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最強トヨタのライバルメーカー!? コロナ禍でもスズキが強い理由は?

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最強トヨタのライバルメーカー!? コロナ禍でもスズキが強い理由は?

 コロナ禍で低迷している国内新車販売。その影響は2020年度の新車販売台数にも表れて、各メーカーとも販売台数は軒並み前年比割れ。そんななかで、トヨタは2.7%減、スズキは3.7%減と、前年割れでも両社とも大きな落ち込みはなく、ほぼ前年並みといえる販売台数をキープした。

 圧倒的なシェアで強さをみせつけるトヨタ。今、そのトヨタと同じような強さをみせているのがスズキだといえるのだ。コロナ禍でもトヨタに並んでスズキが売れている理由はどこにあるのか? 小林敦志氏が解説する。

発売から1年経ってわかることもある! 期待以上だったクルマと裏切られたクルマ

文/小林敦志  写真/TOYOTA、SUZUKI、ベストカー編集部

【画像ギャラリー】トヨタのシッポはすぐそこだ!! 絶対王者に迫る健闘を見せるスズキ

■トヨタ販売店では競合車としてスズキ車の名前がでてくる

スズキ ソリオ。最近トヨタディーラーでのルーミーの商談のなかでソリオが引き合いに出されることが増えている

 日本国内の新車販売市場は、トヨタが圧倒的な勢いでトップシェアとなっているのは言うまでもない事実。しかも、すべての期間がコロナ禍という2020年度(2020年4月~2021年3月)の販売状況をみると、まさに“トヨタ一強”と言っていい状態となった。

 2020年5月にトヨタはトヨタブランド系ディーラー4チャンネル(トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店)において、全店全車種併売化(一部を除く)をスタートさせた。

 コロナ禍であり、しかもまだまだ新型コロナウイルスがどんなものなのかわからないなか、感染拡大が続いている最中に全店併売化を実施したわけだが、これが大きくコロナ禍でのトヨタ一強を後押しすることとなった。

 もともと全店併売化以前からトヨタ以外の他メーカー車と比較検討されるケースが少なくなっていたのだが、その一方でトヨタディーラー同士での“潰し合い”が激化し、日産やホンダのライバル車が商談で引き合いに出されることが、ほとんどなくなったという。

 しかし、あるトヨタのセールスマンは「ここのところ、ルーミーの商談でソリオが、ライズの商談でクロスビーが引き合いに出ることがありました。スズキのこれらの車種はいまでも商談で車名が出てくることがたまにあります」とのことであった。

■トヨタvsスズキに見せかけた代理戦争!?

同じくトヨタ ライズの商談中によく引き合いに出されるスズキ クロスビー。トヨタディーラーでの商談中に比較対象として名前がでるのは、それなりに存在感が大きいことの証だ

 スズキ ソリオは1997年にデビューしたワゴンRの登録車版といえる“ワゴンRワイド”がその源流となる。その後1999年にワゴンRワイドの2代目に相当するモデルが“ワゴンR+”としてデビュー。モデル途中で“ワゴンRソリオ”そして、“ソリオ”と改名し、これが初代ソリオとなった。

 そして2010年にワゴンRのようなスタイルではない、オリジナルモデルが2代目モデルとしてデビュー。さらに2015年に3代目がデビューし、現行4代目は2020年にデビューしている。

 一方のトヨタ ルーミー&タンクは、ダイハツ トールのOEMとして2016年にデビューしている。

 スズキ クロスビーは、一見すると軽自動車ハスラーの登録車版に見えてしまうが、メカニカルコンポーネントは共用していないオリジナルモデルとして、2017年にデビューしている。

 そして、ライズはダイハツ ロッキーのOEMとして2019年にデビュー。ヤリス クロスデビュー後の売れゆきは落ち着いたものの、それまでは長期の納期遅延が発生するほどの大ヒットモデルとなった。

