■世界を熱狂させたジャガー「Eタイプ」
2021年に生誕60周年を迎えるジャガー「Eタイプ」は、いまや英国製スポーツカーの歴史的名作としての地位を完全に確立したといえよう。
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1960年代以降、例えばわが国のトヨタ「2000GT」や日産「フェアレディZ」など、世界中のスポーツカー/GTカーに絶大な影響を及ぼしたばかりか、ジャガー自身も「XK8」および「XK」に代表される、あらゆるスポーツモデルでセルフカバーするなど、ジャガーにとっては歴史的アイコンともいうべき名作である。
さらにジャガーの現行スポーツモデルは、ネーミングからしてEタイプ直系の子孫であることを示す「Fタイプ」を名乗り、2021年のEタイプ60周年記念リミテッドエディションのベース車両ともなっている。
とはいえ、その現役時代をリアルタイムで知らないものにとっては、ジャガーEタイプがいかに偉大といわれても、いささかピンと来ないのも正直なところだろう。
そこで今回VAGUEでは、Eタイプがデビューの段階からスーパースターであったことを物語るようなエピソードについて、解説しよう。
●1961年ジュネーヴ・ショーにて衝撃のデビュー
すべてのはじまりは、ちょうど60年前となる1961年3月14日であった。
この日オープニングを迎えていたジュネーヴ・ショーは、時ならぬ興奮の坩堝(るつぼ)と化していた。英国ジャガー・カーズ社がこのショーにおいて、新型スポーツカー「Eタイプ」を発表したのだ。
のちに「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」にアートとして永久収蔵されるほどに美しく、そして驚くほどにエッジィなスポーツカー。しかも、同時代のアストンマーティンやフェラーリの半額以下で購入できるEタイプがクルマ好きの話題をさらうには、さしたる時間はかからなかった。
翌朝のイギリス大手日刊紙は、高級紙から大衆向けタブロイド紙に至るまで、すべてEタイプの記事をセンセーショナルに取り上げたという。
もちろんショー会場における観衆のリアクションも、それまでに例を見ないほどに熱狂的なものだったとのこと。実は同じジュネーヴ・ショーでは、ジャガー社のビジネスにとっては本命というべき大型サルーン「マークX(10)」も発表されていたのだが、Eタイプ人気の影でいささか霞んだ存在となってしまったほどだ。
この時、ジャガー社首脳陣はEタイプのプロモーション活動の一環として、ジュネーヴ・ショーの会場近くに設定された臨時テストコースを舞台とした試乗会を企画。
この試乗イベントのため、ジャガーのコヴェントリー本社から登録ナンバー「9600 HP」の、オパールセント・グレーにペイントされた新車のEタイプ・クーペが運ばれていた。
テストドライブに参加するためには、来場者はショー会場のジャガー社ブースにて試乗整理券を手に入れ、Eタイプに乗ったジャガーのセールス担当スタッフによるピックアップを待つシステムだった。
ところが、いざフタを開けてみると当初の計画よりも遥かに多数の人たちが試乗会を希望していることが明らかになる。
そこでジュネーヴに詰めていた首脳陣は、試乗用Eタイプを専用会場でのテストドライブに限定。マークXをはじめとする、ジャガーのほかの最新モデルによるシャトル便を出し、試乗希望者をショー会場から試乗会場まで運ぶ方法へと変更を余儀なくされる。
●一晩で英国からジュネーブへ自走したEタイプ
それでも殺到する試乗希望者は引きを切らないため、ジャガーは急遽2台目のEタイプを英国コヴェントリーの本社から運ばせて対応することにしたのだ。
この時の車両搬送は、スピードを最優先すべく自走でおこなわれた。そこで搬送ドライバーとして白羽の矢が立ったのは、ジャガー社の開発エンジニアにして、1955年にはワークス「Dタイプ」とともにル・マン24時間レースにも出走経験のあるノーマン・デュイス。
彼は登録ナンバー「77RW」のブリティッシュ・レーシンググリーンのEタイプOTS(Open Two Seater)を、わずか一晩でコヴェントリーからジュネーヴまで送り届けることに成功した。
* * *
結局この2台のEタイプは、7日間の試乗会日程の間、1日6時間のフル稼働状態だったという。
