■中国=パクリは過去の話!? パクリは淘汰されつつある今の中国車事情
中国といえばパクリ、そしてその国が作るクルマはどれもパクリ。そんなイメージはインターネット上のニュース記事や、大手放送局が放送する情報番組などによって作り上げられました。
もちろん、1990年代から2010年代前半まではそんなクルマたちが中国からたくさん出ていました。しかし、最近では中国のパクリ事情に変化があるといいます。
メルセデス・ベンツやポルシェ、BMWなどの欧州有名ブランドのみならず、トヨタ、日産、スズキなど、我が国が世界に誇るクルマまでもが中国ではデザインを丸々コピーされて製造されていた過去があります。
2017年の上海モーターショーに筆者(加藤ヒロト)が訪れた際、展示されていた中国ブランドのクルマたちに衝撃を受けました。昔から形作られていた「パクリ」のイメージに該当するようなクルマがほとんど無かったのです。
もちろん、トヨタ「ハイエース」や「コースター」などの人気車種をコピーする小規模な自動車メーカーや、揃えているラインナップのほぼすべてが何かのパクリみたいな自動車メーカーも出展はしていました。
しかし、国営メーカーのなかでも最大規模を誇る第一汽車(FAW)や、ボルボを傘下に持つ吉利、長安、東風など、大手自動車会社のブースにはどれもオリジナリティあふれるデザインのクルマたちが並んでいたのです。
そして2018年の北京、2019年の上海や広州と、中国で開かれたモーターショーに毎年取材に出かけましたが、わずか3年の間にパクリ車はほぼ皆無となりました。
近年、中国の富裕層や中国の若者たちの間では「コピーは恥ずかしい」という認識が生まれつつあり、そのトレンドを反映した結果がこの「パクリの淘汰」につながっているのでしょう。
しかし、多くの人は未だに「中国車=パクリ」というイメージを持っているのが現状です。
なかにはそこまで類似点が無いのに何かのパクリであるとこじつけて、正規のライセンスを取得して生産しているにもかかわらずパクリと勘違いしているメディアも存在。
今回はそのなかでも度々「パクリ」と勘違いされてしまうが、実は正規のライセンス生産や、その系統である気の毒な中国のクルマ達を紹介します。
まずは、日産「リーフ」の現地生産車となるヴェヌーシア「e30」。
初代リーフのコピーと勘違いされますが、こちらは日産と東風汽車の合弁会社、東風日産が中国国内で展開するヴェヌーシア(啓辰)ブランドの電気自動車です。
発表当初の2010年、日産はリーフ(中国名:聆風)を2015年までの5年間で5万台を生産すると発表。
しかし実際は、リーフは日産車として中国市場で展開されず、代わりにヴェヌーシアがe30という名前で現地生産と販売をおこなうことが2012年の広州モーターショーで発表されました。
e30は実質的なリーフの現地生産版であり、大まかなボディサイズはもちろん、新車時のタイヤもリーフと同じブリヂストンの「エコピア EP150」を装着。
リーフとの違いは前後バンパーや充電口の蓋、そしてエンブレム類のみにとどまり、2019年の上海モーターショーではルノー「クウィッド」をベースとした2代目e30が発表されました。
次に紹介するのが三菱「デリカ スペースギア」の二重ライセンス生産車となる東風風行「菱智シリーズ」。
バブル経済が崩壊した1990年代初頭、働き過ぎて疲れた人々は家族との時間を重視するようになりました。
そのなかで、お金をそれほど掛けずに家族と楽しめるキャンプなどのアクティビティが流行り、それが1990年代半ばのアウトドアブームに繋がって自動車業界は空前のRVブームを経験することとなったのです。
三菱は「スーパー・プレジャー・RV」をコンセプトに開発されたデリカ スペースギアをまさにRVブーム真っ只中にデビューさせ、パジェロ譲りの高い走破性が人気を博しました。
