メルセデスベンツが2022年9月29日より発売開始した4ドアセダンの新型BEV、「EQS」。メルセデス初のBEV専用プラットフォームの採用でパッケージングが大きく改良された大型サルーンであり、いわばSクラスのBEV版だ。
そして、その約1か月後となる2022年10月24日に発売開始したラグジュアリークーペの新型「SL」は、1952年から続く伝統のブランドながら、今回よりAMGが開発の主導権を握り、新たに生まれ変わった。
日本車にはないベンツSクラスのBEV版「EQS」の凄さと2リッター直4にはがっかり!?「新型SL」公道初試乗!
片や新世代を象徴する最新のバッテリーEV、片や古き良き伝統のハイパワーガソリンターボ車、パワートレインでいえば真逆の存在であるこの2モデルに、このたび、試乗する機会をいただくことができた。真逆の存在ながら、どれほど凄いのか、メルセデスベンツならではの共通項はあるのか!?? 詳細をお伝えしていこう。
文/吉川賢一
写真/森山良雄
■EQSのインテリアは、他メーカーの5年先を行く!!
Sクラスと全長、全幅は等しいが、上方向へ膨らんだ印象があるEQSのエクステリア(写真はEQS 450+)
AMG EQS53 4MATIC+のエクステリア
これまで、EQC、EQB、EQAと、SUVタイプ3車種が登場していた、メルセデスのBEVシリーズ。今回EQSが登場したことで、いよいよセダンのBEVがラインアップに加わったことになる。同じタイミングで、EQSと同じEVプラットフォームの「EQE」も登場している。
EQSは、新開発されたBEV専用のプラットフォームと、107kWhの大容量バッテリーによって、航続距離700kmを達成(EQS 450+の場合。AMG EQS53 4MATIC+は601km)。
テールランプは左右を連結したタイプ。リアハッチに付いたリアスポイラーが目立つ(写真はAMG EQS53 4MATIC+)
また最大10度まで切れるリアアクスルステアリング(後輪操舵機構)を標準装備したことで、ホイールベースを伸ばしたことによる最小回転半径の拡大を抑制、5.0~5.3m(仕様によって異なる)の小回りを実現した。
目の前に現れたEQS450+のスタイルは、威風堂々とした佇まいで、まさにSクラスのBEV版といった印象。スリッドのない滑らかなフロントグリルや、ボンネットからルーフへとなだらかに繋がったラインなどが特徴的だが、際立つのが3210mmというロングホイールベースだ。ちなみにS400dが3105mmなので、EQSは105mmも長い。そのためEQSの後席の足元空間は圧巻の広さだ。
EQSのボディサイズは全長5225×全幅1925×全高1520mm、ホイールベースは3210mm(写真はEQS 450+)
EQS 450+のフロントシート
AMG EQS53 4MATIC+のフロントシート
長大なホイールベースのおかげで、後席の足元空間は圧巻の広さだ。足を組んでもなお余裕(写真はAMG EQS53 4MATIC+)
EQSのウリのひとつは、前面に3つのスクリーンが広がるMBUXハイパースクリーンだ。ドライバー側から12.3インチ、17.7インチ、12.2インチと、助手席側までつながるスクリーンはAMG標準搭載(450+はオプション「デジタルインテリアパッケージ」設定)。センターと助手席側は有機EL液晶だ。傷がついにくい特殊なケイ素アルミニウムガラスを使用し、さらにその上にコーティングを施しているので、マイクロファーバー布で拭けば指紋も簡単に除去できるそうだ。
ドライバー側から12.3インチ、17.7インチ、12.2インチと、助手席側までつながるMBUXハイパースクリーン(写真はEQS 450+)
AMG EQS53 4MATIC+のインテリア。MBUXハイパースクリーンを標準装備
光沢のあるディスプレイなので、映り込みが気になるところだが、ドライバー側には小さめながらメーターフードが付いており、またディスプレイの角度も緻密に設計されているおかげか、試乗中はほとんど気にならなかった。
なお助手席側スクリーンでは、走行中にもYouTubeなどの動画コンテンツを見ることができるそう。ドライバーをモニタリングするカメラによって、ドライバーが助手側画面を見たと認識すると映像が遮断されるようになっているという。
インテリアは先進性の塊、他メーカーの5年先を行っているといって過言ではないだろう。
助手席手前の液晶では、動画コンテンツの視聴も可能(TVは除く)だが、ドライバーの視線を検知すると、映像は遮断されるドライバー監視カメラが備わっている
