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愛車の履歴書──Vol24. 豊原功補さん(後編)

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愛車の履歴書──Vol24. 豊原功補さん(後編)

愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第24回の後編。俳優の豊原功補さんが、思い出深いポルシェについて語る!

運命の997型ポルシェ911

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「今度もまたひと目惚れだったんです」と、俳優の豊原功補さんは運命の1台との出会いを振り返る。

「ちょうど40歳になったときで、仕事帰りだったのかな、『ポルシェセンター目黒』の前を通ったときに、出たばっかりの『ポルシェ911』(997型)を見ちゃったんです。それまでもポルシェはずっと気にはなっていました。930型は大好きだったし、その次の964型もよかった。でもみんなが口を揃えて、ポルシェは大変だよ、仕事には使えないよ、って言うし、ポルシェで現場に言ったらアルファロメオ『スパイダー』みたいにカジュアルな感じでもないから、面倒臭いやつだと思われるかなとか、いろいろ考えてしまって……。でも997型を見た時に、好きだった930型のクラシックな雰囲気に戻っているような気がして、それでついショールームの中に入っちゃったんですね」

豊原さんによると、ポルシェセンター目黒のセールス担当者が、懇切丁寧に新しいポルシェ911の魅力を説いてくれたのだという。

「座るだけ座ってみてくださいと言われて座ったらマニュアルで、しかも997型だったら普段使いもいけると聞いて、グラッと揺れたんですよ。でもこの値段は無理と自分に言い聞かせて、こういう世界もあるんだと思って名刺だけいただきました。すると1カ月後に電話で、認定中古車にほとんど新車みたいな個体が入ってきたと連絡があって。確か新車より200万か300万ほど安かったのかな。見に来るだけ見に来ませんか? と、言われて、見に行っちゃったんです。ボディカラーはグレーとガンメタ(リック)の間みたいないい色で、内装はシンプルな黒。しかもマニュアルで、こんな掘り出し物はなかなか出てこないと言われて、その口説き文句に負けましたね。契約しちゃいました。ハンコを押すときには、手が震えました(笑)」

40歳で997型のポルシェ911と暮らすようになった豊原さんは、「こんなにいいクルマが世の中にあるのかと思いました」という。

「速度を上げると路面に吸い付くとか、自動車専門誌に書いてあることって誇張されているんじゃないかと疑っていたんですが、すべて本当でした(笑)」

そして1年、2年とこのクルマと接するうちに、「普通の道を走っているだけだとかわいそうじゃないか」と思うようになった。

「ポルシェセンター目黒で働いている人の仲間が筑波サーキットの走行会に参加しているということで、最初は見学に行きました。ぶつかったらどうするんだろう……と、思っていたら、『空いているときに走れば大丈夫ですよ』と、言われて。それでフルノーマル、吊るしの状態で筑波サーキットを走ったんですけれど、これがすっごい楽しかったんです。最初は吐きましたけど(笑)。そこからいろいろ勉強して、タイヤを換えて、オイルのメンテをして、といった具合にハマっていくわけですね。富士スピードウェイでポルシェの走行会があると聞いて行くことになったときは、レーシングスーツを新調しました」

豊原さんがサーキット走行にのめり込んだことがよくわかるのが、「富士スピードウェイで2分を切るか切らないかというところまでいきました」という発言だ。富士スピードウェイのラップタイム2分は、ハイパフォーマンスカーとサーキット走行を愛する人たちのひとつの目標で、「フンギリを達成した(2分を切った)」というと、尊敬の眼差しで見られる。ざっくりいうと、市民ランナーにおけるフルマラソン3時間以内にゴールする「サブスリー」のような“目標”だ。

「ただ、走行会のたびにタイヤを履き換えて、オイルを交換して、とやっていたらどんどんお金がなくなりました。段々と調子に乗って危ないスピンもするようになったし、このあたりで止めておこうと思ったんです。富士スピードウェイのラップタイム2分を目の前にフルアクセルでメインストレート240km/hで突入する全集中の、あの世界を知ることができたのは喜びだったし、これ以上は趣味の範囲を超えてしまうな、と」

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「ポルシェを好きだったというのもあるし、あとは結構お金もかけてしまったから(笑)」

そして10年ほど前に、ポルシェ911を手放した。

「ちょうどその頃から、自分が演じるだけでなく、演出やプロデュースなど、自分が作品を作る側のほうにも重心を置き始めたんです。撮影現場や舞台に行って、表現をして帰ってくる仕事のスタイルから、人と会って打ち合わせをするスタイルに移行したタイミングです。お酒が入る機会も増える、そうするとクルマで移動することが難しい。そこで極端なんですけど、ポルシェを1回手放して、“歩く世界”に行ってみようと思ったんですね。ほかに家族用のSUV が1台あったので、クルマから完全に離れたわけではありませんが、ほぼ電車やバスや自転車で移動するようになりました」

豊原さんがいま考えているのは、いずれ仕事のステージが変わったら、ちょっと古いポルシェに乗るのもいいかもしれない、ということだ。

「専門的なことはわかりませんが、ナローから930型、964型ぐらいの形とサイズは無条件にいいと思っています」

そして撮影用に用意された930型のポルシェ911をじっくりと眺めながら、豊原さんは「いやぁ、まいったな……」と、つぶやいた。そしてオーナーの方の案内で、運転席に座り、細部をチェックする。

「これは最高のコンディションですね。オーナーの方がとても親切な方で、運転席に座らせてもらったんですが、ドアを閉めたときのガキンという感触が本当に堅牢で、エンジン音も滑らかで、こんなに素晴らしい930は初めて見たかもしれない」

確かに、この個体のコンディションは極上で、撮影に参加したスタッフ全員がぽーっと上気してしまうほどだった。

「コクピットも最高じゃないですか。充分なスペースがあるんだけど、自分ひとりになれる空間というか。このクルマが自宅のガレージにあったら最高ですけど、でもいまじゃないという感じもしています。いまの状況を乗り越えて、次のフェーズに入ったらこのクルマが似合うようになるかな。あとオーナーの方とおお話してみて、この方よりも大事に面倒を見られるとは言い切れない。十分な環境も必要です。ペットじゃないけれど、いい飼い主さんが見つかってよかったな、という感じです」

最後に豊原さんは、930型ポルシェ911との邂逅を、こんなふうにまとめた。

「素晴らしいコンディションの930と素敵なオーナーの方にお会いして、ヘンな表現ですけれど共同所有しているような気になりました。あのような方が代々所有なさって、たまに僕のような人間も今日みたいに接することで、幸せを分かち合うことができます。とにかく今日は眼福というか、いい経験をさせてもらいました」

豊原功補(とよはらこうすけ)1965年9月25日生まれ、東京都出身。16歳で芸能界デビュー。代表作品は、NHK大河ドラマ『平清盛』、映画『南極料理人』など。2007年に公開された映画『受験のシンデレラ』で、『モナコ国際映画祭』最優秀主演男優賞を受賞。出演した映画『福田村事件』が、2023年9月1日(金)に『キリエのうた』が10月3日(金)に公開される。

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文・サトータケシ 写真・加藤純平 スタイリスト・亘つぐみ@TW ヘア&メイク・RYO 編集・稲垣邦康(GQ)

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