ポルシェに乗っているとよくいわれることがある。
「高級車ですね」と。
たしかにポルシェは高額なクルマである。
だが、ボクはポルシェのことを「高級車」だと思ったことは一度もない。※ここでいう“ポルシェ”とは、911やボクスター、ケイマンといったスポーツモデルを指している
ポルシェの内装や外装の装備は、決して充実しているとはいいがたい
では、なぜボクがポルシェを高級車ではないと思うのか?その理由は簡単だ。装備が貧弱で、ちっとも豪華ではないからである。
ポルシェのスポーツモデルは驚くほど標準装備がプアだ。年々改善されてはいるが、正直、ボクは「軽自動車並みだ」と考えている。
ボクはこれまでにポルシェを4台乗り継いだが、997世代のポルシェ911カレラでは、標準仕様だとドアミラーを自動で折りたたむことができなかったし、現行の718ケイマンでもこれは同じだ(ドアミラーを電動で折りたたむには、5万円程度のオプション代金を支払わねばならない。これについては、ポルシェの名誉のため、あとで補足しておきたい)。
そして、981世代のボクスターでは、驚くべきことにヘッドライトが「ハロゲン」であった。
そのほかにも、ウインカー含むレバーのタッチがあまりに悪かったり、シフトレバーのクリック感が乏しかったり、内装のたてつけが悪かったり、使用される素材が同価格帯のクルマに劣っていたり、騒音や振動が大きかったりする。
ポルシェは他メーカーのクルマと比較しても割高だ
たとえば、ポルシェと同じグループに属するアウディ「TT」と、ポルシェ718ケイマンを比較してみよう。
アウディTTS(776万円)のエンジンは2リッターターボで、出力は286馬力だ。
駆動方式は4WD、トランスミッションは6速Sトロニック(デュアルクラッチ)である。
特徴的な装備としてはマグネティックライド、マトリクスLEDヘッドライトやダイナミックターンインジケーター(流れるウインカーだ)などがあり、もちろんドライブモード選択もできるしドアミラーも電動で格納でき、シート素材はアルカンタラとレザー仕上げとなっている。
一方のポルシェ718ケイマン(300馬力)の価格は673万円だが、これはMTの価格なので、アウディTTSと同じ装備内容とすべくオプションを選んでゆくと、PDK(デュアルクラッチ)472,000円、ポルシェ アクティブサスペンション マネージメント234,000円、スポーツクロノパッケージ364,000円、オートエアコン(そう、718ケイマンのエアコンは標準だとマニュアルである)125,000円、レザーインテリア101,000円、LEDヘッドライト323,000円、パークアシスト+バックカメラ168,000円、電動格納ミラー49,000円といったところが必要になり(これでもまたアウディTTSの標準装備には追いつかない)、これらを合計すると、なんと1,836,000円だ。
そして、これを車両価格にプラスすると8,566,000円にもなってしまう。
つまり、ポルシェはあまりに装備が貧弱であり、平均的な欧州車同様の装備にしようとすると200万円程度は必要になるということだ。
じゃあなぜポルシェは高価なのか?
そこで単純な疑問が湧くと思う。
これだけ装備が簡素で、しかも割高なクルマがなぜここまで、そして長年にわたって支持を受けるのか、ということだ。
答えは簡単だ。
ポルシェがお金をかけているのは目に見えない部分や、触って分かる部分ではなく、「運転しないとわからない部分」であり、いざ運転してみると「ポルシェでしか到達できない領域」があるからだ。
ポルシェというクルマは、一見して分かる部分の質感は高くはない(最近ではずいぶん向上してきたが)。
しかし、一度リフトアップし、その裏側を覗くと、ポルシェにはとんでもなくお金がかかっていることがわかる。頑強なサスペンションアームや複雑な取り回しを持つエキゾーストパイプはじめ、整然と配置された補機類は見ていて飽きない。
ボクは、ポルシェがお金をかけている部分について、一晩中だって話すことができるが、あまりに長くなりそうなので、それらの説明はまたの機会にしようと思う。
ここでポルシェの考え方について触れておきたいのだが、端的な例は上述の「電動で折りたためないドアミラー」だ。
なぜポルシェのスポーツモデルに採用されるドアミラーは電動で折りたためないのか?
ポルシェはここにかけるお金をケチっているわけではない。ポルシェは、電動で折りたためるドアミラーは不要どころか、走りをスポイルすると考えているからだ。
電動で折りたためるドアミラーを採用すると、ドアミラーの中にモーターを仕込まねばならない。
そうすると必然的にドアミラーが重くなるが、ドアミラーはクルマの一番外側にあるパーツだ。
加えて、その位置も高い。
ということは、軽量化はもちろん、低重心化やロールセンターの適正化とは真逆の結果を生んでしまう。
ポルシェは快適性や利便性よりも、車体を軽くしたり、重心を低くしたり、ロールセンターを車体の中心に集めることが重要だと考えている。
そしてクルマの乗り心地を良くしたり静かにしたり便利にしたりするよりも、より速く走ることにコストを投じたいと考えている会社だということだ。
そして、ポルシェのクルマは、ポルシェが「必要だ」と考える走りを実現するために妥協なくコストが注ぎ込まれた結果として高価になっただけであり、高級車を作ろうと考えた結果の価格設定ではない。
よって、ポルシェのつくる800万円のクルマが、ほかのメーカーがつくる800万円のクルマより装備が見劣りするのは当然のことだと考えているし、それとは逆に、ほかメーカーのつくる800万円のクルマよりも、ポルシェのつくる800万円の車のほうがずっとドライバビリティが高いのもまた事実だと思う。
これが、ボクが「ポルシェは高額な車ではあるが、高級車ではない」と考える理由であり、そんなポルシェをボクは支持したいと考えている。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]
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