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まさしくフェラーリの名が相応しい1台である──新型296GTBを徹底解説!(前編)

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まさしくフェラーリの名が相応しい1台である──新型296GTBを徹底解説!(前編)

フェラーリが発表した新モデル「296GTB」を、イタリア車博士の齋藤浩之が詳しく解説する。新開発のV6をミドシップするマラネロ製のハイブリッド純スポーツカーに、何を見るべきか。今回は前篇だ。

最高出力830ps!

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フェラーリのニューモデルが発表された。車名は“296GTB”。イタリア語ではドゥエチェントノヴァンタセイ・ジーティービィだ。型式名はF171である。フェラーリは伝統的にエンジンの特徴を象徴するなんらかの数字を使って命名してきたが、この新型車、296GTBでは、排気量が2.9リッターの6気筒エンジンであることをあらわしている。このクルマは2992ccのV型6気筒エンジンを搭載しているのである。このV6エンジンはツインターボ過給され、電動モーター1基と組み合わされる。プラグ・イン・ハイブリッドである。変速機は8段型のデュアルクラッチ・トランスミッションのみの設定だ。

納車は2022年第1四半期にまず欧州の左ハンドル市場から開始される。価格はイタリアの場合、付加価値税(消費税)込みの車両本体価格で、296GTBが26万9000ユーロ(約3200万円)、同時に発売されるトラック走行重視モデルの296GTBアセット・フィオラーノが30万2000ユーロ(約3600万円)となる。フェラーリの価格は全世界ほぼ同じように設定されるのがこれまでの常であるから、日本価格もこれに近いものになるだろう。

この車両価格は、今後もラインナップに残る「F8トリブート」よりも若干高いもので、それを後ろ盾するかのように、296GTBの動力性能はF8トリブートを上回るものになる。最高出力830psがもたらす加速性能は印象的なものだ。0-100km/h加速は2.9秒、0-200km/hは7.3秒。制動性能も高く、200km/h-0の停止距離は107m(8.8%減)という。最高速度は330km/h以上に達する。フィオラノ・テストトラックのラップタイムは1分21秒だ。

今回発表されたのはフィクスト・ヘッドのクーペモデルとなるGTBだけだが、そのネーミングから容易に想像されるように、近い将来にリトラクタブル・ルーフを備えるGTSモデルが加わることになると思われる。

新開発のV6エンジンの特徴は?

それでは詳しく見ていこう。ボディのサイズはF8トリブートよりも少し小さい。全幅と全高についてはその差は僅かだが、全長は46mm短縮されている。3サイズは全長×全幅×全高=4565×1958×1187mmだ。そして、ホイールベースは50mm短い2600mm。乾燥重量は1470kgと、F8トリブートとほぼおなじである。前後重量配分は前軸40.5%で後軸59.5%という。

リアミドシップに押し込まれたパワートレインは296GTBのいちばんのハイライトだ。

「F163」と命名された新開発エンジンはVバンク挟み角120度の6気筒。総排気量は2992cc。ボア・ストロークはφ88×82mm。2基のシングルスクロール・ターボチャージャーをVバンクの内側、エンジン上方に東西に並べて対称配置する。対称性は重視されており、タービンの回転方向も互いに逆回転する仕様のものが使われている。短めの排気マニフォールドは各気筒等長になるよう配慮されている。気筒内への吸気・送気は当然、Vバンクの外側から行われることになり、シリンダーヘッド側面に貼り付く用に吸気マニフォールドが配置されている。

従来はVバンク内で大きなスペースをとらざるをえなかったインテーク・プレナム・チャンバーの排除と、吸気経路の大幅短縮のおかげで経路容積が減り、吸気効率も改善された。 燃料供給はもちろん、気筒内直接噴射式だ。

シリンダーヘッドは4バルブ型で、油圧式クリアランス・アジャスターを支点にしたローラー内蔵フィンガー・フォロワーを介してバルブを叩く方式を採用している。カム駆動チェーンは2ステージ式で、バンク毎にチェーンは専用化されている。燃料噴射(350bar)ノズルと点火プラグは燃焼室中央配置。フォーミュラ1では常識化した副燃焼室式は使っていない。ターボチャージャーはIHI社製の最新型という。過給効率が24%も上がった最高回転18万rpmが可能なものという。F8トリブート用のものと比べて、タービン径は11%、コンプレッサー径は5%、それぞれ小さく、回転慣性モーメントは11%減を実現している、とされる。

高い過給圧はそのまま高い燃焼圧力を意味し、それは燃焼温度と排気温度の上昇に直結する。燃焼室と排気系は最高900℃の高温に晒されることになるが、フェラーリは持てる冶金技術を総動員してシリンダーヘッドの材質と構造を最適化するとともに、エグゾースト・マニフォールドと触媒ハウジングには、高価なインコネル(スティール-ニッケル合金)を採用して事に当たっている。

V型エンジンは対向する2個のピストン・コネクティングロッドが1本のクランクピンを共有するかたちにするのが基本だが、この新開発V6でもこのかたちがとられている。この形式で等間隔爆発とするには、クランク2回転720度を6等分した120度毎にクランクピンを配置すればいい。これでバンク角60度と120度の場合には、等間隔爆発となる。振動特性についてもV6では最も好ましいものとなる。片バンク当たりで考えると直列3気筒と等価になる。排気脈動も片バンク当たり等間隔になり、ターボ過給に都合がいい。

