新しいモノが生まれれば、消えゆくモノもある。
スバルの新型レガシィが2019年2月7日に世界初公開。同時にエンジンラインナップも発表され、スバル以外ではポルシェしか生産していない6気筒の水平対向エンジン=「ボクサー6」がひっそりと消えた。新型レガシィの海外仕様には、従来型にあった3.6L水平対向6気筒に替わり、新たに2.4L水平対向ターボエンジンが用意されている。
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この事実からもスバルが“ボクサー6”を新たなターボエンジンに置き換えていくことは明らか。すでに日本仕様からボクサー6搭載車は消滅しているが、新型レガシィが登場するとスバルのボクサー6搭載車は、海外向けの現行型アウトバックのみとなる。こちらもレガシィに続いて新型の登場を控えており、ボクサー6の消滅は確実だ。
技術の進化は素晴らしいけれど、「なくすなんてもったいない!」と惜しまれつつ消えゆくモノがあるのもまた技術の面白さたる所以。スバルらしいユニークな水平対向6気筒エンジンも、まさにそんな技術のひとつだ。
文:片岡英明
写真:SUBARU、編集部
水平対向“6発”の美点と始まり
1966年5月、日本の量産エンジンとして初めて水平対向4気筒が世に出た。搭載したのはFF方式のスバル1000だ。アルミ合金製のEA52型OHVエンジンを積み、鮮烈なデビューを飾っている。「フラット4」と呼ばれる水平対向4気筒レイアウトを選んだのは、コンパクトに設計でき、フロントオーバーハングも短くできるからだ。直列4気筒より全長と全高を低く抑えることができる。
対向位置にあるシリンダー配置は、V型8気筒のようにバランス感覚に優れ、振動も少ない。このピストンの動きが、ボクサー同士が打ち合う動きと似ていることから「ボクサー」エンジンと呼ぶ人も少なくない。
977ccのEA52型エンジン以降、スバルは水平対向OHVエンジンを主役の座に据え、エンジンバリエーションを広げていった。1984年夏、3代目のオールニューレオーネがベールを脱いだ。この時にヘッドまわりをSOHC方式にし、高回転を苦にしない1781cc水平対向4気筒エンジン(EA82型)を送り出した。
転機が訪れるのは1987年だ。1985年夏に発売した4WDスペシャリティカーの「アルシオーネ」に、日本初の水平対向6気筒SOHCエンジンを搭載。「ER27型」と名付けられた水平対向6気筒SOHCは、EA82型に2気筒を加えた6気筒エンジンだ。ボア92.0mm、ストローク67.0mmはEA82型と同じで、排気量は2672cc、圧縮比は9.5でパワーとトルクは150ps/21.5kgmを発生した。
水平対向6気筒エンジンはエンジンの長さを短くすることができるから、パッケージングの点で有利だし、快適性も高い。V型12気筒エンジンと同じように完全バランスだし、排気系の取り回しも楽だから積みやすいし、振動も抑え込める。熱の問題も出にくいから高回転まで使いきることができるのだ。スポーツモデルには向いているエンジン形式なのである。
当時はターボエンジン全盛だったが、この自然吸気エンジンのバランス感覚は感激モノだ。驚くほど滑らかに回り、応答レスポンスも鋭かった。気難しいところはまったくなく、静粛性も高いレベルにある。パンチ力は今一歩だったが、上質なパワーフィールだ。
ただし、自然吸気エンジンでも燃費は今一歩にとどまっている。弱点もあるが、ポルシェと同じ水平対向6気筒だから、マニアならずとも一度は乗りたいと思った。また、コクピットからのパノラミックな視界は新鮮だったし、乗り味も現代の車と同じように洗練されている。だからリラックスした気分で運転を楽しむことができた。
知る人ぞ知る進化した名機の“味”
水平対向6気筒SOHCを積むアルシオーネ「VX」は独特の輝きを放っている。が、これに続くボクサー6は、さらに魅力的だ。1989年1月、スバルは安全で楽しい走りのシンメトリカルAWDを採用した新感覚のプレミアムセダンとステーションワゴンを発表した。いうまでもなく「レガシィ」である。
