電気自動車は「走る、曲がる、止まる」では差別化しにくい
4月に行われた社長就任会見で打ち出された、ホンダの三部敏宏新社長による「2040年には世界で販売する新車のすべてをBEVとFCVにする」という目標は、大きな驚きをもって迎えられた。エンジンのホンダが、脱エンジンを宣言したのだから特にクルマ好きにとっては衝撃的に聞こえたのも無理はない。
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正直に言えば私は、ガソリンでも電気でも、それはクルマを動かすためのパワートレーンの違いでしかなく、極端な話どっちでも何でもいい。それより私がこの時に物足りなく思ったのは、本来はもっとも重要なはずの、この先のホンダがユーザーに何をもたらそうとしているのかという夢やビジョンが示されなかったことの方だった。
先日、その三部社長にお話をうかがう機会があり、まずはストレートにそのことを聞いてみた。返ってきたのは、とても率直な言葉だった。
「仰るとおりで、本当はそっちの方が優先順位が高いと思っています。我々はB to Cのビジネスでお客さまに商品を買っていただいているので、それをどうするんだという話が本来は(IR向けの話よりも)最初に来なくちゃいけないですよね。その中で言うと、今後のクルマの価値ということでは、電気自動車は走る、曲がる、止まるという部分では、やはり差別化しにくいのは事実です」
エンジンの圧倒的な魅力や速さといった旧来の価値は、もう通用しない。しかも周囲には過去の常識にとらわれないプレイヤーがたくさん居て、自動車ビジネス自体、新たなフェイズに入っている。
「そこでは、やはり新しい価値を提案できなければいけないということで今、一生懸命やっています。私としてはひとつは空間価値。自動運転技術のようなものが入ってくれば、移動中にセカンドタスクが出来る。でも、そういうニーズは多様だと思いますので、それに応えられるソフトウェアの力が大事になってくる。各社、同じようなことを言っていると思いますが、どこも“コレだ”というものを明確に示せていないと思うので、ここは我々、勝負所だと思っています」
空間価値とソフトウェア。まさに三部社長自身が言うように、これは今、どの自動車メーカーも言っていることで、正直言って、この時点ではホンダならではの何かを示せているとは言い難い。しかしながら、そんなことを思う私の顔色を察してか、三部社長はさらにこう付け加えた。
電動化時代のタイプR、そしてもっと身近な高性能車の存在
「それだけだと他の自動車会社と一緒なので、その開発も厳しいんですけど、やはり電動化時代の“タイプR”みたいなものは一応、考えてます。過去にNSXベースの4モーターEVをお見せしたことがありますが、もうちょっと普通の人が乗ってファンなものは出来ないか考えて、私が研究所に居たときから開発は進めていて、どこかで出そうと思っています。まだ研究中で、全然量産計画に乗っているわけではないですけれども」
電動タイプR! 電気モーターならではの制御性のよさを生かして、異次元のハンドリング性能を実現するスポーツモデルとなるだろうか。NSXでスーパーハンドリングSH-AWDを実現したホンダだけに、そこには“らしさ”も宿るように思える。
しかも、もっと身近なものとして考えているようだという発言にも注目したい。そこには現行NSXへの反省もあるのだというが、今のホンダのラインナップを見ていると、その重要度はさらに増してくる気がする。何しろスポーツモデルのラインナップを見ると、すでにS660は生産終了が決定し、NSXの未来も明るくはない。フィットRSすら存在しないのだ。
シビック タイプRに次期型があることは宣言されたが、今のシビック タイプRは高性能を追い過ぎて、誰もが手に入れられるクルマではなくなってしまっている。もっと若いユーザーが、あるいは家族持ちが、大人が、などいずれも当てはまるのだが、とにかくもっと手軽に、気軽に、楽しめるクルマがホンダには必要だろう。
あるいは、それは電動化の前、ここ数年の間の話でもいい。このままではホンダのスポーツ心に惚れ込むファン、居なくなってしまう。
「まったく仰るとおりで、商品ラインナップに今、問題があることは素直に認めて、見直しはしていきます。何を打ち出すというのは言えませんし、開発に時間がかかるんで、すぐにとは言えませんが、例えばちょっと頑張れば買えるようなスポーツカーとかね、そういうのも、八郷(前社長)の時代からずっと研究はしていたのに出るに至らなかった。でも、そういうのは要るよねと。いきなりEVに飛ぶのではなく、まだそこまで行くのに10数年ありますので、コンベンショナルな技術でも、やっていきたいと考えています。肩の力を抜いてベーシックでありながら高性能な車みたいなのをね、考えてます」
次期型クラリティは、SUVで出すべきでは?
