■カーボンニュートラル燃料を使って挑んだスーパー耐久2022! 最終戦はどうだったのか?
スーパー耐久の場を用いてGR86/SUBARU BRZによる「カーボンニュートラル燃料を用いた先行開発車両」のガチンコバトル。
【画像】泣いても笑ってもスーパー耐久シリーズは最終戦! その様子を見る!(31枚)
最終戦は三重県の鈴鹿サーキットになります。この挑戦のゴールはここではありませんが、両チームにとって1年の取り組みやマシンの進化を確認する場であると同時に、次のステップに進むためのひとつの区切りのレースです。
ただ最終戦と言いつつも、どちらのマシンも進化の手は止まっていません。
前回(岡山)で完全勝利を遂げた61号車SUBARU BRZ CNF Conceptから見ていきましょう。
エンジンは大幅な出力向上が難しい自然吸気エンジンながらも着実にポテンシャルアップをおこなってきました。
今回は低フリクションピストン、ECU充電制御、マフラー変更により出力を8psアップ(開幕戦から37ps向上)。
シャシ系はさらなるダウンフォースアップのためにフロントアンダーカバーの採用(ボンネットに続いて再生カーボンを使用)、操舵応答性/中・大舵角での回頭性向上のためにステアリング剛性アップとサスアームの最適化。
そして1年間にわたって開発してきたというスポーツABSの投入などがおこなわれています。
一方で前回(岡山)は負けたものの、流れはいい方向に向かい始めている28号車GR86 CNF Conceptはどうでしょうか。
まずは富士24時間でのトラブルで大きな課題となっていたトランスミッションを強化。これに伴って1.4リッターターボエンジンの出力(3%)/トルク(8%)を向上させています。
シャシ系はサスペンション部品の見直しやセンサー類の統廃合、チタンマフラーの採用などにより33kgの軽量化、さらにサスペンションメンバー/フロントブレースは構造変更がおこなわれています。
補強関係は前回も変更されていましたが、データ解析とドライバーのフィードバックを元に見直しがおこなわれたということでしょう。
このように、どちらのマシンも前回から約1か月の短期間にも関わらず大きな進化を遂げています。この辺りはまさに“アジャイルな開発”が浸透している証拠といえます。
どちらのマシンも木曜日の練習走行、金曜日の占有走行でセットアップをおこなっていました。
そんな金曜日の午前中のセッションで61号車SUBARU BRZ CNF Conceptがシケイン手前でブレーキ異常(スポーツABSのシステムがフェール)が発生しクラッシュ。
ドライバーの山内英輝選手に怪我はなく、マシンの修復可能レベルと聞いて一安心。
翌日、土曜日におこなわれた予選の結果は以下になります。
●ORC ROOKIE Racing/ORC ROOKIE GR86 CNF Concept
4分37秒755
A:蒲生尚弥選手 2分17秒387
B:豊田大輔選手 2分20秒368
●Team SDA Engineering/Team SDA Engineering BRZ CNF Concept
4分37秒948
A:井口卓人選手 2分19秒104
B:山内英輝選手 2分18秒844
※ ※ ※
予選は、28号車GR86 CNF Conceptに軍配が上がりましたが、その差はわずか0.193秒と僅差。
ちなみに開幕戦の最速タイム同士を比較してみると、28号車GR86 CNF Conceptは2.233秒、61号車SUBARU BRZ CNF Conceptは2.761秒も短縮しています。
タイムが全てではありませんが、これも両社で競い合いながら進化を続けてきたことのひとつの“結果”といえるでしょう。
土曜日の夕方、ROOKIE Racingが2023年スーパー耐久参戦体制のリリースを発表しました。
水素エンジン搭載のGRカローラ、カーボンニュートラル燃料を使用するGR86に加えて、「アジアでのモータースポーツを共に盛り上げる」をテーマに中升(ゾンセン)集団をメインパートナーにメルセデス・AMG「GT3(ST-X)」と3台体制での参戦となります。
一方、スバルは東京オートサロンでモータースポーツ体制を発表するのが定番なので現時点は正式発表はまだですが、技術トップの藤貫哲郎CTOに話を聞くと「継続しなければ意味ないですから」という発言からも解るように、2023年スーパー耐久への参戦は間違いないでしょう。
■泣いても笑ってもスーパー耐久シリーズ最終戦! 鈴鹿の決勝はどうなった?
