車体サイズに見合わぬエンジンを搭載した激速モデルも存在
「分相応」という言い方がある。実力、能力に相応した「何か(対象物)」であることを指す意味と解釈してもよいだろうか。この表現、自動車に置き換えてもあてはまる言い方だ。車体サイズや重量、装備、言い替えれば「車格」に対する動力性能、つまりエンジン性能の関係がこれにあたるだろう。
見た目は実用車なのにエンジンは超強烈! リアル羊の皮を被った狼な国産車5選
当たり前の話だが、自動車メーカーが車両を企画する際、エンジン性能は車体側の条件(重量、サイズ、装備など)に見合った数値で設定される。試乗インプレッションでよく目にする「(車体に対し)必要十分な動力性能」という状態だ。ある意味、抽象的な表現かもしれないが、要は、ドライバーがクルマを走らせる際、感覚的に納得できる加速性能や速度性能を備えているということだ。もう少し言えば、運転操作(アクセル開度)に対して、速からず、遅からず、といったクルマ側の反応である。
クルマを移動の手段と見なし、実用の道具と考えれば、ドライバーの操作感覚に見合った動力性能は、重要な要素と言ってよいかもしれないが、クルマには「走らせる楽しさ、操る楽しさ」といった趣味性の一面があり、加速性能や最高速性能に優れることは、ドライバーに満足を与える要素として、歴史的にクルマの商品性を大きく左右してきた部分でもある。生産車のエンジンをチューニングしてパワーを上げる手法が、クルマを趣味と捉える人たちに、代々引き継がれてきたことも、まさにこうしたことを裏付けるものだ。
もちろん、市場にこうした傾向が強くあることは、自動車メーカーも百も承知。モデルの車種構成をおこなうにあたり、標準仕様に対してエンジンメカニズムに手を加え、性能を引き上げたスポーツモデルを用意するのはすっかり定着した歴史的な手法となっているが、ときおり、メーカーが格違いのエンジンを積むモデルを設定して市場の度肝を抜くケースがある。たとえば、本来は2リッタークラスのモデルなのに、そこに3リッター級のエンジンを積み込んでしまう車両づくりである。
1)日産キャラバンGT
日本メーカーがこうした車両づくりをおこなうようになったのは、難関の排出ガス規制をクリアし、なおかつモータリゼーションが熟成してきた1980年代に入ってからで、最初に動いたのは日産だった。1988年、同社のワンボックスワゴン最上級モデル、キャラバンシリーズ(E24型)に3リッターV6エンジンを積む「キャラバンGT」を設定したことがことの始まりだった。振り返ればバブル経済のまっただなか、すべてが上昇志向にある時代のことだった。
2リッター直4エンジン(Z20型、105馬力)が最適エンジンと考えられていたキャラバンに、セドリック/グロリアシリーズ用のVG30E型をワゴン用に最適化(155馬力)して搭載。文字どおりのGTワゴンの誕生で、高速性能が大幅に引き上げられる大変貌を遂げていた。このキャラバンGTの登場は衝撃的で、市場はもちろんライバルメーカーからも「これは掟破り、マイッタ」の声が聞かれたほど大胆な商品企画だった。
2)三菱RVR-X3/シャリオ・リゾートランナーGT
同じ掟破りという意味では、三菱がRVカーのRVR、シャリオに搭載したターボエンジンも凄まじかった。やはり2リッタークラスの120~130馬力エンジンが適切と思われていた車両に、ランサー・エボリューションで使われていた4G63型DOHCターボを搭載。その後長らくランエボの主力エンジンとして活躍する4G63型は、世界最強の2リッターターボと呼ばれたほど強力なエンジンである。
三菱は、このエンジンをRVカーの性格に合わせて再チューニングを施し、RVR-X3(1994年)、シャリオ・リゾートランナーGT(1995年)として登場させたが、それでも230馬力の超ハイパワー仕様。超快足RVカーとしてマニアの人気を集めることに成功。なお、このエンジンは、三菱が新世代SUVとして2001年に発売したエアトレックにも搭載され、ターボRのグレード設定(2002年、240馬力)で商品化されたが、RVR、シャリオ、エアトレックともすべて4WD方式と組み合わせた点に特徴があった。
3)メルセデス・ベンツ500E
車体に見合わぬ大排気量エンジンの組み合わせは、洋の東西を問わず、クルマ好きにとってはたまらない魅力で、謹厳実直で知られるあのメルセデス・ベンツも商品化を手掛けたほどだった。モデルはミディアム・クラス、バランスと作りの良さで定評のあったW124系におばけエンジンを積むモデルを登場させた。直4で2.2~2.3リッタークラス、直6で3.2リッターまでをカバーしていたW124の排気量レンジに、4バルブDOHCの5リッターV8を搭載する500E(1991年)を企画。まさかと思われる車両づくりだった。
