ベントレーのSUV「ベンテイガ」に設定された高性能バージョン「スピード」に今尾直樹が試乗した。
小山のように大きい
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ベントレー・ベンテイガ・スピードは、いかにもベントレー的であると同時に、従来のベントレーの枠組みを打ち破ろうとする、これぞ野心の塊、であるように私には思われた。
もっとも、伝統とは単にあるものを守るだけではなくて、時代に合わせてなにがしかを加えたりすることでつくられていくものだからして、2020年8月に本国で発表され、昨年初夏に日本に上陸したこのあたらしいベンテイガの旗艦がそう思わせるのはごく自然なことだともいえる。つまり、自分で申し上げるのもなんですけれど、なにも語っていないのに等しい……。ああ。
であるにしても、ベンテイガ・スピードはなにもかもがゴージャスすぎる。
まずもってそのサイズだ。全長×全幅×全高は5145×1995×1755mm、ホイールベースは2995mmある。小山のように大きい。12気筒を積むスピードならずとも、ベンテイガはそもそも大きいわけだけれど、同じプラットフォームを使うアウディ「Q7」とホイールベースは同寸ながら、Q7より80mm長くて25mm幅広く20mm高い。だから、ベンテイガのほうがリッパに見える。
おまけにスピードは、フロントのボンネットの下に、635psにパワーアップした6リッターW12ツイン・ターボを潜ませている。V8のベンテイガが21インチ・ホイールを標準にしているのに対して、スピードは1インチ大径を履いている。ベンテイガのなかでもスピードは、なんというか、自信に満ちているように見える。
8年後、ベントレーはすべてBEVになる
振り返ってみれば、ベンテイガはW12ツイン・ターボを搭載する、ベントレー史上初のSUVとして2015年にデビューした。はじまりにフォルクスワーゲン・グループ傘下のベントレーのシグニチャーである6.0リッターW12ツイン・ターボがあった。
その4年後、最高出力608psだったW12を635psにビーフアップした高性能モデルがベンテイガにも追加された。それがベンテイガ・スピードである。
2020年にベントレーはベンテイガにマイナーチェンジを施す。このとき、前後のデザインにメスが入り、コンチネンタルGTとの共通性を感じさせる、現在の丸みを帯びたカタチに変わる。このフェイスリフト後のベンテイガをここでは「新型」もしくは「フェイズ2」と呼んでおく。
新型の登場時に注目すべきだったのはW12ではなくて、V8で登場したことだ。この時点で、ベントレーの首脳陣は方針を変換していたのだ。温暖化ガスであるCO2の削減は、少量生産の高級車といえども避けては通れない。むしろ、ノーブレス・オブリージュ、高貴な者には責任がある、と判断した。本年1月、ベントレーは2025年から5年にわたり、毎年1車種、BEV(バッテリー電気自動車)を発売するという「ファイブ・イン・ファイブ」計画を発表、2030年にエンド・トゥ・エンドでカーボン・ニュートラルを達成する、と宣言したのである。
8年後、ベントレーはすべてBEVになる。個人的には、がちょ~ん。だけれど、気候変動は人類の存亡にかかわるテーマなのだから致し方ない。
カーボン・ニュートラルへと向かう道程で、ベントレーはベンテイガにV6+モーターのハイブリッドを設定し、12気筒は高性能版のスピードのみを残すことにした。前期型ボディのベンテイガ・スピードを送り出してわずか1年という短期間で、フェイズ2のスピードに切り替えることになったのだから、パワートレインを継承しているのは当然というべきだろう。
超高性能SUVであることを悟らせない
もっとも、筆者は前期型ベンテイガ・スピードに試乗していないこともあって、今回、新型ベンテイガ・スピードのステアリングを握り、限られた時間だったとはいえ、ただただ呆気にとられた。これはベンテイガの皮を着た怪物である。
5950ccW12気筒直噴ユニットは、ツイン・スクロール・ターボチャージャーを2基備えて、最高出力635psを5000rpmで、900Nmもの 最大トルクを1750~4500rpmという広範囲で発揮する。車重は車検証の数値で2560kgもある。そうとう重い。しかも空気抵抗のいかにも大きそうなボディを、圧倒的なパワーとトルクによって最高速306km/h、0~100km/h加速3.9秒という高性能を実現している。