120度V6の利点は、重いシリンダーヘッドの地上高が大きく下げられることで、これによってエンジン重心、ひいては車両重心を下げることが可能になる。もちろん過給の配置なども絡んでくるわけだが、実際に重心低下に寄与しているという。電池の床下配置やパワートレイン搭載高の50mm引き下げとの相乗効果により、296GTBの車両重心位置はF8トリブートより10mm低いという。たかが10mmと思うなかれ、すでに限界的に低い重心を1cm下げるのは並大抵のことではないのだ。一方でエンジン本体の横幅は拡がることになるが、吸排気レイアウトの逆転配置などによって、最小限で済んだとしている。

ハイブリッド化によって事実上、過給応答遅れを相殺できるため、高い過給圧(とそれに呼応する圧縮比9.4:1)が採用されている。その結果、エンジン単体での最高出力は663ps(610kW)に達する。比出力は221ps/Lにもなるが、これは市販車用としての最高記録という。これに最高出力167ps(122kW)の電動モーターが加わることで、統合最高出力830ps/8000rpmを達成している。最高許容回転数は8500rpmという。乾燥車両重量は1470kgだから、パワー・ウェイト・レシオは1.77kg/ps(565ps/t)となる計算だ。

120度V6エンジン単体の乾燥重量はV8ツインターボと比べて30kg軽い185kg。電動モーター単体の重量は22kgだから、ハイブリッド化しても7kg減を達成していることになる。ただし、296GTBは電動モーター駆動用のリチウム電池(7.45Kwh)を必要とする。電池セルは業界最高のエネルギー密度を誇るSF90ストラダーレ用と同じものだが、セル数は4個少なく、電池単体では2kg軽く仕上がり、その重量は77kgだという。制御系やインバーターの重量を考えれば、296GTBはパワートレイン以外の部分でF8トリブートからおよそ80kg以上もの重量を削ってみせたことになる。称賛に値する成果だろう。

変速機はSF90ストラダーレで導入された8段型のデュアルクラッチ式ギアボックスだが、後退ギアの追加(SF90ストラダーレは電動機の逆転で代用)と、前進用各ギアのショート化、すなわち加速性能重視のローギアード化が施されているという。F355以来取り組んできた自動MTの変速時間の短縮はさらに進化し、296GTBでは過去最速、クラス・ベストの短い変速時間を実現したと主張している。

296GTBではハイブリッド化の目的は第一義的にはパフォーマンスの向上にあったというが、一方で時代的な要求であるエミッション低減も重要な目標のひとつであるに違いはなく、内燃機関をクラッチ(乾式トリプルプレート型)で切り離して、電動モーター(+変速機)のみで最大25kmの走行を可能にしている。この状態での最高速度は欧州圏域の高速道路の制限速度を視野に入れてのことだろうが、135km/hが可能という。

エンジンについては加速性能やドライバビリティと同じかそれ以上に、サウンドを素晴らしいものとすることに意が払われている。開発中は“ピッコロV12”と呼ばれていたというが、回転上昇につれて音域と音量を上げながらトップエンドに上り詰めていく美しく扇情的なサウンドが実現できたと誇らしげだ。排気系の上流から“ホット・チューブ”と呼ばれる専用経路でコックピットに導入された音はV12と同じ高調波を聴かせるように調律され、ターボ過給エンジンの力強さと自然吸気V12の高周波の叫びが融合したものになっているという。

エモツィオーネ・ディ・グイダ

フェラーリは296GTBがF8トリブートに取って代わる後継モデルではなく、車種ラインナップの拡張を担う1台だと主張するが、そのターゲットの核となるのは、すでにフェラーリや他ブランドのスーパースポーツを走らせているエンスージアストたちだという。スポーツドライビングの楽しさ、“ファン・トゥ・ドライブ(エモツィオーネ・ディ・グイダ)”を求めてやまない人たちだとしている。296GTBはエモーショナルなドライビング・ハイを希求するカー・ラヴァーのためのクルマなのだと強く主張する。

V6エンジン採用の理由も、本質的にはそこに由来するというのだ。スリリングで圧倒的な動力性能と、扇情的なサウンド、そして、優れた運動性能を実現するために、車両のトータル・パッケージを先ず構築して、そのなかに収める最適解としてターボ過給120度V6ハイブリッドというパワーユニット構成が導き出されたのだとしている。

296GTBはパワートレイン全長の短縮と、電動モーター駆動用バッテリー搭載方法の最適化によって、居住空間を犠牲にすることなくホイールベースの短縮に成功している。

296GTBの軸距は2600mmであるが、F8トリブート比で50mmの短縮に相当するこのショート・ホイールベース化と、V6ハイブリッド化による質量配置の集中化の相乗効果によって、低重心化にもまして車両運動Z軸周りの回転慣性モーメントが劇的に小さくなり、296GTBはゴーカート・ライクな敏捷な運動性能と優れた操縦性を実現したという。

この優れた素性を強力に援護するのが最新世代の車両統合制御電子システムで、検知パラメーターが6つになった新型システムは、恐怖感を覚えることなくスリリングなスポーツ・ドライビングを堪能できるとしている。

クローズドトラックでさらに突き詰めてそのスポーツ性能を満喫したい向きには、販売開始時から設定されるアセット・フィオラーノも選べる。これはCFRP(炭素繊維強化樹脂)を多用して車両重量を削り、そこへGTカー・レース車両での経験を活かしたセットアップの施された脚を組み込んであり、空力的な処理を合わせて調整してあるモデルだ(後編に続く)。

文・齋藤浩之

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