 以上、4車のプロフィールを見ておわかりのように、ルーミーより先にソリオが、ライズより先にクロスビーがデビューしているのがわかる。

 そして、ルーミー、ライズともにダイハツからのOEMなので、いわばルーミーとライズが“SD戦争(とくにブランド別軽自動車販売でダイハツがスズキと競い合うので両ブランドのイニシャルをとってこう呼ぶ)”の“代理戦争”をトヨタがしているといってもいいだろう。

 ちなみに登録車販売でダイハツは、2017暦年締め年間販売台数が前年比409.2%、以下2018暦年締めが125.5%、2019暦年締めが123.8%、2020暦年締めが128.4%と、他ブランドと比べて際立って伸びている。これはトールやロッキーが新規車種として投入され大きく貢献しているのである。

 2020年度締めでの年間販売台数でみると、ルーミー10万3064台に対し、ソリオ4万3664台。ライズ12万988台に対し、クロスビー1万4510台となり、“代理戦争”といっても、ガチンコで販売台数を競い合っているというわけではない。

 筆者が「スズキ車が商談で引き合いに出る」と聞いて興味を示したのは、販売台数争いをしているからではない。結果的にルーミーやライズのライバルとしてソリオやクロスビーしか挙がらない、その背景に興味を持ったのである。

■トヨタ車をジワリと脅かすスズキの影

写真のルーミーをはじめ、国内専売のコンパクトモデルを多くラインナップしているのはトヨタの強みだ

 2020年度締め年間販売台数で、登録車だけでなく軽自動車を含めた台数でみると、トヨタが圧倒的にトップ(しかも軽自動車はほんの数%)となり、大差がつくのだが、2位はホンダを抜いてスズキとなった。

 軽自動車販売ではライバルとなるスズキとダイハツ。そのダイハツの軽自動車販売比率が全体の9割以上なのに対し、スズキは8割強となる。スズキは登録車販売も熱心に進めている様子がうかがえる。

 トヨタが国内販売で圧倒的な強みを持っているひとつがグローバルモデルのヤリスのほか、パッソ、ルーミー、ライズといった、国内専売となるコンパクトカーを多くラインナップしているところがある。

 日産やホンダなど、そのほかのブランドでは国内専売は軽自動車に任せているようにも見え、コンパクトカーはノートやフィットぐらいしかラインナップしていない。この2台はヤリスのライバルとしてはふさわしいが、パッソやルーミー、ライズのライバルにはなりえない。

 トヨタ以外のブランドでは、国内市場の自動車ユーザー独特の趣向性や道路環境に合わせた専売車(5ナンバー車が喜ばれる)をラインナップする余力がなく、グローバルモデルで賄おうとするので、前述したようにトヨタ車のライバルとしてなかなか車名が挙がってこないのである。

■販売力の差を考えれば大健闘のソリオ

2020年度のトヨタ ルーミーとスズキ ソリオの販売台数推移比較

 自販連(日本自動車販売協会連合会)統計をもとに、2020年度における各単月での、ルーミーとソリオの販売台数推移をグラフにした。ソリオは10月、11月に台数がダウンしているのが目立つが、これは11月末にフルモデルチェンジを行っているため。

 グラフを見てもらえば一目瞭然であり、ルーミーとソリオのグラフは絡み合うことなく、それぞれ違ったレベルをキープしている。

 2020年度締めでの年間販売台数はルーミーが10万3064台。2020年9月までは兄弟車タンクがラインナップされていたのでグラフでは便宜上合算していることもあるので、10月から2021年3月の6カ月での平均月販台数は、月販目標8700台に対し約1万1464台。

 ソリオの年間販売台数は4万3664台。2020年11月にフルモデルチェンジしているので、12月から2021年3月までの4カ月での平均月販台数は月販目標台数3500台に対して、5409台となっている。

 ルーミーが月販目標を大幅にオーバーして販売しているのに、ソリオも月販目標台数をオーバーした販売ペースとなっている。ソリオはルーミーに販売台数を獲られているということはなく、ルーミーとは被らないお客に販売しているように見える。

