あの頃は、日本車がおもしろかった!
“ひとひねり”の産物
ヒットも納得──新型ホンダ・ヴェゼルe_HEV X HuNTパッケージ試乗記
1980年代、ユニークなコンセプトのクルマを日本の自動車メーカーは競うように提案した。セダンを例にとっても、ひとひねりがあった。当時は日本経済ものぼり調子だったし、10代~20代がいっしょけんめいにクルマを買っていた。そのぶん、上の世代は上級移行。そんな広いマーケットに向けて、さまざまな商品が投入されたのだ。
今となっては「?」なクルマも多いけれど、それもまた時代の産物。今振り返るとおもしろい!
(1)日産「レパード」(初代)1970年代の後半から1980年代を通して、日産は、ひと味、あるいはふた味、従来の定石とは違うコンセプトの乗用車を発表して、クルマ好きを喜ばせてくれた。
なかには、コンセプトが先行しすぎていて、技術が追いつかず、アイディア倒れになるようなクルマもあったけれど、1980年に発売された初代レパードは、気合いが入っていた。コンセプトでトヨタを負かせてやろうという気概のようなものを感じさせたモデルだ。
注目点のひとつが、ボディデザイン。2ドアハードトップと、4ドアハードトップが同時に展開された。本来は、ベースにした「ブルーバード」(910型)と強い差別化するため、2ドアハードトップだけでよかったようだ。
いま見ると、大胆なボディデザインがたいへん興味ぶかい。ライバル視していたトヨタ「ソアラ」は、自動車デザインのセオリーに忠実な、あぶなげのないボディデザインを採用していたのに対して、レパードはもっと奔放だった。
全長は4.6m、全幅も1.7m未満といわゆる5ナンバーサイズなのに、ロングノーズを強調したプロポーションや、エレガンス路線なのか実用性重視なのか判然としない2ドア車のウインドウグラフィクス(サイドウインドウのデザイン)がユニーク。
当時は、バンパー一体型エアダムや、強いスラント角を実現したノーズ、ホイール部分にふくらみのないフェンダー、ピラーのデザイン処理などが、大変おもしろかった。
とくにピラーは、4ドアでは、Aピラー以外はすべてブラックアウトした、デザイン用語でいうところの逆カンチレバールーフであり、同時に2ドアではリアクオーターピラーを車体同色して目立たせるという処理。ここも奔放である。
デビュー当初は、当時としてもさすがに古いと思われたL型という直列6気筒エンジン(デビューは1965年)で、がっかり。VG30ET型が搭載されたのは1984年になってからだった。
デザイン的には4ドアが当時、素敵に思われた。ウインドウグラフィクスがエレガントで、リヤオーバーハングが長すぎるなどプロポーションに難はあったものの、あたらしいセダン像の提案になっていたからだ。
いっぽう2ドアは、ボディ下半分が黒く塗られそこに“TURBO”と大きく入れられた「TR-X(トライエックス)」なるモデルが設定されたり、4ドアとは大きくかけ離れたスポーティな印象。いまならコレも個性的でおおいにアリ。
トヨタでいうところの「クラウン」とソアラをひとつのモデルシリーズでカバーしようというところに、ちょっと無理があったのかもしれない。1986年の販売終了まで、セールスは思わしくなかった。意あって力足らずといっては悪いけれど、そういうクルマって今の眼からすると魅力的なのだ。
(2)ホンダ「コンチェルト」ネットフリックスのドラマ、「ザ・クラウン」のシーズン5とシーズン6は、ダイアナが物語の主人公。これを観ていて、同時に頭をよぎるのが、当時盛んだった、英ローバーグループとホンダの車両共同開発計画だ。
第1弾は1985年のホンダ「レジェンド」/ローバー「800」。第2弾が1988年のホンダ・コンチェルト。英国ではローバー「200」の名で販売された。開発の主導権はホンダにあったという。
ベースはホンダの「シビック」だが、コンチェルトはシビックと「アコード」の間を埋めるクルマとして企画された。スタイリングは実直で、ホンダらしからぬ高めのフード(当時のホンダはダブルウィッシュボーンサスペンションを使って鬼のように低いフードの実現に血道を上げていた感あり)と、高さのあるキャビンをもっていた。
4415mmの全長に対してホイールベースは2550mm。1987年の4代目シビックの4ドアより少しずつ大きかった。イメージ的にもコンチェルトは30代以上の“大人”のクルマ。
英国メーカーとのコラボレーションの結果は、ボディスタイルにもあらわれた。4ドアノッチバックにくわえて、ハッチゲートをそなえたファストバックタイプの設定もあったのだ。品もいいし、使い勝手にもすぐれるのだけれど、おとなしい走りで、インパクトが薄かったのも事実。
当時ホンダがかかえるラインナップの多さからいって、コンチェルトにかかりっきりになる余裕はなかったかもしれないし、ローバーグループがあって、思うような車種展開も難しかったことも考えられる。コンチェルトにもうすこし専念して、ホットバージョンとか作れればよかったのになあと、いまの私は思うのだ。
(3)マツダ「ペルソナ」1980年代にはさまざまな試みがセダンに対してなされたが、美しさという点ではマツダが1988年にしたペルソナはひとつの“極”かもしれない。プロポーション、キャビン、インテリア、いたるところにデザイナーのこだわりが見られる4ドアハードトップセダンだ。
4代目「カペラ」をベースに開発され、2575mmのホイールベースは同一。全長は4550mmとボディはややコンパクトだ。当時としても、このスタイリングコンセプトなら、ボディ全長が4800mmぐらいはほしかったんかじゃないかと思ったものだ。
4ドアハードトップって、米国で生まれたスタイルで、あちらの若者がサイドウインドウ全開にしておいて、ドアを開けずに乗り降りすることもあった。あれが、当時若かった私には、妙にかっこよかった。ペルソナはもっと上品なイメージのクルマでしたが。
インテリアも凝っていて、ダッシュボードから後席シートまでぐるっとサラウンド的なテーマが採用されていた。リヤシートは座面の角を落としすぎで、乗り降りには楽だったが居住性はいまいち。でも、ガマンは、カッコよさのひとつの局面なのだ。
ペルソナの姉妹車であり、1989年にユーノスブランドから出たユーノス「300」は、フロントマスクをはじめ、細部に手が入れられていて、個人的には、どうせこのスタイルなら、より気合いの入ったように見えるユーノス版が好みだった。
ピラーレスの4ドアハードトップというボディ形式は、側方衝突の安全基準が強化されるとともに姿を消すことになった、よほどシャシーを強固に作らないと、Tボーンクラッシュ(横方向から衝突されること)で“く”の字に車体が変形してしまうほど、耐衝撃性に問題が出るからだ。
クルマ好きにとって、スタイルとしては捨てがたいピラーレスの4ドアハードトップ。いまでも魅力的に見えるのはたしかだ。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
ブルーバード販売会社に於いて、ブルーバードからの上級移行のニーズに応えるにはレバードが無いと当時は一気にプレジデントになってしまうので、渋々バーターでローレル等を販売するよりはレバードの様なよりパーソナル志向のモデルの方が有難かったはずだし、4ドアは必須だったと思います。
レバードTR-Xはチェリー(パルサー)販売会社で販売用の姉妹車。これも言うまでもなく販売会社対策の賜物。
「TR-Xアメリカ」のキャッチが懐かしいです。
目玉のメカニズムがなかったことも大きいですが、4気筒を用意したり途中でL28Eを落としてしまったりで、結局はソアラと比べて貧相なイメージが付いてしまったのは致し方ないでしょう。