■心地よいEQS450+、暴力的な刺激のAMG EQS 53
AMG EQS53 4MATIC+の走行シーン
最初に試乗したのはAMG EQS53 4MATIC+。乗り込んだ時点でのバッテリー残存は82%、航続可能距離は411kmだったので、100%ならば501kmといったところ。WLTCモード値からは100kmの差はあるが、BEVはドライバーの走行方法によって相当変わる。筆者の前(に乗った)のドライバーが元気に走り回っていた、ということだろう。
EQS AMG53の装着タイヤは、ミシュランのパイロットスポーツEV、サイズは前後とも275/40R21だ。トレッドセンター部に、FORMULA-E用レースタイヤの技術を応用したコンパウンドを採用し、強大なモーターパワーを受け止めて、パワーを確実に路面へと伝えるスポーツタイヤだ。
サルーン向けにしてはずいぶん贅沢なタイヤだが、このEQS AMG53には、このくらいのタイヤが必須。EQS AMG53は、前後アクスルに電動パワートレイン「eATS」を備え(標準モデルのEQS450+は333psのリアアクスルのみ)、最高出力は656psを誇る。
強力な前後モーターと高いトラクションによる加速は超刺激的だ。とてもとても、アクセルペダルを踏み切れるものではなく、一瞬のフル加速で脳が揺すられて、自分の運転ながら、少し酔ってしまった。ちなみにレーススタートを使用すると、最高出力761psにもなるが、公道で使うことはできないだろう。
通常モデルのEQS 450+の走行シーン
続いて試乗した、通常モデルの450+。こちらは、Sクラスの厳かな雰囲気に近い乗り味であった。AMGのパフォーマンスを発揮したいといった意思がないならば、穏やかな走り心地の450+のほうが、(少なくとも筆者にとっては)ずっと幸せ。
EQSは全モデルに、「エアマチックサス(エアサスと連続可変ダンパーシステム)」が4輪に標準搭載されており、21インチ大径タイヤが路面から受ける衝撃を吸収してくれる。また、高い遮音性能によって静粛性がよいため、非常に静か。特に後席空間は至極快適だが、後席空間が広すぎて足を踏ん張るところがないため、強い加速で振り回されるとかなり辛そうだ。
また、「サウンドエクスペリエンス」という、加速と回生ブレーキ時にサウンドを出すシステムが面白い。ドライブモードを、SPORT、SPORT+と変えることで、サス設定やモーター特性とあわせて、迫力のあるサウンドが響く。気筒エンジンのサウンドとは異なる、電子音なのだが、野太く低いサウンドが車内に響き渡る。
これらは追加コンテンツとして購入することで、アップデートも可能だという。「BEVは無味無臭の加速がつまらない」と感じていた方にとっては、興味を持つきっかけとなりうるだろう。V8やV10のエンジンサウンドの再現ができると、なお面白いと思う。
■車両本体価格
EQS450+=1578万円
メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+=2372万円
■最新デジタルながらアナログな雰囲気をもつ、新型「SL」のインテリア
■車両本体価格
AMG SL43(BSG搭載モデル)=1648万円
スペクトラルブルーマグノというマッドペイント(有料色22万6000円)が施されたAMG SL 43
一方、今作からメルセデスAMGの完全自社開発となった、新型「SL」。2+2シートレイアウト、ソフトトップのラグジュアリーロードスターであるSLの新型は、インテリアに、最新のメルセデス流デジタルながらも、アナログな雰囲気をもつ「ハイパーアナログ」デザインを採用。
AMGのステアリングホイールの向こう側には、昨今のメルセデス共通である派手なデジタルメーターと、インパネ中央には縦型ディスプレイが並ぶが、3連のエアコン吹出口や横幅のあるセンターコンソールなどは、伝統的なロードスターのデザインが踏襲されている印象だ。
ステアリングホイールの中央下に設置されている2つの円いスイッチは、右側がドライブモード変更、左側がサスペンション設定やリアスポイラーの角度変更などの機能をアサインできる
シートは2+2のレイアウト。後席スペースは最小限
また、ボディには、アルミニウム複合素材のスペースフレームを基本とした構造を導入し、最新の接合方法を投入。
これによって、ねじり剛性を従来型比でプラス18%、横方向剛性はAMG GTロードスター比でプラス50%、前後方向剛性もAMG GTロードスター比でプラス40%と、ボディシェルの品質は最高水準にまで高められているという。
