近年、「これでもか」とグリルが大きかったり、押し出しの強いフロントマスクを持つ車が一大トレンド化している。
しかし、“オラオラグリル”全盛時代に逆行するように、小さく控えめなグリルで、シンプルかつ美しいフォルムを実現している車も少なくない。
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そこで、本記事では時代に流されず、控えめなグリルを採用する現行国産車の特長や魅力を改めて見ていきたい。
文:清水草一/写真:編集部、TOYOTA
「グリルは添え物」でも個性的なアルトとラパン
グリルは極めて控えめながら個性を放つアルトのフロントマスク
■スズキ アルト
元アウディのデザイナー・和田智氏が関わったともっぱらの噂。和田氏と言えば、アウディのシングルフレームグリルで上品なオラオラ感を実現し、デカグリル全盛時代を招来した当人だが、アルトのグリルはそれとは真逆だ。
アルトのデザインは、軽自動車のなかでも骨太でカタマリ感が強いが、フロントフェイスは、特徴的なヘッドライト形状等で十分な個性を放っており、グリルは昔ながらの控えめな横桟型。グリルに頼るどころか添え物だ。
サイズが小さいだけに、グリルを小さくすることでボディ面を少しでも広くして、それによって存在感を主張している部分もあるだろう。
■スズキ ラパン
キュートなデザインが特長で、グリル周りは控えめにまとめられたラパン
女性向けの「かわいいカー」の仲間とみなされているが、普遍的に見てもデザインバランスがいい。フロントフェイスは古典的なコンパクトカーの風情を持ち、グリルはただの長方形。たくらみは一切ない。全体にも威圧感は完ぺきにゼロ。守ってあげたいと思わせる存在だ。
まだまだある! 軽に多い機能的なグリルの車たち
ブラックアウトされたジムニーのグリル。存在感は高いが、グリル面積そのものは決して大きくない
■スズキ ジムニー/シエラ
超古典的なジープスタイルを完ぺきに踏襲している。グリルは「空気取り入れ口に設けた固形物吸い込み防止桟」という風情で、グリル本来の機能にほぼ100%従っている。
つまり、機能以上の意味はほとんど感じない。ジムニーのデザインは、全体がまさに機能本位だが、その引き算の美学がすがすがしい。
■スズキ ハスラー
カジュアルなSUV感覚が受け、ヒット車となったハスラー。グリル面積は小さいが、パッと見てそれと分かる個性的なデザインだ
コンセプトが古典的ジープスタイルの派生形ゆえに、ジムニー的な機能のみのグリルを、さらに小さめにアレンジしている。必要以上の空気を吸い込む気配はまったく感じさせないが、ハスラーのひょうきんで自然体なデザインの魅力はいまだに色褪せていない。
■スズキ イグニス
続いてもスズキから。イグニスはグリルを目立たせるのではなく、ヘッドランプを含めた全体で「顔」を形作っている印象だ
グリルは古典的な横長の横桟タイプながら、ヘッドライトを取り込んだような形状にすることで、横幅を広く感じさせている。
加えてヘッドライトを腕白小僧っぽい形にしたことで、ちっちゃくてもナメられない精悍な顔付きに。お見事!
■ダイハツ ミラトコット
ひたすらシンプルさを追求したというミラトコット。それを象徴するように、グリルまわりも極めてシンプルな造形で近年のトレンドとは一線を画す
脱力系デザインを名乗るだけに、「余計なことは何もしない」ことで、逆に存在感を出している。
あまりにも何もしなさすぎて、車というより家電の雰囲気が超濃厚ではあるが、ここまで自動車っぽさを排除したデザインは、それはそれで個性的。グリルも、全体のデザイン同様あきれるほど無個性で、逆にそれが個性になっている。
グリルに頼らず存在感発揮するトヨタの2車
王道バンのハイエース。グリルは極めて機能的で必要最小限の大きさだ
■トヨタ ハイエース
ワンボックスカーとして機能に徹した姿がサワヤカだ。ただの箱ではあるが、面やウィンドウの切り方に緊張感があって、じんわりほのかに美しい。つまり、デザインの練度が高い。
フロントフェイスもシンプルそのもので、グリルにも余計な工夫はない。Vモーショングリルを取り入れた日産キャラバンと比べると、ハイエースのシンプルさがよくわかる。
キーンルックのC-HR。一見、アクの強いデザインだが、よく見るとグリルは小型にまとめられている
■トヨタ C-HR
デザインに関して賛否両論ある……というより、否定の意見のほうが多く耳にするが、個人的には高く評価している。
攻殻機動隊的なメカメカしいデザインは、グリルの存在感にはまったく頼っておらず、ボディの強い絞り込みやオーバーフェンダーなどで存在感をアピールしている。存在感が強いがゆえに「やりすぎだ」と嫌われている面もあるが、プロポーションのバランスもいい。
フォルム優先のマツダ、機能優先のスバル
■マツダ車全般
グリルそのものは小さくないものの、全体のフォルムを「主」とし、グリルは「従」という関係性が伺えるMAZDA 3のデザイン
マツダの現行モデルのデザインを見ると、グリルはそれなりの存在感を発しているが、どれも全体のプロポーションが優先で、グリルに頼るといった邪道を排している。
ブランド全体としては五角形グリルで統一し、アイデンティティを訴求しているが、グリルが浮いたり、それだけが目に焼き付くようなことがないようにデザインされている。見る者の記憶に残るのは、ディテールの一部ではなく、全体のフォルムであろうとしているのだろう。
たとえば新型マツダ3のグリルを見ると、ブラックアウトされていて、ブラックホールのようにも感じる。ヘッドライトの内側もそのブラックホールに吸い込まれているようにも見える。
グリルの「空気取り入れ口」という機能をそのまま素直に表現するという狙いがあるのかもしれない。
■スバル車(インプレッサ、XV)
クロスオーバー的なモデルはグリルで迫力を出すモデルが多いなか、スバル XVは機能優先でグリルの大きさも全体とのバランスがとれている
スバル車も六角形グリルで統一しているが、それで威圧感を出そうといった意図はほぼ感じられない。フォレスターはグリルをやや大きくして存在感を強めることを狙ったが、現代としては控えめな部類に入る。
ではスバル車のデザインがどれも優れているのかと言えば、マツダに比べたらそれほどでもないが、インプレッサやXVはバランスがよく、グリルを含め静かな佳作と言っていいだろう。
スバルのアイデンティティは機能優先なので、デザインも機能優先の質実剛健を目指していて、近年はデザインレベルが安定している。
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