ラインナップについて話をするならば、対象はスポーツモデルだけには留まらない。先日も狭山工場の閉鎖に伴ってオデッセイ、クラリティ、レジェンドの生産終了が発表されたばかり。特にクラリティについては、将来的にBEVとFCVで行くと言っているのにやめるのかと感じた人、多いはずだ。
「クラリティは、狭山工場が閉じるのは解っていたので、当初は間が開く予定じゃなかったんですが、コロナ影響とか色々あって開発が少し遅れて、カッコ悪いんですが、ちゃんとやっていて出しますよ。少し間が開いちゃうというだけで、やめるのかというと、やめません」
次期クラリティがどんなクルマで出るのかまでは突っ込めなかったが、もはや官公庁への納入、関連企業への販売みたいなことには捕らわれないクルマになっていてほしいと強く思う。そうなるとセダンにこだわる必要もないわけで、ズバリSUVのFCVを出してくれれば、ニーズは大きくなるはず。何より私自身、そういうクルマが出たら検討したい、真剣に。
クラリティというかFCVについては、とりあえず納得。とは言え、他にもどんどんラインナップが削られている今、ホンダの四輪事業は一体どうなってしまうのか、不安を覚えてしまうことはやはり否定できない。
「進め方が今一歩だったところはありますが、事業を縮小しようとしているわけじゃないので。やめるものもあれば、新しいものも同時に出てこなければいけないんですけど、ちょっと時間差ができちゃって、やめるほうが先行してしまってそう見えてしまっているかと思います。ですが、寄居工場も稼働して生産能力もちゃんとありますので、ちゃんと同じように出していきます。四輪事業を縮小しようと思っているということはまったくないですよ」
ホンダにはフレッシュなエネルギーを期待したい
ご存知のとおり、ホンダの四輪事業は今、利益率が非常に低く、口の悪い輩は“四輪をやめれば優良企業だ”などと言う始末だったりもする。今のホンダには続けるというだけでなく、売れるクルマ、稼げるクルマが必要だ。
「ホンダの四輪事業は体質が良くないのではと言われますが、実際はそんなことはなくて、生産の稼働率などは業界でもトップレベルなんです。ですから、これ以上内部を削っても利益はなかなか出てこないんで、そこじゃない。もちろん改善はしますが、それだけでバラ色の四輪事業になるわけではなくて。次の時代の利益の出る車というのは、イコール、商品として魅力があるということ。その辺りは色々手を打ちつつあるので、まだ詳しくお話はできませんが、このままで良いわけはないと思って、変えていきますから」
三部社長にお話をうかがった中から、特に四輪事業に関する部分の話についてお伝えした。詳細までは引き出せなかったが、将来的にも、あるいはここ数年という話で見ても、きっと皆さんが想像するより面白いクルマを出してきてくれそう。そんな風に感じられたのではないだろうか?
個人的にはホンダには、やはりワンダー~スポーツシビック辺りの頃のフレッシュなエネルギーを期待したい。ロングルーフで室内が広く、ボンネットが低くガラスエリアの大きかったワンダーシビックは、間違いなく当時としては独自の空間価値を持っていたし、スポーツシビックの快活な走りは、限られた人のための汗臭い体育会系ではない独自のスポーツ性に繋がっていた。あの頃持っていた、そういう価値観を、今の時代性で再解釈して具現化してくれたらと、願わずには居られない。
率直な語りを信じて、今後のホンダに期待したい。そんな風に感じさせてくれたインタビューだったと思っている。
〈文=島下泰久〉
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みんなのコメント
記事の中に名前が挙がっていたタイプR以前のシビックも当時は別にスポーツカーではなかったし、特別高性能でも高級でもなかったが、スポーティーに走りたければスポーティーに、日常の足としてならそれなりにと、ユーザーの意思で乗り方を選択していた。
ホンダに限らず、今の自動車メーカーに求められているのは、そういう車ではないのかなと思う。
スポーツ車が来年に出ます。
頑張ったら買えるスポーツカーをお願いします、
新型S2000をお願いします。