BMWアートカーをペイントした人物が手がけたM1
2024年11月23日にRMサザビーズがドイツで開催したオークションにおいてBMW「M1」が出品されました。ホモロゲーションモデルとして399台がラインオフされた中の1台で、BMW「アートカー」シリーズを陰で支えたアーティスト、ヴァルター・モーラーによるユニークな塗装が施された個体です。
ランボルギーニと共同開発していたBMW「M1」はいまや高値安定…メディア向けの広報車が7500万円オーバーで落札されました
アートカー・プロジェクトで主導的な役割を果たした
BMWのファンならば、レーシングカーをキャンバスにした独特なペイントワークが施された、いわゆる「アートカー」の存在は、よく知られたところだろう。その始まりは1975年、ル・マン24時間レースに定期的に参加していたエルヴェ・プーラン氏によって、レーシングカーとアートの世界を両立させることを両立させることが呼びかけられたことに始まる。
実際にこの年、アーティストであるアレクサンダー・カルダーが3.0CSLのカラーリングのデザインを担当。実車へのペイントはBMWの伝説的な塗装職人であるヴァルター・モーラーが担当した。その後もこの野心的なプロジェクトは続き、モーラーはフランク・ステラ、ロイ・リキテンスタイン、エルンスト・フックスなどのデザインを忠実に、そして美しく実車に再現している。こうしてBMWのアートカーはたしかにひとつの時代を象徴する存在となり、サーキットの華となったのである。
このアートカーに前後してBMWでは、ひとつのスーパースポーツ・プロジェクトが進行していた。E26の社内型式を持つMシリーズの元祖、「M1」だ。1970年代を迎えたBMWにとって、モータースポーツの舞台で最も大きな脅威となっていたのはポルシェであり、BMWは「3.0CSL」、あるいはその排気量拡大版の「3.5CSL」を投じても、レースでは満足な結果を残すことはできなかった。
M1の開発にはランボルギーニが関わるはずだったが……
そこで考えられたのが当時のグループ4規定を満たすモデルとして開発され、1978年のパリ・サロンで発表されたM1である。それが開発の初期段階にある頃、BMWはそのプロジェクトにイタリアのランボルギーニを関係させることを画策していたが、結局その計画はランボルギーニの慢性的な経営不振や、BMWによる買収計画が明らかになるに至って白紙の状態に戻ることになる。
だがM1は、ミッドシップのスーパースポーツとして非常に魅力的なモデルであったことは間違いない。ダラーラによって設計されたシャシーには、かのジウジアーロ率いるイタルデザインがデザインした、Cd値で0.40というきわめて高性能なボディが組み合わされ、そのミッドには3453ccの直列6気筒DOHC 24バルブエンジンが搭載された。このエンジンの最高出力はロード用では277psとされていたが、レースに投入されたそれはオーバー500psの動力性能を実現していた。
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モーラー本人からの手紙も高評価につながった
BMWは1980年末までに800台のM1を生産し、グループ4の公認を得る計画だったが、残念ながら高価な価格設定もあり、それが完了したのは1981年、FIAがそれまでのカテゴリーを全廃し、グループA/B/C車両による世界選手権を開催することを決定してからのことだった。
結果、M1がレースで活躍する場はル・マン24時間や、M1によるワンメイクレース「プロカー・アソシエーション・シリーズ」に限られる程度の寂しい状況に追い込まれてしまう。だがそれでもBMWはアートカーというもうひとつのプロジェクトをM1で続けることを諦めなかった。
1979年にかのアンディ・ウォーホルがわずか28分でペイントしたM1は、その年のル・マン24時間で6位に入賞する。また、前述の塗装職人であるヴァルター・モーラーが特別に仕立てたM1が存在している。
現在もそのペイントが美しく残るモーラーの手によって塗装されたM1は、フロントリップ、サイド、リアのホイールアーチにパールホワイトのベースコートが施され、ボンネット、エンジンカバー、ルーフにはエアブラシでグレーの濃い色合いの塗装を用いることでM1のシャープなプロファイルが強調している。
オールホワイトのホイールはボディ周囲のブラックのディテールとも調和し、M1の右リアライトの下にはMaurerのサインが刻まれている。その仕上がりはまさにM1のデザインにベストマッチしたものと評価してもよいだろう。
今回RMサザビーズの「ミュンヘン・マスターピース・コレクション」に出品されたこの1979年式M1アートカーに、同社は45万ユーロ~55万ユーロ(邦貨換算約7226万円~8868万円)の予想落札価格を提示。実際の落札価格は47万7500ユーロ(邦貨換算約7699万円)という数字に落ち着いた。
走行距離がわずかに3万3862kmであること、そして2024年8月に書かれたモーラーからの手紙のコピーが備わることも、またそれが高く評価された結果なのだろう。一連のBMWアートカーは、もはやひとつの文化的な遺産と考えても、それは間違いではないようだ。
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