■クロスカントリー4WDの源流は「Jeep」
大人気のあまり、スズキ新型「ジムニー」の生産能力を増強したというニュースは記憶に新しいですが、大ヒットの要因となっているのは、間違いなくデザインです。“プロの道具”を目指して原点回帰したという外観デザインは、メルセデス・ベンツ新型「Gクラス」やランドローバー「ディフェンダー」を彷彿させる「四角」でした。
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80年代から90年代にかけて、日本の自動車市場を席巻したクロスカントリー4WD、例えば三菱「パジェロ」やいすゞ「ビッグホーン」はすべてスクエアなデザインでした。現在のSUVのように極端に空力性能を考慮したボディになったのは初代のホンダ「CR-V」やトヨタ「RAV4」登場以降であり、長い間「四駆は四角くシンプルだから格好いい」という価値観がスタンダードだったのです。
すべてのクロスカントリー4WDの源流は、アメリカの「Jeep」にあります。ナチスドイツがポーランドを侵攻した際、スピーディな攻撃を可能にしたのが自動車化部隊でした。その中核となって働いたのが、「Kfz.1ストゥーバー」という小型四輪駆動車でした。
アメリカ陸軍はその活躍ぶりから、自国にも同じような車両が欲しいと考え、国内の自動車メーカー各社に開発を打診し、数台の試作車が生まれました。そして最終的に世界中の戦地で活躍したのが、ウイリスMBとフォードGPW、いわゆる最初のJeepだったのです。
ご存じの通り、初代Jeepのデザインは至ってシンプル。車体の軽量化、生産の容易さ、戦地での運用性の高さを兼ね備えるために、必然的にあのような四角い形になりました。ですが、その四角さはまた別な利点も生んでいました。それは見切りが非常に良く、誰でも運転しやすいということです。岩や樹木などの障害物が多いシチュエーションでは、車体の四隅がどこにあるか瞬時に掴めるということは、大きなメリットです。
戦後、日本でもJeepが新三菱重工業(現 三菱自動車)によってノックダウン生産されましたが、警察予備隊(現 自衛隊)の制式車両導入に際して、いくつかのメーカーがJeepを参考にして試作車を製作しました。そしてこれら試作車のDNAは、のちのトヨタ「ランドクルーザー」や三菱「パジェロ」、日産「サファリ」といった日本を代表するクロスカントリー4WDに受け継がれていくのです。またゲレンデヴァーゲン(現 Gクラス)やランドローバー「シリーズ1」(初代ディフェンダー)も、大きな影響を受けていました。
スクエアなボディは、見切りの良さや車内の空間効率の良さに繋がることは前述しましたが、この低燃費重視の現代において空力面で不利な形状は前時代的にも思えます。ですが、JB64/74型ジムニーをはじめとする四角いクロスカントリー4WDは予想以上の成功を収めました。
■四角いクルマ人気の理由は昭和レトロ?
6月に新型にスイッチしたGクラスですが、メルセデス・ベンツ日本の広報部に尋ねたところ、「前モデルと同様に非常に好調な販売となっている」といい、さらに同ブランドのSUVモデルすべてをひっくるめても、「GLAと並ぶ主力商品」ということでした。
Jeepを扱っているFCAジャパンもまた、「Jeepラングラーは他モデルと比較しても当社トップの市場を構築している」と言います。さらに両モデルに共通していたのは、「世界においても日本は特に大きなマーケットになっている」ということです。なぜ日本人はこんなに四角い四輪駆動車に惹かれるのでしょうか。
ジムニーのデザイナーが目指した基本コンセプトは、「長く変わることのない、無駄のない機能美」。過剰な加飾や複雑なラインが交錯する昨今のSUV、クロスオーバーのデザインに、日本のユーザーは少々食傷気味になっている気がします。
さらに、昨年からのムーブメントとなっている「昭和レトロ」ブームも追い風になっているのかもしれません。音楽シーンなどサブカルの幅広い分野で、昭和のよきモノの再評価が始まっています。さらに四半世紀ぶりのアウトドアブームも、クロスカントリー4WDの人気に拍車をかけていると言われています。昭和世代に懐かしく、平成世代には新しい、昔ながらのスタイルを継承しているクロスカントリー4WDは、そんな魅力も持っているのではないでしょうか。
最新の安全装備や電子デバイスを搭載していても、デザインは昔ながらのクロスカントリー4WD。余計な装飾は付けず、機能だけを追求してカタチを造る。そんなシンプルな原点に、日本の自動車ユーザーが回帰しつつあることは間違いなさそうです。
この秋登場予定の新型Jeepラングラーアンリミテッドに、2019年はいよいよ新型ランドクルーザーの発表もあると騒がれています。これらによって、ますますクロスカントリー4WDの世界が活況を呈しそうです。
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