ちなみに、このとき市販第1号のEタイプ購入に成功した個人オーナーは「世界のセックスシンボル」とも称された大スター女優ブリジット・バルドーの夫で映画監督。そして社交界では、名うてのプレイボーイとしても知られたジャック・シャリアーだった。
彼はEタイプの1号車欲しさに、仕事中の「チネチッタ(ローマ)」から大慌てでジュネーヴへと飛んだのち、デリバリーの優先順位を巡って散々ゴネたあげく、ショー会場にてようやく購入権を獲得したといわれている。
そしてこの騒乱は、ジャガーのみならず、全ヨーロッパの自動車メーカーの命運を握っていた巨大マーケット、アメリカでも再現されることになったのである。
■名だたるセレブレティたちが、競って注文書にサインした
創業者ウィリアム・ライオンズ卿を筆頭とするジャガー・カーズ社の首脳陣は、当初Eタイプを限定生産に近い特別なモデルとしてセールス計画を立てていたが、ジュネーヴ・ショーにおける圧倒的な人気が後押しとなり、正規の量産モデルとする方針転換が図られたとされている。
●「Eタイプ騒乱」は北米でも巻き起こった
そしてEタイプの誕生がヨーロッパにもたらした騒乱は、翌4月におこなわれた「ニューヨーク自動車ショー」にて、北米マーケットにお披露目された時にも再現されることになった。
当時の欧州製スポーツカーが生命線としていたアメリカ市場において、Eタイプは旧「XK150」の後継車であることを強調するべく、とくに「XK-E」と呼ばれていた。
新大陸のクルマ好きたちは、欧州で評判のニューカマーをひと目見ようとジャガーのブースに群がり、その誰もがXK-Eに魅了されてしまう。まして「本物のセレブレティであることを証明したいならば、XK-Eに乗るのはむしろ当然」という空気まで生まれてゆくのだ。
その後、ニューヨーク・ショーは無事閉幕。アメリカに上陸した最初の2台をいち早く確保したカリフォルニア州ロサンゼルスの代理店は、さっそく虎の子のXK-Eをショールームに展示した直後に、かのフランク・シナトラの訪問を受けることになった。シナトラは白紙の小切手をチラつかせつつ、ショールームにある展示車両をすぐに売ってくれと懇願したという。
●マックイーンもEタイプを購入
ところが、ディーラーのセールスマネージャーは、たとえショウビズ界のスーパースターの申し出であっても、丁重に断らざるを得なかった。この時点におけるXK-Eはとにもかくにも品薄で、北米向けの割り当て台数もまだ少なかったために、たとえ現車があっても展示用にキープしておく必要があったからである。
しかし、このクルマがなかなか手に入らないという品薄状況が、かえってXK-Eの人気を煽る結果となる。そしてチャールトン・ヘストンやディーン・マーティン、スティーブ・マックイーンなどの一流ハリウッドスターや裕福なセレブレティたちが、先を争うかのごとく続々とXK-Eの注文書にサインしたとのことである。
しかし、世界中をエキサイトさせたこれらの誕生劇も、名車ジャガーEタイプの伝説においては序章に過ぎなかった、といわねばなるまい。
こののちEタイプは、1975年に惜しまれつつ生産を終えるまでに7万台以上が生産されるという、この種の大排気量スーパースポーツとしては驚くべき大ヒットを博すことになった。
加えて、2000年に発表された「Car of the 20 Century」においても、20世紀においてもっとも影響力のあったスポーツカーに選ばれるなど、まさしく自動車史上に冠たる名作、あるいは60年代ポップカルチャーのアイコンとしての道を邁進していったのである。
* * *
さる2021年2月、ジャガー・ランドローバー本社から公表された新グローバル戦略「Reimagine」において、今後2025年よりジャガーはピュアEV(電気自動車)のラグジュアリー・ブランドとして再生を目指すという方針を高らかに宣言した。
現時点ではガソリンエンジン版のみの展開となっている「Fタイプ」ないしはその後継車もEVピュアスポーツカーとして生まれ変わることになるだろうが、ジャガーというブランドを愛してやまないファンとしても、将来のジャガー製スポーツカーが、かつてのEタイプのごとくアイコニックな存在であってほしいと、心より願ってやまないのである。
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みんなのコメント
これがここまで量産されて世の中にまだまだたくさん生きた個体が残っているなんて最高に素晴らしくありがたいことだ。
フラットフロアは乗り難いけれど、Sr.1の後期が手に入ればなと企んでいる。
出来ればクーペボデー。