■レーシングプリウス登場! どんなクルマなのか
2023年12月22日23日にタイで行われたレースに「レーシングプリウス」が登場しました。
市販プリウスとは違う仕様ですが、どのようなクルマなのでしょうか。
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1997年にエンジンとモーターを協調して駆動する世界初の量産ハイブリッドカーとして登場したプリウス。
「21世紀に間に合いました」のキャッチコピーと鉄腕アトムを筆頭に手塚作品のキャラクターが登場するTV-CMが記憶に残っている人も多いでしょう。
その後、2003年に2代目、2009年に3代目、2015年に4代目に進化を遂げますが、幅広い車種でハイブリッドが普及した現在、その役割は一つの節目を迎える事に。
実は上記のような理由でプリウス廃止案もあったと言いますが、「エコカーは普及してこそ環境に貢献する、手が届くクルマは絶対に残すべし」と継続は決定。
しかし、次期プリウスを「どのようなクルマにするのか?」で、意見が大きく二つに分かれました。
豊田章男社長(当時)は「真のコモディディとなるタクシー専用車にしてはどうか?」と提案。
それに対して開発陣は「愛車として合理性だけでなくエモーショナルな体験を提供できるクルマ」を提案。
この状況に豊田社長は「このケンカ、面白いね!!」と語ったと言います。
これまで「できないからやる、それが挑戦です」を自ら実践してきた豊田氏だからこそ、否定しなかったのでしょう。
その後、出来上がったデザインを見て「カッコいいね!!」と。
それが「Hybrid Reborn」をコンセプトに2022年11月に発表された5代目プリウスです。
このコンセプトを筆者なりに解釈すると、歴代モデルの個性は「圧倒的な燃費」でしたが、新型は「燃費がいいのは当たり前、それとは違う+αを盛り込む」でした。
開発陣が盛り込んだ+αとは「一目惚れするデザイン」と「虜にさせる走り」の二つ。この二つ、歴代プリウスも全く無視していたわけではありませんが、最後は燃費のために犠牲になっていたのも事実です。
つまり、愛車にこだわる開発陣はその呪縛を自ら説いたのです。
ここで終わらないのが豊田氏です。2023年5月8日にダイハツ工業の不正行為をめぐり、対象車種の主な生産や販売の拠点となっているタイで会見を開いた時、タイのメディアから変化球のような質問があがりました。
「今年のブリラムのレースはどのような車種で走られる予定ですか?」
豊田氏は笑顔でこのように答えました。
「昨年走らせた2台(水素GRカローラ/GR86)に加えて、3月のバンコクモーターショーで参考展示したプリウスを3台目のマシンとして参戦させようと思っています。
水素エンジン、CN燃料、そしてハイブリッドと言う3つの選択肢をお見せしながら、レースをお楽しみいただきたいと思っています」
つまり、豊田氏は常日頃から「カーボンニュートラルに選択肢が必要」と語っていますが、その中でも「今できる事=ハイブリッド」の重要性をタイ人に伝えるために、プリウスでの参戦を決意したのでしょう。
ちなみにタイではハイブリッドの販売比率は伸びているも日本と比べるとまだまだです。
それならモータースポーツを活用して伝えることが一番の近道だと考えたのでしょう。
ただ、筆者はプリウスを選択した理由はそれだけではないと思っています。
これは豊田氏ではなくモリゾウとして「愛車と言うからには、サーキットでもFun to Driveじゃないと」と言う、開発陣への新たな挑戦状です。
ちなみに歴代プリウスで“量産仕様”をベースにしたレーシングカーは今回が初となります(2代目をベースにパワートレイン高性能化&軽量化を行なった「プリウス・サーキットバージョン」を開発したが、実戦投入はされていません)。
チーフエンジニアの大矢賢樹氏は「実はタイの発表で我々も知りました(笑)。以前から『スポーツ性を高めたプリウス』は構想としてはありましたが、それ以上は進めた事がなかったので、今回は『チャンスだ!!』と。約半年の短期開発でしたが、TNGAをフル活用することでレースに間に合わせる事ができました」と語っています。
ここで少しおさらいですが、TNGAはトヨタのクルマづくりの構造改革です。
プラットフォームやパワートレイン中長期的に使えるように最初に高いレベルを実現させ、それを皆で共用する「技術のモジュール化」、各モデル/各ユニット/各生産工場でバラバラだった「技術的な共有」など、クルマ作り/仕事の進め方のフルモデルチェンジを意味します。
その辺りは、レーシングカーの変更項目を見ていくとよく解ります。
■レーシングプリウスは何が変わっているのか?
