ドライバー3月号(2020年1月20日発売号)からスタートした新連載「(じつは)動物カメラマン 三好秀昌の『ニッポン探訪』」。日本全国を最新SUVで駆けまわり、かわいい動物や最高の絶景を撮影してしまおう!という企画です。第2回は、疾走する『農耕馬』の群れ。撮影テクニックやクルマのインプレッション、その地域のグルメやお土産情報など、取材ウラ話をいろいろと紹介します
「馬追い」について
雪道で優先するのはエンジンブレーキ? それともフットブレーキ?【昭和なドラテクを再考察】
運がいいと被写体情報が突然、飛び込んでくる。
オイラは帯広にいた。すると「馬追い」が始まるという。聞き慣れない言葉だが何だ!? 正確には「馬の追い運動」と言うらしい。家畜改良センター十勝牧場で冬季に妊娠した農耕馬の運動不足を解消するために走らせる行事だった。
まったくもって知らなかったが、毎年1月から2月まで行われる馬追いは道東の冬の風物詩だという。その初日に行ったのだが、確かにテレビのほかメディアの取材の数を見ても大事な行事だというのがうかがわれる。
帯広の街からクルマで15分ぐらいの十勝牧場。入り口には家畜防疫対策のために車両消毒機が設置されている。その噴霧を受けながら場内へと進む。
馬たちが走るのは1周約800mのオーバル状のコース。無骨なまでに肢体がしっかりした馬たちが走り始めると、地響きに似た音! 足元から上がる雪煙が迫力! 加えて、粉雪が舞ってきたのでさらに美しさが増した。
このときは約30頭が2回に分けて場内を走り回った。時間的に短いが、なかなか見ることができない雪国らしいイベントで楽しめた。
今シーズンは2月末までの平日に実施しているので、まだ間に合う。帯広近辺を旅する機会があればぜひ!
オイラはまだ見たことはないが、北海道で人気のテレビ番組『水曜どうでしょう』のエンディングはこの馬追いらしい。
■馬の追い運動開始実施要項
場所:家畜改良センター十勝牧場、馬基地 追い運動場
時期:2月末まで
時間: 午前9時30分ごろから45分~1時間程度
www.nlbc.go.jp/tokachi/
「撮影裏話&テクニック」
クルマから半身を乗り出して“人間”三脚
突然撮影することになった馬追い。馬が走るという以外に情報やイメージが浮かばない。
とりあえず近づけないだろうから、長玉(望遠レンズ)が必要だなと考える。群れで走るだろうから、グッと遠近感を詰めてある程度引きつける絵がカッコよさそうなので超望遠だ!
いざ現地に行ってみると馬場の手前に2重の柵がある。カメラ位置を決めて、直線を狙おうとすると、奥の柵が画面のど真ん中に来てしまう。柵を見切るには(避ける)には上から狙うしかない。
現地プレスは脚立と大型三脚で高いアングルから柵を避けて撮れるようにして準備万端。さて、オイラはどうしよう!? 少し距離は離れるが、より高いところから狙うことにした。
クルマを移動。コースの延長線上の位置に駐車して、ドアを開けてそこから半身を乗り出す。こうすればクルマの屋根より高いところにカメラ位置を設定できる。それでも馬の群れが一番手前まで来てしまうと下側に柵が入ってしまうので、すこし奥のほうで構図を決めるしかない。
この手前の柵の処理がキモ
それでもなんとかクルマから、三脚代わりの腹筋でカメラブレを抑えながらシャッターを切る。当然シャッタースピードは速めの1/1600と決めた。
とはいえ、今回はFE 200-600mm F5.6-6.3Gという軽量なレンズに助けられた。ピント精度もいいし、コストパフォーマンスに優れるレンズで600mmまでカバーしてくれるわりにコンパクトで便利である。
SONY α7III+FE 200-600mm F5.6-6.3G
「別のアングル」
昔、先輩カメラマンから教えられたことがある。
悪天候は「寄り」が鉄則!
カメラから被写体までの距離があると雨や雪、地面からの熱が原因でシャープさのない“眠い”写真になる。自然が要因のフィルター効果が出てしまうのだ。時として雰囲気が出る場合もあるが、基本的には悪要因だ。
馬追いのときもパラパラと小雪が舞う状況。ファインダーをのぞいた感じではなかなかいい雰囲気だったので、そのまま超望遠で狙う。
馬追いはもう1回撮影チャンスがあった。それで保険としてもう少し違うカットを撮ることに決めた。
被写体に近づける場所はないか?
あった!!
