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王者ハミルトンを相手に一歩も引かず。究極のマッチレースを制した新星ルクレールの巧さと強さ【今宮純のF1イタリアGP分析】

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王者ハミルトンを相手に一歩も引かず。究極のマッチレースを制した新星ルクレールの巧さと強さ【今宮純のF1イタリアGP分析】

 2019年F1第14戦イタリアGPは、フェラーリのシャルル・ルクレールがポール・トゥ・ウィンを達成。フェラーリの地元でメルセデス勢の追撃をかわし2連勝を飾った。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のイタリアGPを振り返る。

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ベッテルのスピンに巻き込まれたストロールが怒り心頭。「僕には何の落ち度もないのにひどい災難だった」:F1イタリアGP日曜

 救世主ルクレール、聖地モンツァに降臨。フェラーリ14戦目の新鋭がイタリアGP“デビュー戦”を勝ちとった。速さと巧さと強さ。実力で強敵ルイス・ハミルトン(メルセデス)をくだしたのだ。こういうレースを望んでいたティフォシたちの心を揺さぶるレースだった。

 空中表彰台に立つルクレールにはどんな景色に見えたのだろう。メインストレートは埋め尽くされ、スタンドはスタンディング・オベーション、彼らすべての視線が自分ひとりに注がれる。9年前、2010年にマクラーレンから来たフェルナンド・アロンソがイタリアGP“デビュー戦”に勝ったあのときの光景が、個人的にだぶって思い出された。

 さらにさかのぼると1996年にベネトンから来たミハエル・シューマッハーは堂々と勝ってみせた。このふたりと同じ偉業を成し遂げたルクレール。違うのはまだ21歳でF1キャリアわずか1年半、先週ベルギーGPで史上108人目ウイナーとなったばかり。ふたりの「レジェンド」と並ぶ輝きを魅せた新星、まさしく“一等星”である――。

 モンツァを制する者がチャンピオンになってきている。2013年セバスチャン・ベッテル、14&15年ハミルトン、16年ニコ・ロズベルグ、17&18年ハミルトン。彼らはその年マシンに恵まれたが、<王者の資格>としてミスやエラーを最小限にとどめる集中力を持続し、長いシーズンを走りぬいた。

 モンツァの全長5.793Kmにコーナー数は11。53ラップでトータル583コーナーを数える。そのほぼ60%は高速コーナーだが三つのシケインでヘビーブレーキングを強いられるのが特徴だ。超高速コース仕様のローダウンフォース設定なのでとくに減速時の安定性がシビア。そのブレーキングポイントはタイヤの状態や燃料の軽重によって変わってくる。また前後左右に群がるマシン位置関係によって乱流をあび、ダイナミックダウンフォースも変動する。

 1~2コーナーの「レッティフィーロ・シケイン」、4~5コーナーの「ロッジア・シケイン」、8~9~10コーナーの「アスカリ・シケイン」。今年もそこがアクションゾーンになった。

 レース序盤、6周目にアスカリで悲鳴のような叫びが上がった。4番手ベッテルが入口で縁石に触れ単独スピン、コース復帰する瞬間にストロールと接触。非常に危険な行動と言わざるを得ない。

「ミラーの死角で見えなかった」と彼は主張するが、後続車が連なっている序盤である。皆が確実に自分を避けてくれると思ったのだろうか、チャンピオンの振る舞いとしていかがなものだろうか(重いペナルティ3点が科せられた)。なおベッテルは昨年フランスGP以降、9度もこうした“エラー”がありとても残念だ。

■シャルル・ルクレールとメルセデス勢の『1対2』バトル
 中盤、23周目のロッジアでルクレール対ハミルトン、究極のマッチレースの瞬間が。イン側の進入ラインをキープするルクレール、アウト側のラインで並走するハミルトン。互いにタッチはなかったが窮屈なスペースで減速ポイントをずらさねばならず、王者ハミルトンはエスケープを選んだ。

 さすがだと感じた。もしあの瞬間、意地を張っていたら接触はまぬがれない。アウト側なのでダメージを負う比率(度合)は相手より大きくなる。シリーズリーダーは先々を見通し、ここはいったん身を引く判断に出た(と思う)。仮にもしシーズン最後のタイトル決戦下であれば、五冠王のハミルトンは異なるアグレッシブな選択をするかもしれないが……。

 新鋭ルクレールもさすがだった。センチメートル単位のサイド・バイ・サイドに全くひるまなかった。右寄りでも左寄りでもない精確なラインと、浅くもなく深くもない極限のブレーキングを実行。平然とこの“対戦的プレー”をこころみた。「シャルルは並みの新鋭ではない」、ハミルトンははっきりそう認めたことだろう。

 終盤、ルクレールは孤軍奮闘に追い込まれていた。ベッテルはもうとっくにいない。メルセデス勢と『1対2』のバトルロイヤルを受けて立たねばならない。36周目、レッティフィーロへ進入する瞬間に左フロントをわずかにロック。フラットスポットができないよう、減速タッチをコントロールしミスをカバー。エスケープまで行かずに、動揺せずにクルバ・グランデを加速してロッジアまで再びガードラインに集中。

 抜くか抜かれるか、プレッシャーをかける王者の攻撃が執拗につづいた。後方で乱流をあび、タイヤ変調がじわじわ進んでも追走をあきらめない。42周目、レッティフィーロで今度はハミルトンが減速プレーで小さくないミスを。まっすぐエスケープゾーンへ、ここは昔からティフォシ大観衆が居る場だ。彼らはこういう場面を見たくてここにいるのだ。大歓声、どよめく。

 1対2の相手はボッタスに変わった。ルクレールは残り11周、DRS圏内に入られないように1秒弱から1秒強のギャップをキープ。ボッタスがなんとか圏内に入れたのは3度きり、そのときも焦ることなくきっちり守った。この防御がある意味で“攻撃”だった。

 2番手ボッタスに対し、迫ればフロントがロックしやすくなるよう仕向けたからだ。0.835秒差以上の心理的なタイム差に広げられたボッタスは今季6回目の2位で終わる。ひとりでメルセデスのふたりを封じこんだルクレール、全ての能力をこのイタリアGPに注ぎこんだ。

――モンツァを制するにはミスを少なく、エラーを小さく、シケイン減速プレーの精度を高め75分の『超高速戦』に集中する。テクニカルな速さとメンタルの強さ、すべてがルクレールにはそなわっていた。


文:AUTOSPORT web
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