早すぎた異世界転生アニメ!? 『聖戦士ダンバイン』はバイクから物語が始まる
今やアニメ、ライトノベルなどで定番となった「異世界転生もの」ですが、1983年にその先駆け的かつ超個性的な作品があったのご存知でしょうか。
【画像7点】ダンバイン、ショウの愛車「ホンダ アスペンケード」を写真で解説! トッドがゴールドウイングと勘違いするのも分からなくはない!?
1983年といえば、初代ドラゴンクエストが発売される3年前のこと。今ほどファンタジー的な世界に馴染みがなかった時代に異世界転生ものをやっていただけでなく、そこにロボットも組み合わせた『聖戦士ダンバイン』というTVアニメです。監督を務めたのは、機動戦士ガンダムの富野由悠季さんです。
物語の導入部分と世界観について簡単に説明しますが、ダンバインファンの方、色々詳しい方は、次の見出しまでザッとスクロールしちゃってください。
現代社会を生きる主人公が交通事故などで命を落としてしまい(あるいはその間際)、それをきっかけに異世界へ……というのが異世界転生作品の冒頭としておなじみですが、『聖戦士ダンバイン』も似たような感じ!? いや、何かちょっと違うかもしれない。
主人公ショウ・ザマはモトクロスに熱中する現代日本人の青年(「現代」といっても作品放映時の時間軸から1980年代前半です)。サーキットで練習を終えバイクに乗っての帰り道、悪友たちから今で言うあおり運転的な嫌がらせを受けます。そのクルマをジャンプして飛び越えると不思議な光に包まれ、『バイストン・ウェル』というファンタジー的な異世界に落ちていく……というもの。
その後はバイストン・ウェルで開発された『オーラバトラー』というロボットのパイロットにスカウトされ彼の地の戦争に巻き込まれていくのですが、ストーリーを語りだすときりがないので興味を持った方は作品をぜひ観てみてください。
ちなみにオーラバトラーはバイストン・ウェルに棲息する『強獣』と呼ばれるモンスターの甲羅、筋肉、脳などを材料にして作られているという今日でもビックリな設定。しかも乱獲により材料に適した強獣が激減するという、ファンタジー的世界観でありながら妙にリアルな側面も……。
さて、『聖戦士ダンバイン』は2023年がTV放送から40周年ということでイベントや新商品の発売など話題が多かったのですが、2024年5月さらに驚きのニュースが。
製作元のサンライズがYouTubeに「実験映像」と称し、現代の技術でオープニング・エンディングをリメイクした映像を公開したのです。
その映像では物語冒頭のショウがバイクに乗っているシーンもあり、メーターなどがより精密に描写されています。
ショウ・ザマの愛車「ホンダ アスペンケード」は超高級バイク
というわけで、当記事ではショウの乗っていたバイクを特定していきます……とネット記事定番の語り口で本題に入りたいころですが、考察する余地もなく第2話であっさり明言されます。
同じく現代から異世界にやってきたアメリカ人で、後にライバルとなるトッド・ギネスから(乗っているバイクについて)「ゴールドウイングか」と聞かれ、ショウは「アスペンケードだ!」と答えるやりとりがあるのです。
ちょっとここからバイクにクローズアップした話になっていきますが、アニメファンの方もぜひお付き合いください。
アスペンケードは1980年代に販売された排気量1000ccオーバーのホンダの高級大型バイクで、海外でしか販売されなかった車種です(*)。当時ダンバインを観ていたバイク好きの人は、ショウとトッドの会話にニヤッとしたのではないでしょうか。
というのも、アスペンケードとは2代目ゴールドウイングをベースとした豪華モデルで、ショウとしてはそこにプライドがあったのかもしれません。
*編集部註:当時の日本メーカーは国内で正規販売するバイクに関して排気量の上限を750ccとする自主規制を行っていた。そのため、それ以上の排気量のバイクは輸出専用の商品だった。ただし、そうしたバイクを一部販売店が「逆輸入」することで、日本で購入することもできた。