日曜日の決勝は快晴で11月にも関わらず気温は18度前後とレース観戦もしやすい環境。
制限の緩和でピットウォークには朝から多くのレースファンが集まりました。
今回はGR/SUBARUと共に「モータースポーツを起点とするもっといいクルマづくり」の仲間であるMAZDA SPRIT Racingが「マツダ3 Bio concept」、Honda R&D challengeが「シビック・タイプR(FL5)」とニューマシンを投入とニュースも盛りだくさんです。
決勝は序盤からコースアウトやクラッシュが起きる波乱の展開ですが、28号車GR86 CNF Concept/61号車SUBARU BRZ CNF Conceptはそれに巻き込まれることなく接近戦のバトルを続けます。
その模様は公式映像にも何度も取り上げられており、プレスルームでも「GR86の燃費は大丈夫なのか?」、「BRZはいつ仕掛ける?」といった会話が繰り広げられていましたが、レース開始から約30分後の11時20分、61号車SUBARU BRZ CNF Conceptが第2コーナーでスローダウン。
山内選手は「スロットルが作動しない」とコースサイドに停車。ピットからの指示でトラブルシュートをおこなうも再スタートができず、そのままリタイヤとなってしまいました。
一方の28号車GR86 CNF Conceptは、安定したラップで走行を続けます。
レース中に何度かピットに様子を見に行きましたが、メカニック/エンジニアの表情からも、順調に走行していることが解ります。
レース途中に開発責任者の藤原裕也氏に話を聞くと次のように教えてくれました。
「一緒に戦って意味があるので、BRZのリタイヤは残念です。
ただ、彼らがいると思って『彼らはこのタイミングでピットかな?』、『ここで入られたらまずいぞ…』 、『でもここで我々が抜き返すかな?』とシミュレーションしながら戦っています」
こんなとこらからも両社の関係性が解るでしょう。
その後も28号車GR86 CNF Conceptはノートラブルで走行し、チェッカーを受け、今回は予選/決勝共に28号車GR86 CNF Conceptの完全勝利となりました。
※ ※ ※
レース終了後に嬉しい光景を目にしました。
リタイヤしたTeam SDA EngineeringのメンバーがゴールしたROOKIE Racingのドライバーを待っていたことです。
そのなかには出張先からそのまま鈴鹿入りしたSUBARU中村社長の姿も。両チームはこれまで仲良くケンカをしながらカーボンニュートラルと次期モデルの開発を一緒におこなってきましたが、一年間のお互いの健闘を称え合っている姿を見て、両社の関係性の良さを改めて感じた次第です。
■共に戦ったスーパー耐久シリーズ2022 最終戦はどんな戦いだったのか?
レース後、Team SDA Engineeringの本井監督に今回の総括を聞きました。
「この終わっていない感はなんでしょうね(笑)。
予選から決勝、序盤はいいバトルをしていたと思います。
絶対的なスピードでは勝てないのは解っていたので、戦略も色々な想定をしていましたが、それを活かすこともなく。
リタイヤの原因は燃圧センサーです。
実はほかのクルマで経験してきたことで、『対策がないよね』と気にしていた所でしたが、やはりサーキットでは出てしまいましたね」
さらに1年間GRとガチンコで戦ってきたことについても聞きしました。
「ここまで来られるとは正直思っていませんでした。
我々はレースの経験はない、エンジンは馬力を含めて違うので、『到底追い付かないな』と思っていましたが、蓋を開けたらエンジンもシャシも本当に速くなりました。
これは人の成長にもいえることですが、これはGRを含めた皆さんに鍛えてもらったおかげです。
実際にエンジニアの目の色が変わりましたからね。
ただ、ここでの経験・ノウハウを普段の業務に活かせるかが大事なことなので、そこはシッカリと繋げていこうと。
その一方、1年やってきて『手を入れたけどできないよね』という部分も解ってきました。
要するに、量産車でいえばビックマイナーチェンジのような変化も必要だなと。
2023年は『将来のスバル車の技術アイテムを盛り込むこと』、『このクルマで開発した部品や技術をユーザーに還元すること』を狙っています。
カーボンニュートラル燃料は我々としては完全に手の内化できたので、次の開発も進めています。
実はGRのマシンが有利になるところもありますが、ここは競争よりも協調で、世のためにはやっていかなければならないところなので」
※ ※ ※
続いてGRの藤原氏に聞いてみました。
「本音をいえば一緒にゴールしたかったです。もちろん、我々が1周勝っている前提ですが(笑)。
今回の結果は我々が勝ちですが、まだまだ課題は山積みです。
本来は木曜日の練習走行はセットアップをしなければいけませんが、変化点の潰し込みに追われてしまいました。
セットアップも色々トライしたものの、これまでの潜在的な課題も抜本的な解決には至らず。
外から見ていると順調そうに見えたかもしれませんが、タイヤのグリップに頼った走りで、我々が目指す『誰が乗っても安心・安全』にはまだまだ辿り着いていません」
さらに1年間SUBARUとガチンコで戦ってきたことについて伺いました。
「当初は設計の想いとドライバーが感じることにギャップがありましたが、コミュニケーションの量も質も上がると徐々にベクトルも揃ってきました。
この1年、レースの現場で開発をおこなってきたことで、ドライバーが感じたことをすぐにデータで確認して定量値に落とし込んで対策というデータを元にしたクルマづくりの大切さを学びました。
その結果、我々も自信を持ってドライバーに提案できるようになりました。
もちろん、車両の完成度という意味ではまだまだ道半ばですが、次に向けた『土台づくり』としての成果はあったかなと思っています。
この1年でもっといいクルマになるヒントをたくさん得ました。
GR佐藤プレジデントは『来年は骨格を変えます』といってしまったようですが(笑)。
現行モデルをベースに手を加えてきたフィードバックをシッカリと次のクルマに活かしていきたいです。
これからオフシーズン走る機会は減りますが、設計的にはやることはたくさんあるので、次に繋げていきたいと思っています」
このようにどちらのチームもすでに2023年に向けて色々動き始めています。長いようで短いシーズンオフですが、両メーカー共に休んでいる暇はなさそうな予感。
カーボンニュートラル実現への道はまだまだ続きますが、2022年はその選択肢のひとつであるカーボンニュートラル燃料をレースを通じて多くの人に知ってもらう “種まき”のようなシーズンだったと思っています。
筆者は来シーズン、その芽の成長をシッカリと見届けなければいけないなと。
そして、GR86/SUBARU BRZの次期モデルの開発もこの1年で通常の量産車開発の数倍以上の速さで物事が動いていたように感じました。
そのやり取りを包み隠さず見せ、語ってくれたGR/SUBARUの「本気」と、一緒にもっといいクルマをつくりたいという「強い想い」が、読者の方にも伝わったと信じています。
皆さんも両メーカーに「次期モデル、欲しいです!!」とエールを送ってあげてください。レースと同じで「声援は力」になりますから。
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