メカニズムはすべて新設計だ。パワーユニットは新たに設計された。心臓は「EJ」と呼ぶ新世代の水平対向4気筒だ。EA系と同じようにビッグボア、ショートストローク設計とし、4バルブでも十分なバルブ開口面積を確保している。
EJ系エンジンの系列には2212ccのEJ22型SOHCがある。海外向けに設計されたエンジンだが、日本でもブライトン220に搭載され、発売された。このEJ22型エンジンをベースに6気筒化し、DOHCヘッドを被せたのが「アルシオーネ SVX」のEG33型ボクサー6だ。
最初の計画ではEJ20型をマルチシリンダー化した3.0Lだった。が、北米市場を意識して排気量を1割増やしている。ボアは96.9mm、ストロークは75.0mmで、総排気量は3318ccだ。自然吸気エンジンだが、最高出力240ps、最大トルク31.5kgmを発生。アルシオーネ SVXに積まれてデビューするのは1991年9月だ。
4速ATの設定だったが、その気になれば6000回転までストレスなく回り、4000回転を超えてからはビートに乗った独特のボクサーサウンドを奏でる。ER27型よりパンチがあり、高回転の伸びも鋭い。しかも低回転からトルクが湧き出すので、追い越し加速も俊敏だ。ドラマチックという点では、このエンジンを超えるボクサー6はない。
山岳路でも力強い走りを披露し、高速道路のクルージングも得意とする。悠々と流す走りでも気持ちいいし、ロングドライブも得意とした。EG33型エンジンは歴史に残る名機だったが、その実力を知るのはひと握りのファンだけだ。販売価格が高かったし、北米では保険料も上がったから、販売は伸び悩んでいる。
レガシィにも搭載されたボクサー6
ボクサー6の第3弾が軽量コンパクト設計と燃費を意識した3.0LのEZ30型水平対向6気筒DOHCだ。2000年、レガシィをベースにしたクロスオーバーAWDワゴンの「ランカスター6」に積まれてデビュー。
これは新設計の6気筒エンジンだ。バルブ挟み角を大きく取り、シリンダーヘッドの高さを抑え、カムシャフト駆動もスバルとしては初めてチェーンを採用して耐久信頼性を高めている。
ボアは98.4mm、ストロークは80.0mmで総排気量は2999cc。220ps/29.5kgmを発生し、冴えた加速を見せた。だが、ちょっと低回転域のトルクは細く、エンジンを回さないと面白みに欠ける。その後、レガシィにも搭載され、ファンを増やした。
2003年に4代目レガシィ(BL/BP型)がベールを脱いでいる。レガシィは、同年9月に改良型の水平対向6気筒エンジン(EZ30-R型)を追加。軽量化を図るとともに、シリンダーヘッドなども新設計としている。
可変吸気システムの「AVCS」を採用するとともに、ポルシェの「バリオカム・プラス」と同じ発想のダイレクト可変バルブリフト機構を導入し、ポテンシャルを高めた。パワースペックは250ps/31.0kgmだ。2004年10月には待望の6速MTも登場する。
改良型のEZ30-R型エンジンは切れ味鋭い6気筒だ。得意とするのは高回転で、6500回転を超えても上まで回ろうとした。また、5500回転当たりからは音色が変わって一段とパンチを増す。なめらかかつビートの効いたサウンドもスバリストを興奮させた。
“ボクサー6”が消えゆく理由
このエンジンをスケールアップしたのが、トライベッカに続いてアウトバックに搭載されたEZ36型水平対向6気筒だ。ボアとストロークの両方を拡大し、排気量を3629ccとしている。
生産性を重視し、ダイレクト可変バルブリフト機構機構を廃止した。が、排気側にもAVCSを追加したデュアルAVCSとし、扱いやすさを向上させている。2009年に日本仕様のアウトバックに搭載され、260ps/34.2kgmを達成した。実用域のトルクが太く、重いボディも軽々と引っ張る。上質なパワーフィールもファミリーカーには似合っていた。
が、高い生産精度が要求されるし、4気筒エンジンと比べると燃費の点でも不利だ。省エネの風潮もあり、水平対向6気筒は現行モデルを最後にスバルの歴史から消えていく。時代の流れとはいえ、珠玉のボクサー6が消えていくのは寂しい限りである。
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