以前、2代目ホンダ・プレリュードの開発者にインタビューしたことがある。1980年代当時、“デートカー”として大人気となったクルマだが、日本車初のALB(アンチロックブレーキ)を搭載するなど、技術の面でもかなり革新的なクルマだった。
そのALBについて開発者に「他社と共同開発したりしたんですか」と尋ねると、「ハハハ愚問ですね。1980年代のホンダがヨソ様の力を借りると思いますか」と一笑に付された。それほど技術に対しての圧倒的自信とプライドがあったということだ。そのホンダの自信とプライドを“オートバイ”に詰め込んだのが1982年登場のVT250Fである。ホンダ市販車初、250ccクラス初のV型エンジン・レイアウトを採る革新的なモデルだった。
VT250Fの発売は1982年5月25日。価格は39万9000円だった。250cc高性能スポーツバイクの隆盛は、80年登場のヤマハRZ250から始まった。いわゆる「レーサーレプリカ時代」の到来である。当時、レーシングマシンにおいては小型軽量で高出力を発揮する2ストローク・エンジンのほうが有利と考えられ、ヤマハをはじめ2ストでロードレース世界GPを戦う各メーカーは市販スポーツモデルにもそれを反映させようとしていた。
だがホンダは違った。あえて4ストローク路線を敷いたのだ。そもそもホンダは4ストローク・エンジンの優位性を唱え、79年に4ストロークのレーサー「NR500」で世界グランプリに復帰を果たしていた。NRには“楕円ピストン”を用いたV型4気筒エンジンという独創的かつ高度な技術が投入されていた。VT250Fはピストンこそオーソドックスな円形だったが、NRの技術を受け継いだ気筒あたり4バルブのVツインエンジンを搭載して登場した。
GPマシン「NR」の血統を受け継いだクラス初のVツインエンジンを搭載。ヤマハRZ250と並び250ccクラス最高の35psを発揮した。赤いフレームに赤いシート、洗練された外観V型エンジンのシリンダーバンク角は90度。一次振動を打ち消すことができ、振動対策によるコンポーネンツの肥大化が避けられるというメリットにより11000rpmで35psを発揮する、当時としては超高回転型のエンジンだった。2つのシリンダーが車体に対し縦に並ぶためエンジン幅が狭く、そのスリムさを利した軽快な身のこなしも魅力だった。加えて低回転域から力強いトルクを発揮する4ストロークのエンジン特性は、RZなどの2ストローク勢に対する明らかなアドバンテージだった。
VT250Fは外見でも時代の先端を行っていた。ライバルたるRZが丸目ライトにパイプハンドルという、70年代的と言えるオーソドックスなスタイルだったのに対し、VTは角型ライトとウインカーを内蔵した小型フェアリングにセパレートハンドルを組み合わせた。鋼管製のダブルクレードル型フレームは鮮やかなレッドに塗装され、その洗練されたルックスは多くのバイクファンを惹きつけた。
ウィンカーを内蔵した小型フェアリング、赤く塗装されたフレームに赤いシートなど洗練されたデザインが目を惹いた。翌83年、それまで認められていなかったフルフェアリングが解禁されると、時代はいっそう先鋭化されたレーサーレプリカ・ブームへと向かう。VT250Fも「インテグラ」の名を冠するフルフェアリングバージョンを追加した。ただしレース目的というよりは空気抵抗の低減によるライダーの負担軽減を目的としたスポーツツアラーという性格が強かった。より刺激的なパフォーマンスを求める向きには84年、2ストロークモデルのNS250Rが用意された。
果たしてVT250シリーズは売れに売れた。登場1カ月後の82年7月に早くも8418台を販売し、軽2輪クラス(125cc以上250cc未満)の過去最高記録を更新。販売後34か月には同クラス初の累計販売10万台を達成した。以降このVT250シリーズは現在まで(現在はVTR250となっている)ホンダ2輪の“柱”となるモデルとして続いている。
ブレーキは兄貴分のCBX400Fと同じインボードディスクを採用。制動力とフィーリングに優れるが錆びやすい、という特徴を持つ鋳鉄製ディスクを外気と湿気から護るためのメカニズムだった。文・金子直樹
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