整った見た目を裏切らない走り
グレートブリテン島の西部、コッツウォルズ地方に広がる穏やかな田舎道を、ボルクヴァルト・イザベラ・コンビは颯爽と走る。初代オーナーも楽しんだであろう、その印象は、整った見た目を裏切らない。
【画像】欧製ステーションワゴンの出発点 イザベラ・コンビ オックスフォード・トラベラー 英独の現行ワゴンたち 全146枚
スターターボタンを押すと、柔らかいエンジン音が車内へ届く。サイドブレーキ・レバーを引き、ストロークの長いコラムシフトレバーを持ち上げ1速へ入れる。ウインドウの位置が高く、クルマへ身を委ねているような感覚が強い。
発進から滑らかで好印象。低回転域でもトルクは太いが、1.5L 4気筒エンジンは個性が薄い。シフトレバーは曖昧で、丁寧な操作が求められる。
フラットなベンチシートは、横方向には身体を支えてくれない。アイボリーで細身のステアリングホイールは、いかにも1950年代らしい。ダイレクトに反応するものの、切り始めの遊びは多い。
それでも、70年前のファミリー・ステーションワゴンであることを考えると、完成度は感心するほど高い。乗り心地はしなやかだが、うねるような路面で浮足立つことはない。速度を上げても、姿勢制御がおぼつかなくなることもない。
コーナーの途中で、わざとアクセルペダルを緩めると、僅かにテールが流れた。しかし、すぐに落ち着きを取り戻す。平穏に長距離を走れそうだ。
好対照な容姿のオックスフォード・トラベラー
モーリス・オックスフォード・トラベラーのスタイリングは好対照。ツートーンのボディは、1950年代のニューヨークの景色へ溶け込めるに違いない。
1958年の新車価格は、オプションの塗装代込みで1011ポンド。安いクルマとはいえなかったが、輸入税が課されたイザベラ・コンビより、英国ではお手頃だった。その440ポンドを抜くと、価格は大きく逆転するが。
初代モーリス・オックスフォードの登場は、1913年に遡る。トラベラーはシリーズIVの派生版で、1954年のシリーズII サルーンがベースにある。
オックスフォード・トラベラーのエンジンは、シリーズIIと同じ、オーバーヘッドバルブの1.5L Bシリーズ・ユニット。オースチンとモーリスは、1952年にブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)の傘下へ入っており、当然の選択だった。
ボディ構造は、サルーンと同様にシャシーと一体のモノコック。サスペンションは、フロントがトーションバースプリングによる独立懸架式。リアは、リジットアクスルにリーフスプリングというコンベンショナルな構成だ。
ステーションワゴンのトラベラーは、木製ボディパネルを採用したウッディワゴンとして、シリーズIIの時代に登場。シリーズIII以降は、オプションでツートーン塗装が設定された。
オックスフォード・シリーズIVへバトンタッチしたのは1957年。強度や重さ、耐久性などを理由に、トラベラーのボディはスチール製へ変更された。4速のトランスミッションは、当初コラムシフトだったが、1958年式にフロアシフトへ改められている。
英国の中流階級が味わったであろう体験
ご登場いただいたオールドイングリッシュ・ホワイトとアーモンド・グリーンの1台は、マーティン・ハミルトン氏がオーナー。1959年式で、2016年に購入したそうだ。
似たようなクルマに乗っていた、父との平穏な記憶が蘇ってくると彼は話す。実用的なシルエットでありながら、ポップなイメージが湧いてくる。
左右が深くえぐられたボンネットは、数年前のヴォグゾールに似ている。クロームメッキのモールが塗装部分を仕切り、小さなフィンが突き出たリアへ続く。給油口は左右両方に備わる。うっかり、ポンプの位置を間違えても大丈夫なように。
フロントマスクは、クロームメッキが目立つ。バンパーへ追加されたオーバーライダーが大きい。2灯のスポットライトは、フロントガラスのバイザーと同様に、正規オプションだった。
イザベラ・コンビと異なり、テールゲートは上ヒンジで、荷室の床面は位置が高め。その下にスペアタイヤとジャッキが収納されており、別のリッドからアクセスできる。5ドアだから、リアシートへの乗降性は良い。
運転席へ座ると、当時の英国の中流階級が味わったであろう体験へ浸れる。フロントシートはプリーツが施されたレザー張りで、クッションは厚く、3名が並んで座れる。シフトレバーを手前側へ倒すと、中央に座る人の脚へ触れることになるが。