 ソリオの過去の年度締めでの月販平均台数をみると、2019年度が約3700台、2018年度が約3836台、2017年度が約4172台となっており、先代モデルの時でも、ルーミー&タンクがデビューした後も、月販目標台数以上の月販平均台数を記録してきた。

 そのため、トヨタとスズキのセールスパワーの差を考えても、大健闘というか、逆を言えば、ルーミー&タンクがソリオとは違う客層をさらに開拓して売っていると考えたほうがいいかもしれない。

 クロスビーについては、さまざまな要因もあるのだが、ライズの大ヒットにより、食われてしまった状況は否定できず、販売台数を落としている。

 オリジナルモデルとなって2代目が2010年にデビュー、その後ルーミー&タンクが2016年にデビューするまで、ソリオは同クラスでコンセプトがベタで被るモデルは存在せず、“一人勝ち”で大ヒットといっていい販売台数の記録を続けていた。

 ただ、ソリオを「いいクルマだなあ」と思っていても、「スズキだからなあ」と手を出さない人も多かったようだ。どうしても“軽自動車のスズキ”というイメージが強いので、“スズキの登録車”に抵抗を示す人もいるのである。

 そして、そうこうしているうちにトヨタがルーミー&タンクをデビューさせると、「(ソリオみたいのが)トヨタから出た」ということで購入する人が現れる。

 ほかにも、ソリオの存在を知らなかった人が、「なんか面白そうなクルマが出た」とか、「使い勝手がよさそうクルマがトヨタから出た」ということで、ソリオとは異なる客層がルーミー&タンクに集まったのである。

■トヨタとスズキの営業マンは似ている!?

おなじみ『初売りセール』に暇潰しで訪れたようなユーザーに新車を購入する気にさせるのがスズキの営業マンだ。その手法はトヨタの営業マンとよく似ている

 トヨタが発表した、レクサスを含むトヨタの2020年度の国内総販売台数は153万8224台となり、前年同期比で96.9%であった。一方でスズキの2020年度の四輪車年間総販売台数は64万7222台となり、前年比同期比96.3%であった。

 コロナ禍のなか、2020年4月と5月に一時的とはいえ、市場全体での大幅な販売台数の落ち込みがあったことを考慮すれば、前年同期レベルのキープどころか、前年同期比プラスぐらいの実績にも見えるほど、トヨタもスズキも好調に推移した。

 絶対的販売実績ではトヨタとスズキでは大きな開きはあるが、筆者が見ている限りでは、トヨタとスズキの販売現場の様子はかなり似ているように見える。

 例えば、トヨタのセールスマンは、初回車検すら到来しておらず、新車への乗り換えなど検討もしていないお客が点検でショールームを訪れ、点検が終わるのを待っている間に、そのお客のところへ、下取り査定額や値引きの入った見積りをもっていき、ほぼその場で新車へ乗り換えさせるセールスマンも目立つと聞く。

 「初度登録から年数がたった古いクルマに乗っておられるお客様より、初回車検前など比較的新しいクルマに乗られるお客様のほうが、新車に乗り換えてもらえる可能性が高い」とは、現場のセールスマン。

 お客が新車への乗り換えを検討するのを待つのではなく、「新車が欲しい」という気持ちもないお客に新車を売ってしまう、これがトヨタのセールスマンの得意技であり、トヨタ一強の原動力なのである。

 一方でスズキは毎年、正月3日から“初売りセール”を行うのが慣例。筆者もほぼ毎年様子を見に3日にスズキのディーラーを訪れるのだが、ショールームは多くの来店客でにぎわっており、そのなかでも新車購入の商談をしているお客が目立つ。

 単に正月で時間に余裕があるから店に来たという人もいるだろうが、多くは初売りを案内して、セールスマンが集客した“お得意様”と聞いたことがある。

 ここでも、それほど新車購入に興味がないものの、来店記念品の豪華な初売りセールの案内を受けたので店を訪れて、なにげなく商談して新車を買ってしまったというケースも珍しくないようである。