2007年には後継の「デリカ D:5」が日本でデビューしていますが、中国では現在もデリカ スペースギアのボディを使用する車種が製造されているのです。
東風風行は東風汽車集団が展開する主要な3つの乗用車ブランド(風行、風神、風光)のひとつで、広西省柳州に本拠地を置く東風柳州汽車が製造しています。
東風風行のなかで特徴的な見た目を持つのが菱智。フロントは最近流行りのミニバンのような顔つきで、リアはデリカ スペースギアにそっくりのデザイン。
このクルマもよく「コピー車」として紹介されることがありますが、歴史を紐解けばそれは間違いであるということがわかります。
三菱は、1970年に台湾の中華汽車(CMC)と提携を結び、それ以来CMCは台湾において三菱車の現地生産をおこなっており、デリカ スペースギアもその例外ではなく、台湾では2009年まで生産・販売されていました。
そして中国の東風汽車は提携していた中華汽車からデリカ スペースギアのプラットフォームなどを譲り受け、2001年に菱智という名前で製造・販売を開始。
発売当初の菱智はベースのデリカ スペースギアに似たフロントマスクを採用していましたが、3度のマイナーチェンジを経て現在の顔つきになっています。
現在は1度目のマイナーチェンジ顔を持つ商用グレードの菱智V3とそれをベースとする乗用グレードの菱智M3、2度目のマイナーチェンジ顔を持つ菱智M5とそのEV版、そして2段構えのグリルを持つ最新の新菱智M5が販売されています。
■スズキは少し複雑な事情がある…あのクルマに激似なモデルとは
最後に紹介するのが、スズキ「ワゴンR ワイド」の現地生産車となる北汽昌河「北斗星シリーズ」です。
どこか見覚えのあるフロントマスクに特徴的な箱っぽいボディで、初代ワゴンRに見えるものそのはずで、これもパクリではなく、れっきとした現地生産車の流れを汲んでいるモデル。
北斗星は、1994年にスズキと昌河飛機工業公司の間に誕生した昌河鈴木が生産していた初代ワゴンR ワイドの現地生産車です。
昌河鈴木は通常のワゴンR ワイドをベースとする北斗星に加え、ホイールベースを延長させた北斗星X5というモデルも販売。
プラットフォームなどは通常のワゴンR ワイドのものを使用していますが、フロントマスクやテールライト周りはよりモダンなデザインとなっています。
この2台はスズキが2018年に中国市場を撤退し、昌河鈴木を解散させた現在も販売が続いています。スズキ撤退後の昌河鈴木は北京汽車の傘下に入り、名称も北汽昌河へと改称されました。
昌河鈴木時代ではスズキのエンブレムと昌河のエンブレムを装着したモデルが混在していたので、後者の方を見てワゴンRの摸倣と勘違いしてしまう人がいてもおかしくないかもしれません。
※ ※ ※
今回、紹介したクルマ以外にも、多くの中国車が正規のライセンスを取得しているにも関わらず「模倣品」として紹介されてしまうケースをよく見かけます。
また、まったくの独自車種で、最新のトレンドを取り入れただけなのに「中国ブランドだから」という理由で粗探しをされてしまい、ほかの車種とそこまで似てもいないのに無理矢理パクリ認定を受けてしまうケースも少なくないようです。
もちろん、小規模メーカーの車両のなかにはいまだに、コピー車が存在するのは紛れもない事実ですが、中国市場において、違法なコピー車はもう通用しなくなりつつあります。
クルマを評価するうえで大事なのは先入観を捨て、そのクルマが持つ本質的な部分を見ることでしょう。年々進化を遂げていく中国の自動車メーカー達が世に送り出すクルマたちに今後も注目です。
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みんなのコメント
中国工場で流出しているとしか思えない、そういったパーツで車を組まれてしまったら・・・
もう手遅れだが一刻も早く中国とは縁を切るべき。