リアシートもベンチで、定員は6名。中央にアームレストが格納され、2名で座ればゆったり。足もとの空間は充分に広い。
驚くほど運転する魅力度が高い
着座位置が高く、大きなステアリングホイールは3スポーク。中央のハブ部分から、ウインカー用のレバーが伸びる。
金属製ダッシュボードの中央に、大きなスピードメーターと補機メーターが並ぶ。その下に、引っ張るタイプの一連のスイッチ。オックスフォード・トラベラーの車内は、モダンなドイツ・デザインで仕立てられたイザベラ・コンビより、英国人には居心地が良い。
クラシカル・アメリカンな雰囲気を漂わせるスタイリングと裏腹に、オックスフォード・トラベラーの走りは軽快。背筋を伸ばした運転姿勢が、ロンドンタクシーの運転手気分にさせるが、ステアリングホイールは適度に重く、ペダルの間隔も丁度いい。
Hパターンのシフトレバーは、ストロークが長めとはいえ、コクリと素直に入り変速しやすい。穏やかな動力性能と調和している。
変速直前の回転数に達すると、ドライでスポーティな排気音が耳に届く。イザベラ・コンビよりギア比は低く、80km/hを超えるとエンジンの存在感が大きくなる。
ステアリングのレシオはスローで、カーブでは腕の仕事量が多いものの、反応は正確。ボディロールは大きめながら、実用的なステーションワゴンであること考えると、全体的な完成度の高さと相まって驚くほど運転の魅力度が高い。
それでも、イザベラ・コンビの方が水準は上にある。ブレーキも、あまり利かない。リジットアクスルのリアサスペンションは、安定性が高いとはいえ。
欧州の市場拡大へ一石を投じた2台
海外の工業製品が、まだ暮らしの中へ浸透していなかった、70年前の英国。無名だったドイツのボルクヴァルトを選ぶには、広い視野が必要だったに違いない。モーリスは、クラシカルな見た目以上の魅力を持つファミリーカーを、戦後の市民へ提案していた。
いずれにせよ、優れた仕上がりのステーションワゴンといえた。欧州の市場拡大へ、確かな一石を投じたことは明らかだろう。
協力:ケンブリッジ・オックスフォード・オーナーズ・クラブ、ライゴン・アームズ社、グラハム・マンダー氏
一石を投じたステーションワゴン 2台のスペック
ボルクヴァルト・イザベラ・コンビ(1954~1961年/英国仕様)
英国価格:1269ポンド(新車時)/2万ポンド(約400万円/現在)以下
生産数:20万2862台(イザベラ合計)
全長:4390mm
全幅:1705mm
全高:1500mm
最高速度:149km/h
0-97km/h加速:18.5秒
燃費:8.9km/L(予想)
CO2排出量:−g/km
車両重量:1090kg
パワートレイン:直列4気筒1493cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:60ps/4700rpm
最大トルク:10.9kg-m/2000rpm
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)
モーリス・オックスフォード・トラベラー・シリーズIV(1957~1960年/英国仕様)
英国価格:1011ポンド(新車時)/1万3000ポンド(約260万円/現在)以下
生産数:5万8117台(シリーズIII サルーン、シリーズIV トラベラー合計)
全長:4292mm
全幅:1651mm
全高:1600mm
最高速度:120km/h
0-97km/h加速:29.0秒
燃費:8.9km/L(予想)
CO2排出量:−g/km
車両重量:1206kg
パワートレイン:直列4気筒1489cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:55ps/4400rpm
最大トルク:10.7kg-m/2400rpm
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)
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みんなのコメント
では現行のアル/ヴェルが60年経った姿を見て、まもなく22世紀を迎えようかと言う頃の車好きは、果たしてこの車をどう思うだろうか?