 もちろん、即決したくなるような値引きを中心とした、お年玉のような好条件が提示されていることもあるが、スズキでもトヨタディーラーのような売り方をよく見かけるのは確か。

 “欲しい人に売る”のではなく、“あの人にこの新車を売ろう”とセールスマン個々で勝手ではあるが、売り込み時期と売り込み車種を決め、かなり戦略的に動いているのである。

 トヨタやスズキのディーラーのセールスマンだけがこのような売り方をしているわけではないが、圧倒的に得意としている様子は伝わってくる。

■カリスマの引退がスズキの販売に与える影響は

業販店を非常に大切にする鈴木修会長の存在もスズキの強さの一端だ。カリスマの引退を控え、今後のスズキのスタンスにも注目したい

 また、スズキでは正規ディーラーでの直販や、副代理店と呼ばれる一般的な“ショールームを構えて販売する店”だけでなく、街のモータースや中古車専売店といった新車販売について協力関係を結んでいる“業販店”での販売台数が多いのも特徴的となっている。

 街のモータースや中古車専売店は、いわば街中でのクルマについての“オピニオンリーダー”といっていい存在。そのような業販店の経営者やスタッフに、例えば「ソリオなんかいいんじゃないかなあ」と薦められて、そのまま購入を決めるという人も多い。

 なお、業販店はスズキ以外にダイハツや、その他のメーカー系ディーラーとも業販契約を結んでいることが多い。そのなかでスズキの鈴木 修会長は、業販店を非常に大切にしており、折に触れ「家族は元気ですか」などと声をかけていたとのこと。

 そのため、月末でそろそろ台数を締めなければならないという大事な時期になると、「鈴木(修)会長には日ごろから世話になっている」と、新車が欲しいという人にスズキ車を積極的に薦めることもあると聞いたことがある。

 ただ、その鈴木会長も間もなく正式に引退となる。“カリスマ”が去ったあと、同じような関係を業販店と続けるのか、それとも新しい道を歩むのかは今後興味深いところとなるだろう。

■資本提携関係にあるトヨタ&スズキは企業風土が似ている

企業風土が似ているトヨタとスズキだからこその資本提携関係といえるが、この両社はある意味ライバル同士といえるような売れゆきを見せている

 コロナ禍となり、接触を避ける意味からも業界ではリモート商談が注目されている。受注手順や、新規登録の手続きを根本的に変えずに導入されているので、結局は“接触する機会”が減るだけが現状なのだが、今後は今の若いひとが新車購入のメイン層になれば、有効なツールとなるだろう。

 ただ、そのような時代がきても、気軽に店頭に来てもらったり、気軽に自宅や事務所を訪れることができる“お得意様”を多く持ち、膝と膝をつきあわすような商談をリモートでも積極的にできるような顧客を大切にしているトヨタやスズキ。

 お互いの規模は異なるものの、他メーカーよりは安定した新車販売を展開していくことができるものと考えている。

 トヨタは2020年5月にトヨタ系ディーラー全店での全車併売化という“”大なた“”をふるった。今後はディーラーや店舗の統廃合を進めていくだろう。販売現場が見えているからこそ、あえてコロナ禍に併売化を実施し、小売りベースでは絶好調といえる新車販売を見せた。

 しかし、そのようなトヨタでも販売現場からは時おり、「販売現場の実状を理解しているのか」といった声が聞かれるようになっており、不安がまったくないわけではない。

 スズキは今でもメーカーに入社した新入社員などを全国のディーラーに出向させている(ほかのメーカーもディーラーへの出向は行なっているが、趣旨が少々異なる)。つまり、メーカーとディーラーが非常に近い関係となっており、国内市場のトレンドなどを敏感にすくい上げることを可能としている。

 トヨタとスズキはディーラーとメーカーの距離が近いということでは似ているように見える。そして、このような企業風土が似ているからこそ、いまではトヨタとスズキは資本提携関係にあるのかもしれない。

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