト操作が楽しい。
ダウンシフト時、勝手にヒール&トゥしてくれるシンクロレヴコントロールが楽しさに拍車をかける。そして、最後に感じたのは静粛性の向上だ。
フロントガラスの遮音効果は大きく、ロードノイズ(風切り音も)とエンジンのメカノイズが耳障りでなくなり、高回転時のエクゾーストノートがとても気持ちよく飛び込んでくる。
まだまだZは健在。GT-Rにはない、自分の手で、脚で、コントロールしている人馬一体感を味わえるフェアレディZ。絶対にこのモデルを終わらせてはいけない。
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