ベンテイガV8の4.0リッターV8ツイン・ターボだって、最高出力550psと最大トルク770Nmを生み出し、十二分に速い。最高速290km/h、0~100km/h加速4.5秒という俊足なのだ。
ちなみに、ポルシェ「911カレラ・カブリオレ」はそれぞれ291km/hと4.4秒である。ベンテイガ・スピードは、それを軽く凌駕する運動能力を備えている。
あまりの高性能ゆえ、骨の髄まで味わうことは都会の一般路上では事実上、不可能である。それゆえ、怪物性が際立つ。謎に満ちていて、正体がわからないからだ。
ベンテイガ・スピードは大仰な爆音をまき散らす、足まわりをガチガチに締め上げたモンスターではない。12気筒が目覚めるときも、爆裂音でドライバーを驚かせるようなことはしない。あくまでジェントルで、物腰が柔らかい。映画「ベン・ハー」に出てくるローマ戦車風の巨大なホイールをギラリと光らせ、285/40ZR22という扁平タイヤを履いているというのに、街中での乗り心地はごく快適で、超高性能SUVであることを悟らせない。
驚くのは、アクセル・ペダルにのせた右足にそっと力を込めるだけで、じつに軽やかに動き始めることだ。2560kgの巨体がふわり、と羽毛のように軽やかに一歩を踏み出す。それがいともたやすく行われる。眼前のメーター類はコンチネンタルGTさながら。着座位置はなるほど高いけれど、SUVとは思われぬ。中途半端な速度で走っていると、ふらふらしているような感覚はある。それがひとたび速度を増すと、ビシッとする。
タコメーターの針は、よほど意識しない限り、2000rpmを超えることは滅多にない。2000rpm以下で、日本国の制限速度をたやすく超える。室内はあくまで静粛で、乗り心地は快適。ふかふかの絨毯のようではないけれど、さりとて大理石のフロア、むき出しというわけでもない。繰り返しになるけれど、サヴィル・ロウのスーツに身を包んだプロレスラーに抱かれているような感じで。
「ベンテイガの衣をまとった怪物」
試みに右足を深々と踏み込むと、ぐおおおおおおおっというW12気筒が快音をひかめに轟く。2000rpmを超えるとピョンとジャンプし、3000rpmを超えると、月に向かって飛び立つように加速する。みるみる先行車に近づく。ブレーキを踏む。交通安全の標語が浮かぶのはこのときである。「飛び出すな。クルマは急に止まれない」
車両価格は3356万円。オプションが360万円ほどおごられたテスト車は3720万4960円というプライス・タグをつけている。国産のコンパクトSUVだったら10台、筆者が8年前に60万円で買った中古のルノー「ルーテシア」だったら、62台とお釣り少々に匹敵する価格である。62台もあったら、困っちゃうよなー、駐車スペース。ベンテイガ ・スピードだったら、駐車場を1台確保するだけでよいのだから、お金のつかい方としては効率がよい、といえる。
まったくもって浮世離れしている。この浮世離れしたベントレーが2021年は世界中で飛ぶように売れた。昨年のベントレーの総販売台数は過去最高の1万4659台で、前年比37%増。日本も同30%増の596台に達したという。
ベンテイガに限ると、昨年の国内の販売台数は258台で、ベントレーの43%を占めていた。このうち12気筒のスピードはわずか28台だった。つまり、ベンテイガのほとんどがV8で、12気筒は1割に過ぎない。V8は2280万円と、12気筒とは1000万円以上の開きがあることにくわえ、V8で性能的には十分、バランスという意味ではむしろ12気筒以上かもしれないのだから、合理的判断としては正しい。
ベンテイガ・スピードは合理を超えたところにある。「まぼろしのベンテイガ」、あるいは「ベンテイガの衣をまとった怪物」と呼ばずして、なんと呼ぶべきや。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
大型ハイパワー車作りにちょうどいいんだよね。
これがV型だとノーズが伸びてバランス破綻してしまう。
スーパーカーにはV10とV12もあるし
開発メーカーの集合体という感じ。
EV化で名機がどんどん減ると思うと乗れるタイミングは限られるなぁ。そもそも高額で手が出ない💦