馬場のコーナー付近は柵の向こうが走路で邪魔なものが何もない。ここではFE 4/24-105 G OSSレンズでミドルレンジ、50mmにして狙いを定めた。
馬の走り方がドタバタしていて上下動が激しいので、あえて遅いシャッタースピードで流すのではなく、速いシャッタースピードで馬の表情や動き、大粒の雪が見える瞬間を切り取った。
1/2500 f8 ISO1250
「危険な冬の晴れ間」
オイラが帯広を訪れたときは、驚くほど雪がなかった。道路上にはほとんどと言っていいほど雪は残っていなかった。
でも……。
この写真を見てほしい。完全なドライの舗装路面から信号の手前で完全なアイスバーンになっている。
注意深く見ると、アイスバーンは左の建物の影から始まっている。以前降った雪が日なたはすべて溶けてしまったが、ほとんど日が当たらない位置だけ踏み固められ、アイスバーンとなって残っているのだ。
前を走る従来型のスズキ ハスラーはオイラの知り合い夫婦で、奥さんがMTを駆使して(!)走らせている。地元の人だけに本能的に危険なところは当たり前のように感知し、何事もないように走っていく。その走りはメリハリがあって、オイラのようにそのときそのときでバタバタした運転にならない。
考えてみれば帯広に着いてすぐにクルマを走らせたときに、周りの交通の流れの速さに戸惑った。どこが凍っているのかわからないから恐る恐る走っているのに、周りはビュンビュン行くのだ。そして気が付いたのはメリハリのスゴさだ。経験値と予想から舗装とアイスバーンのそれぞれでしっかりとスピードコントロールしている。
雪国に住んでいる人は運転がうまい、という話をこのご夫婦としたら、交差点や信号での事故は多いですよ~と言われた。たまたまオイラが見かけなかっただけか!
ただオイラがもっと怖いな~と思ったのは、この写真の状況から雪が降り始めた場合だ。路面の見た目の違いがなくなる! ブレーキを踏んで初めて新雪の下のアイスバーンに気が付くのだ。そして止まれないだろう。よーく見れば路面の凹凸の違いで違和感は感じるだろうが、そんなにちゃんと路面を把握できるとも思えない。
というわけで、知らない雪国、特に市街地では慎重にゆっくり走るに越したことはない、と肝に銘じたのである。
「今回のSUV……SUZUKI HUSTLER」
雪道での走りもバッチリ!
デザインはひと目でハスラーとわかるほどの正常進化だが、リヤパートに追加の窓が設置され、斜め後方視界がよくなっている。
乗り込んで思うのが斬新なインパネ! 遊び心がやや満載すぎて、オッサンにはちょっとかわいらしすぎて似合わない(笑)。
エンジンはノンターボのクルマだったが、モーターアシストがあるので出足のトルク感が感じられる発進だ。
市街地走行ではパワー不足のストレスはない。もちろん高速道路を多用する向きにはターボエンジンがオススメである。
雪道でスタッドレスタイヤを装着した4WDのせいもあるがトラクションのかかりはよく、アイスバーンからちょっと深い新雪に踏み込んでも力強く加速してくれる。
クルマを貸し出してくれたスズキアリーナとかち帯広店は地域密着サービスが売りのお店で,その努力の成果なのか、帯広市内でハスラーやジムニーがよく走っている印象だった。
スズキアリーナとかち帯広
https://www.suzuki.co.jp/dealer/w0012368/
■主要諸元
スズキ ハスラー ハイブリッドG
(CVT/4WD)
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1680mm
ホイールベース:2460mm
最低地上高:180mm
車両重量:860kg
エンジン:直3DOHC
排気量:657cc
エンジン最高出力:36kW(49ps)/6500rpm
エンジン最大トルク:58Nm(5.9kgm)/5000rpm
モーター最高出力:1.9kW(2.6ps)/1500rpm
モーター最大トルク:40Nm(4.1kgm)/100rpm
燃料/タンク容量:レギュラー/27L
WLTCモード燃費:23.4km/L
タイヤサイズ:165/60R15
地元グルメ
「豚丼」
帯広にははるか昔、45年ぐらい前に行ったことがあるけど、そのときから豚丼って地元の一品だったのかな~?
2003年にWRCジャパンの前哨戦で開催されたラリー北海道に行ったときに、みんなが「豚丼」、「豚丼」ってやけに言っていて、帯広の名物にそんな食べ物があったんだって気づいたのだ。
そして有名店は大行列で驚いた記憶がある。何度か食べたけど、個人的にはやけに観光客がありがたがって食べるどんぶりのように思っていた。
しかし、今回ちょっと見方が変わった。
帯広の街はずれ、クルマでしか行けないところの豚丼屋に寄ったときのことだ。
もう午後2時近いのにお客さんがひっきりなしに昼飯を食いにやってくる。それも観光客風ではなく、みんな地元風というか仕事中の昼飯、という感じでドンブリをかっ込んでいる。
これを見てたら、ああ本当に豚丼って地元飯として愛されているんだなーと再認識した。
もともとおいしい豚丼だったけど、そんなことを思いながら食べると味もまた格別だったのである。
〈文と写真〉
三好秀昌 Hideaki Miyoshi
●東京都生まれ、日本大学芸術学部写真学科卒業。八重洲出版のカメラマンだったが、ラリーで頭角を現し、そのうち試乗記なども執筆することに。1995年、96年にはサファリラリー グループNで2年連続優勝。そのほか、国内外で数多くのラリーに参戦。写真家としては、ケニアでの豹の撮影など、動物をおもな題材としている
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