同時に軽量化も実現しており、ホワイトボディの質量は270kgと、ロードスター用ボディにしては非常に軽量、まさに「SL(Super Light=軽量)」だ。
また、最高出力381ps、最大トルク480Nmを発生する2L直列4気筒ターボエンジンには、メルセデスAMGペトロナスF1チームが長年採用してきたシステムがベースとなる、量産車としては世界初の技術、エレクトロニックエキゾーストガスターボチャージャーが投入されている。
最高出力381ps、最大トルク480Nmを発生する2L直列4気筒ターボエンジン
厚さ約4cmの電動モーターが、排気側タービンホイールと吸気側のコンプレッサーホイールの間で、軸と一体化されており、モーターパワーによって軸を直接駆動し加給するしくみだ。
エンジン組立にも細心の注意を図り、AMGのエンジンマイスターが一基ずつチェックするという。なお48V電気システムと組み合わせるマイルドハイブリッドのシステムは、第2世代のBSGとなる。
サスペンションには、前後とも5リンク式の新型を投入、ダンパーの伸び側と圧側を独立でコントロールするAMG ライドコントロールサスも標準装備
■直4にがっかりすることなかれ!! 生き残っただけでもありがたい
AMG SL43を目の前にすると、いかにもスポーツカーといった雰囲気の車幅の広さと低さに高揚させられる。最新流行のマッドペイントのボディカラーは、クラシカルにも思えるロードスターにこそマッチするのかもしれない。インテリアのタンカラーの本革シートの相性も抜群だ。自分で買うとしても(とても買えないが)、この外装と内装の組み合わせを選ぶだろう、と思った。
アイポイントの低いドライバーズシートへ乗り込むと、目の前には、メルセデスの最新の、艶やかな2枚のデジタルメーターが並ぶ。メーター側のディスプレイは、昨今のメルセデスと同じく、複数の表示パターンから選べる仕様だ。センター側のディスプレイは、屋根を空けると自動で垂直に立ちあがり、太陽光の反射を防ぐよう仕組まれている。おかげで、試乗中にセンターディスプレイが見えない、といったことはなかった。
走行を始めれば、走りの軽さに感動する。車両重量は1780kgと決して軽いわけではないのだが、吹け上がりのレスポンスが良い直4ターボが低速から引っ張ってくれるので、スイスイと走る印象だ。
また、グリップの高いミシュランのパイロットスポーツ4S(フロント265/40R20、リア295/35R20)の威力は絶大で、コーナリングやブレーキングもやりやすく、試乗コースであったターンパイクでは、実に気持ちの良い走りを堪能できた。日が陰りやや寒い時間帯であったが、オープン走行であっても風の巻き込み自体は少なく、また首の真後ろ付近に温風が当たるようになっていたので、寒がりな筆者としては非常に助かった。
ただ、直4エンジンの音質はどうしようもない。かつてV8やV12といった多気筒エンジンだった時代のSLと比べると、新型が直4エンジンになった、という事実にがっかりされる方も多いかと思うが、新型SLでは、モード可変によってエンジンサウンドが変わる仕組みなど、面白みも加えられており、今の時代に、高出力ガソリンターボのモデルが生き残っていること自体が奇跡だと思ってほしい。
1人か2人で、ワインディングをハイスピードで、もしくは街中を優雅に流すならば、こうしたロードスターは最高だと改めて感じた。
リトラクタブルリアスポイラーは、走行状態によって角度が可変するが、車速や前後左右の加速度、操舵速度など、多くの情報をもとに決められる。5段階(マイナス11度、6度、11度、17度、22度)、80km/h以上で展開する。積極的なドライビングを検知すると、最大角度にセットされる
■まとめ
今回のEQS、そして新型SLには、AMG仕様のステアリングホイール程度しか共通のパーツは見当たらなかったが、運転時の安心感の高さは、パワートレインが電動になろうと、液晶ディスプレイが多面化しようと、メルセデスの歴史の中で脈々と続いてきたものであり、EQSも新型SLも、間違いなくメルセデスのラインナップの延長線上にあると感じた。
特にEQSは、静けさだけが取り柄の無味無臭なBEVが多い中、モードチェンジで野太い加速サウンド(サウンドエクスペリエンス)を表現するなど、BEVの新たな可能性を見せてくれた。
新型SLも「最後」のガソリンターボ車になる可能性は大きい。将来どういった姿で新生SLを表現してくれるのか、また、メルセデスならではの味付けをどのように施してくるのか、今後のメルセデスが非常に楽しみに感じた、今回の試乗だった。
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