車体製作の一部をポルシェ社が請け負うことでも話題となったが、同社の500SL(R129型)と同じエンジンを積む500E(330馬力)は、ベンツの上級感、高質感が品質を裏支えするかたちとなり、またたく間にスピードマニア層を魅了。のちにE500と名称を変えるが、アウトバーンの超高速セダンGTとしてその座を不動のものにしていた。
実用車にハイパワーエンジンを載せたモデルが多く登場した
4)ルノー・クリオV6
車体サイズに見合わぬエンジンを搭載したという意味では、たしかにベンツ500Eは強烈だったが、別の意味で強烈だったのがルノー・クリオV6だった。ちなみに、日本ではクリオの車名がホンダの商標登録となっていたため、ルーテシアの車名で販売させたモデルである。
このクリオV6は、FF2ボックスカーのクリオをベース(といってもかなりの部分は専用設計となっているが)に、230馬力の3リッターV6をミッドシップマウントしたモデルで2000年に登場。基本の考え方は、1980年に登場したルノー5ターボとまったく同じと言ってよく、本来後部座席が収まる位置にエンジン/ミッションを搭載したミッドシップ方式のスペシャルカーで、生産台数は1300台強と少なかった。
標準モデルは1.4/1.6リッター、スポーツモデルでも2リッター(この仕様で十分以上に速かったが)という車種構成のクリオに、3リッターV6のミッドシップモデルをつくってしまったわけだから、そのアンバランスさは強烈、大きな商品魅力となっていた。車両性格としては、ルノー5ターボの再来とも言われたが、荒々しかった5ターボに対し、近代的に洗練された高性能ぶりが印象的なモデルだった。
5)フォルクスワーゲン・ゴルフR32
さらに、本来実用的な性格が色濃い2ボックスカーに、上質で大パワー/大トルクのV6エンジンを搭載する余力のモデルも企画された。奇しくも、現在は世界の自動車市場で1、2位を争うフォルクスワーゲン(VW)とトヨタという点は興味深いが、まずわずかに先に登場したのかVWゴルフだった。
2006年、すでにリリースされていた5代目ゴルフに3.2リッターV6の250馬力エンジンを積むR32をリリース。VW独自の4WD方式、4MOTIONとの組み合わせで、全天候型高速クルーザーを目指すモデルとして登場した。
6)トヨタ・ブレイドマスター
一方のトヨタは、カローラのプラットフォームをベースとする2ボックスカーのブレイドに2007年、3.5リッター4バルブDOHC、280馬力の2GR-FE型を搭載するブレイドマスターを追加。ブレイド自体、2.4リッターエンジン(167馬力)を搭載する上級2ボックスカーとして企画された点が大きな特徴だったが、この余力のエンジンに代え3.5リッターV6エンジンを搭載したことで、FF2ボックスのグランドツアラーをつくり上げていた。
ゴルフR32、ブレイドマスターと、格違いの上級エンジンを積んだことで並外れた動力性能、静粛でスムースな走り味を手に入れたが、小気味よく俊敏に走ることを狙ったホットハッチとは異なり、2ボックスカーによるハイウェイグルーザー的な性格が色濃かったため、鮮明なユーザー層が見えにくいという側面も持っていた。
7)日産ジュークR
量産車ではないのだが、イギリス・レイマロック社が限定5台で製作したジュークRは、この格違い車両の最高例と言えるだろう。ジュークの車体に、日産GT-RのVR38DETT型エンジンと6速デュアルクラッチトランスミッション、トランスアクスル方式の4WDシステムを組み合わせて搭載。パワーは545馬力で、世界トップレベルのスーパースポーツカーと較べても遜色のない性能だった。
2010年の発表で2011年に販売されたはずだが、2015年にはパワーアップ版のジュークR2.0が発表された。エンジンパワーが599馬力にまで引き上げられた仕様で価格はおよそ50万ユーロ(6000万円)以上と言われたが、はっきりとしたことはわからない。いずにしても、世界名うてのスーパースポーツカーと同程度の価格設定、性能であることは間違いなさそうなスーパーSUV。なお、レイマロック社と日産の関係は、1990年代中盤、日産がプリメーラでBTCC参戦活動を展開した時からの付き合いとなる技術集団である。
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