内燃エンジン版とほぼ同じデザイン
電気で走るメルセデス・ベンツGクラスが、ついに誕生した。内燃エンジン版と併売されるが、同社は多くのユーザーに選んで欲しいと考えている。
【画像】破壊的に速い4モーター メルセデス・ベンツGクラス G 580 競合クラスの電動SUVたち 全167枚
メルセデスAMGのG 63より、トルクは太い。走行中の車内は静か。しかも、悪路性能で勝る。英国価格は、BMW iXと同等が見込まれる。半世紀前と大きく違わないスタイリングを持つ、有能な電動オフローダーだ。
見た目から、内燃エンジン版と見分けるのは難しい。僅かに膨らみを増したボンネットと、プラスティック製のトリムが付いたフロントピラー、マフラーカッターがないことくらいの差しかない。
リアのホイールアーチには、空気抵抗を改善するエアカーテンという機能を実装。車内のノイズを低減させる効果もあるという。
ピラー部分には、ドアを閉めやすくするため、通常より大きい通気口が設けられた。それでもしっかり閉めるには、強めに引っ張る必要がある。テールゲートの丸いケースにはスペアタイヤが入っておらず、充電ケーブルを収納できる。
シャシーは、従来どおりのラダーフレーム。駆動用バッテリーは、左右のシャシーレールの間に載る。冷却システムも同様だ。
電動化に当たり、3本のシャシー・クロスブレースが取り除かれ、バッテリーケースが剛性を担っている。悪路を想定し、カーボンコンポジット素材のプレートで、保護されてもいる。このプレートはボルトで固定され、交換作業は簡単だという。
高い着座位置に起き気味の運転姿勢
インテリアも、ほぼそのままGクラス。ハッチバックを見下ろすような高い着座位置や、背筋を伸ばした運転姿勢は変わらない。
全長を考えると、車内空間は限定的。リアシートは、身長の高い大人には若干窮屈だろう。バックミラーをのぞくと、円形の充電ケーブルケースが良く見える。
ダッシュボード上のモニターは、12.3インチの2画面。メーター用と、インフォテイメント用で構成され、メルセデス・ベンツのMBUXシステムが稼働する。グラフィックは高精細で、動きは滑らかだ。
ただし、音声アシスタントは仕事熱心すぎる様子。システムのボタンを押していなくても、理解できませんでした、と会話に割り込むことがあった。
エアコン用には、実際に押せるハードボタンが残されている。サイドミラーの角度は、ドアのボタンで調整できる。パワーシートとパワーウインドウのスイッチも、従来どおり。これまで当たり前だったものが、直感的で使いやすいと再確認する。
ステアリングホイール上のボタンで、アダプティブ・クルーズコントロールの調整も可能。これも便利に感じた。ただし、それ以外のボタンは筆者の手には小さすぎるかも。
荷室の容量は555L。高さ方向には余裕があるものの、奥行きがないため、荷物は縦に積むことになる。フロントのボンネット内は、電動パワートレインのシステムで埋まっており、収納空間は得られていない。
破壊的に速いクワッドモーター トルク118.5kg-m
電動のGクラスは、現在のところG 580の1択。AMG仕様は予定にないものの、クワッドモーターでの最高出力は587ps、最大トルクは118.5kg-mもあるから、必要ないだろう。各147psのモーターが1本のタイヤを受け持ち、前後に2基づつ別れて載っている。
0-100km/h加速は4.7秒。高性能なバッテリーEVとしては驚く数字ではないかもしれないが、実際に味わってみると破壊的に速い。
ブレーキの効きは至って滑らか。ペダルの感触は一貫性が高く、回生ブレーキの強さはステアリングホイール裏のパドルで調整できる。
Gロアと呼ばれる、人工のエンジン音はかなりリアル。iXの宇宙船のようなものとは異なり、AMG仕様を穏やかにしたような響きで、知らない人が乗ったらガソリンエンジンで走っていると勘違いしそうだ。
バッテリーEVになったことで車重は更に増え、3085kg。Gクラスは、以前からトラックのように重いと感じてきたが、実際の数字もそれに届いた。
ステアリングの反応や感触などから、その重さが伝わってくる。乗り心地もどっしり。それでも、3tもあるようには思えないけれど。
低速域では、凹凸の目立つ路面での揺れが大きめ。速度抑止用のスピードバンプでは、強めの衝撃が届くことも。速度が増すほど乗り心地は滑らかになるが、ランドローバー・レンジローバーには及ばない。レザーシートを通じて、揺れが伝わってくる。
四角いボディが故に、風切り音も大きめ。静かな電動パワートレインのおかげで、余計に目立つようだ。
悪路性能は内燃エンジン版より優れる
パワステが付いているから、ステアリングホイール自体は軽く回せる。しかしレシオはスローで、タイトなS字カーブなどを通過すると、腕を沢山動かすことになる。ワインディングを速めに下る場面などでは、疲れそうだ。
悪路性能に関して、メルセデス・ベンツの技術者は、内燃エンジン版より優れていると話す。トルクの太い独立した4基のモーターが、悪路での走りを緻密にサポートするためだ。渡河水深は850mmとされ、従来より150mm深い川も横断できる。
特徴となる技術の1つが、Gステアリング。旋回時に内側のタイヤを減速させ、外側のタイヤへパワーをかけることで小回りを利かせる、トルクベクタリングの1つ。これは、滑りやすい路面でも効果を発揮する。
またGターンは、前後のモーターを逆回転させることで、その場でくるりと回転する機能。中国のヤンワンU8も同等の機能を備えるが、動きが機敏で楽しかった。これは、オフロード以外での利用が制限されている。
これらの機能を抜きにして、基本としての走破性は非常に高い。今回の試乗ではAMG G 63にも試乗したが、同じオフロードコースをより簡単に走破してみせた。特に特別な技術は必要なく、ローレンジ・モードに入れるだけで問題なしだ。
ちなみにローレンジ・モードでは、仮想のデフロックが有効になる。とはいえ、オーナーがその違いに気付くのは難しいかもしれない。
電費は振るわず 自然で真っ当な進化形
さて、四角いボディで車重は軽くないから、容量116kWhの巨大な駆動用バッテリーで得られる航続距離は、最長473km。電費は3.2-3.5km/kWhとなる。実際に運転してみた限り、3.0kmを超えれば御の字だろう。そもそも、Gクラスは燃費が悪かった。
比較すると、このG 580なら、充電が切れるまでにアルプス山脈のシェークル峠を14回踏破できる。AMG G 63は、ガソリンタンクが空になるまでに6回だ。
バッテリーEVとしての合理性でいえば、G 580が優等生だとはいえないだろう。価格はお高めだし、走行中の車内の揺れは大きく、風切り音も大きく聞こえる。電費が良好とはいえず、実用性で秀でるわけでもない。
それでもGクラスとして考えれば、自然で真っ当な進化形だといえる。適度にレトロでラグジュアリーな個性は変わらない。そもそも、それらの弱点は内燃エンジンのGクラスにも当てはまってきたものだ。
◯:しっかりGクラス 見事なオフロード性能 良く考えられたパッケージング
△:車内空間は狭め お高めの価格 優れない電費
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みんなのコメント
「燃料が少ないからガソリンを持ってきてくれ!」と言う訳にはいきませんよ。