エクステリアはフロントにリップスポイラー追加(水素GRカローラやGR86に近いでサイン)に加えて、バンパーサイドにはカナードが追加されています。
それもアドオンではなくレクサスLCの限定車「EDGE」で採用された世界初の樹脂成型技術を用いた一体成型。レーシングカーならアドオンでもいいはずですが、そこにこだわったのは将来の商品展開に期待が高まる部分の1つでしょう。
サイドはノーマル(195/50R19)よりも幅広タイヤ(245/625-17)を装着する関係から、フェンダーアーチも専用品(カーボン製)に変更されています。
リアは巨大なリアウイング(カーボン製)に加えて、リアウィンドウはガラス→アクリル(熱を逃がすためのダクト付)に変更されています。
リアバンパーは下部が大きく切り取られ、左側にスポーツマフラー(藤壺製)、右側にはモーター冷却用オイルクーラーなどが見えます。
インテリアはレースに不必要なアイテムは取り外され、ロールケージやバケットシート、安全タンクなどレース用のアイテムがプラスされています。
インパネ上部のインフォテイメント&空調レジスター部にはスイッチパネルを移設、メーターは専用品をより低く、よりドライバーに近い位置に装着(シートポジションを下げているのでノーマルメーターだと見えない)。
かなりレーシーなイメージですが、シフトセレクターはノーマルのままと言うのが面白い所です。ちなみに助手席にはクーラーボックスが設置されていますが、これも冷却用(モーター/PCU)でしょう。
パワートレインは変わっていないようで大きく変わっています。2リッターエンジン+モーターのTHSII(シリーズパラレル式ハイブリッド)と言う基本構造は変更ありません。
しかし、エンジンはアトキンソンサイクル(M20A-FXS)からオットーサイクル(M20A-FKS)、モーターを含むトランスアクスルは1サイズ大きいカムリ用に変更されています。
更にバッテリーもノーマル以上PHEV未満の容量に変更されています(容量は不明)。もちろん燃料はカーボンニュートラル・フューエルを用います。
大矢氏は「我々が持つシステムの中で『何が使えるか?』を調べ、今できる事を全て盛り込んでいます。搭載にあたり細かい加工・修正はしていますが、基本的にはアドオンです。これはTNGAの『技術のモジュール化』が大きく貢献しています。従来のクルマづくりだと切った張ったの大手術が必要となり、この短期間での開発は不可能だったと思います」と教えてくれました。
制御系は「全開走行時でも電池枯渇を防ぐ」、「モーター版アンチラグシステム(コーナー立ち上がりでの加速力を向上)」、「レース環境用の充放電技術」、「より効率よく回生」などの専用制御を用いますが、これらはWECで培ったノウハウが水平展開されています。
WECは「ハイブリッド技術を鍛える」を目的に参戦を続けていますが、このプリウスにはかなり色濃くフィードバックされているわけです。
これらの変更により、ノーマル(国内仕様)に対して25%以上の出力アップを実現。単純計算すると196ps→245ps以上になります。
シャシ系はレース用のサスペンション(バネ/ダンパー/スタビライザー)やブレーキ(エンドレス製)に変更されていますが、車体はロールケージ以外はノーマルのままだと言います。
■実際に走った「レーシングプリウス」印象は? 片岡選手&モリゾウ選手に聞いてみた!
マシンはルーキーレーシングに委託され、「CP ROOKIE PRIUS CNF-HEV GR Concept」として、IDEMITSU SUPER ENDURANCE SOURTHEAST ASIA TROPHY 2023(タイ10時間耐久レース)にエントリー。
ドライバーは日本のスーパー耐久で14号車(メルセデスAMG GT3)に乗る、片岡達也/蒲生尚弥/平良響選手(鵜飼龍太選手はお休み)に加えて、True Leasing社長兼CP執行役員のカチョーン・チャラワノン氏(クルマ好きでレース参戦歴もある)、そして水素GRカローラとダブルエントリーするモリゾウ選手。
つまり、トヨタとトヨタと提携したCPグループ、そしてルーキーレーシングのトリプルタッグでの布陣です。
その走りはどうなのか。このチームの監督でもある片岡選手に聞いてみました。
「シェイクダウンを含めて僅かしか走っていないので制御の煮詰めは必要ですが、感触は非常に良いです。
パワートレインは欲を言えばパワーがもう少し欲しい所ですが、アクセルOFFでも回転落ちが少ない上にコーナーではモーターがアンチラグのように活用できるので、常に加速できる構えがあります。
トランミッションも電気式CVTですがレスポンスも良くフィーリングも悪くないです。
このコースだとアクセル全開率は高いので燃費は想像していたほどではありませんが、熱的な問題は出ていません。
シャシは非常にシッカリしていてバランスも良いので、コーナリングスピードは高いです」
予選は1分59秒452で総合20位(ちなみにGR86は1分48秒507で総合2位、水素GRカローラは1分53秒676で総合6位)。決勝は10時間をノントラブルで272周を周回、総合11位(クラス6位)でゴールしました。
レース後にモリゾウ選手に走りの印象を聞くと、「ブレーキ(回生協調)が難しく、最後のスティントで『やっとコツを掴んだかな』と思ったら、イエローが出てしまいピットイン……。現時点ではドライバーもクルマも“片思い”の状態ですね。もう少し速ければスポーツできるかな」とマスタードライバーらしい少々厳しい評価でしたが、まずはトラブルなく完走。ここでの課題を是非とも次のステップに繋げてほしいです。
このプリウス、今後のレース予定は現時点ではないようですが、2024年1月に行なわれる「東京オートサロン2024」に展示される事が決定しています。
日本のクルマ好きに見せる意味、スーパー耐久シリーズへの参戦はあるのか。(ST-5クラス並みの速さはある)
そしてこの知見やノウハウを活かしたスポーツバージョン(GRプリウス?)が登場する可能性はあるのか。
プリウスの挑戦はまだまだ続きそうです。
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みんなのコメント
めちゃくちゃスポーティーすぎる!!