このアスペンケードが最初に登場したのは1982年。1980年に発売された第2世代ゴールドウイング(排気量1100cc)をベースとし、大型カウル、オーディオ、トランク、液晶メーター、CB無線を装備。バイクに詳しくない方はハーレーダビッドソン的な大型バイクをイメージしてください。
販売の主なターゲットはアメリカで、広大な大陸を快適にクルージングできるモデルとして1983年まで販売されました。1984年からは1200ccとなった第3世代ゴールドウイングをベースとした2代目アスペンケードも登場しますが、ダンバインの放映は1983年2月から。
というわけで作中に登場したのは間違いなく初代アスペンケードであり、さらに当時の最新鋭モデルだったわけです。ショウの家庭が裕福だったという設定がありますが、そのあたりにも繋がってきます。
悪友たちから「レースは金持ちの息子が道楽でやるもんじゃねぇんだよ」「モトクロスライダーがクルージングマシンに乗るのかよ」的なやっかみを言われる点を含め、アスペンケードは現実のバイク事情をフィードバックしつつ、(当時の)現代日本における彼の立場を説明する見事な小道具だったと思うのです。
■ホンダ ゴールドウイング(GL1100)/1980年発売
輸出専用モデルとして1980年に発売された2代目ゴールドウイング(GL1100)。水平対向4気筒エンジンは初代の999ccから1085ccに拡大され、エアサスを新採用した。
■ホンダ ゴールドウイング(GL1100)インターステート/1980年発売
スタンダードのゴールドウイング(GL1100)と同時に発売されたゴールドウイング・インターステート。大型カウル、トランクなどを追加した上級グレードで、オプションでAM/FMラジオ、ステレオが装備できた。
■ホンダ ゴールドウイング(GL1100)アスペンケード/1982年発売
ゴールドウイングの最上級グレードとして1982年に発売された「アスペンケード」。カウル形状などはインターステートと基本的に同様だが、液晶デジタルメーターを採用するほか、ステレオが標準装備になるなど、より豪華な仕様となっている。
ショウのバイクはアスペンケードとインターステートが融合している?
ただ、バイクファン的にはちょっと気になる点が。
フィクションにに突っ込みを入れるのは野暮というのは重々承知ですが、実際の第1話にせよ、リメイク動画にせよ、メーターがアスペンケードのものではなく、ゴールドウイング、ないしはゴールドウイングインターステートに近いアナログ式の2眼メーターとなっているのです。
また、ゴールドウイング(GL1100)系モデルは水平対向4気筒というバイクでは珍しいタイプのエンジンを搭載しているのですが、作中でのエンジン音は日本車定番の並列4気筒っぽいブォーンという音になっていたり。この音に関しては、映像ができあがった後に富野監督が「バイクの音が違う!」とスタッフを怒ったという逸話があるようです。
とはいえ、どちらも物語の雰囲気を壊すものでもないので特に問題はないんですけど。
最後に、乗り物ごと異世界に飛ばされてくるというのは今の目でも斬新な展開ですが、このバイク、落っこちて壊れしまい退場かと思いきや……。ショウが馬車の代わりに乗ったり、敵の本拠地に潜入するのに使ったりと、ストーリーが進んでも何度か登場する場面があります。。ただ、当初は『HONDA』と書かれていたロゴが、途中から『HENDA』になっているので、何らかの事情があったのかもしれません笑。
まとめ●上野茂岐 写真●八重洲出版/バンダイナムコフィルムワークス
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みんなのコメント
ダンバインもリアルタイムで観ていました。自分の乗っているバイクがいきなり画面に出てきたので、驚いた記憶が今も鮮明に覚えています。アスペンの描写が細部に渡って丁寧になされていました。
わくわくしながら観ていたあの頃がなつかしい♪