2005年の東京モーターショーで6代目C6型シボレー コルベットのハイパフォーマンスモデルである「Z06」が登場、翌2006年より日本販売が開始された。先代ではZ06の導入はなかったが、このC6ではすぐさまに上陸、7L V8エンジンも大きな話題となった。今回は導入直後に行われた試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年10月号より)
OHVって、いいことばかりじゃないか
ちょうど2年前のこと。フルモデルチェンジしたキャデラックSTSとシボレー・コルベットの国際試乗会に参加した。
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GMの本拠地、デトロイトで行われた試乗会はプログラムが豊富だった。工場やミュージアム、近くの大学キャンパスで行われたコンクールデレガンスまで、数日間を掛けて見学するという盛り沢山の内容だった。特に面白かったのは、パワートレーン工場見学の際に行われた「LS2エンジン組み立て競争ゲーム」だ。
C5からC6へフルモデルチェンジを果たしたコルベットに搭載されるエンジンは「LS2」と呼ばれる新開発のV8。このLS2は、GMのスモールブロックV8としては第4世代にあたる。
初代の登場は1955年。4343ccの排気量から195psの最高出力を発揮していた。それ以後、発展を続け、C5コルベットに搭載されていた第3世代のLS1はブロックがアルミニウム化され、排気量5.7Lから350psを発生していた。いずれのユニットも、バンク角90度のV8レイアウトを持ち、吸排気バルブの作動にはOHV方式を採用しているのが特徴だ。
そして、LS2は、101.6mm(4インチ)に拡げられたシリンダーのボア径によって、排気量はスモールとは言っても、5970ccにもなる。6L! 圧縮比10.9で、最高出力は400ps/6000rpm。最大トルクが55.3kgm/4400rpm。
組み立て競争ゲームは、LS2のブロックにピストンやバルブなど、補機類を除いたパーツを決められた時間内でいかに正しく多く組み込めるかを競う。パズルや積み木遊びのような面白さがあって、ついつい夢中になってしまった。
ゲームで一着にはなれなかったけれども、終了後に感嘆させられたのは、LS2の小ささと構造のシンプルさだった。OHVだからカムシャフトがピストン上部に来ることはなく、エンジンの全高が低く抑えられている。おまけにカムシャフトは1本で済み、Vバンクの谷間に通せばいいから、エンジンが無駄に大きくなることがない。
「日本車&ヨーロッパ車進化史観」に囚われ過ぎていたから、OHVは古臭くて、OHCやDOHCが進んでいるシステムだと単純に思い込んでいた。エンジンの上下寸法が抑えられれば、ボンネットフードの高さも下げられる。重たいカムシャフトをヘッドの上部に置かなくても済むということは重心だって下げられる。OHVって、いいことばかりじゃないか。眼から鱗(うろこ)が落ちた。
「有無を言わさぬ速さ」ということのプレミアム
ただし、OHVのメリットがあってもコルベットのようなスポーツカーには、走行性能の高さが求められる。つまり、遅くちゃダメなわけだ。
OHCやDOHCによる高回転化で馬力を稼がないのならば、他の方法でクルマを速くしなければならない。日本車やヨーロッパ車にはやりづらいが、コルベットには道があった。大排気量化だ。
6Lもの排気量が確保できるのだから、特別な高回転化の必要はない。回転数を稼がなくても、巨大な排気量によって高出力と大トルクを得られる。OHVのデメリットよりもメリットが勝った。
その翌日、GMがコルベットをはじめとする高性能車のテストに使用しているミルフォード・テストトラックで、C6コルベットに乗った。
アップダウンと屈曲がキツく、いくつかのコーナーはドイツのニュルブルクリンク・オールドコースのそれを模してある。どこの自動車メーカーも考えることは一緒だ。
「LS2エンジンのレスポンス鋭し。ボディとシャシのシェイプアップの効果特大。C5の延長線上にあるが、二階級飛び級」
当時のノートを読み返すと、C6への賛辞が連ねられている。引き締まったのはルックスだけでなく、実際に全長が5インチ(12.7cm)、全幅が1インチ(2.54cm)短くされた。フロントが18インチ、リアが19インチとホイールも大径化され、もちろん、それを支えるサスペンションやシャシも全面的に改められた。
C6はC5よりもコーナリングスピードが増したにもかかわらず、コーナーでの無駄な姿勢変化が減り、ステアリングインフォメーションが増えて、コントローラブルになった。シェイプアップとパワーアップを同時に成功させていた。コルベットは、ドライバーの身体感覚にフィットするスポーツカーに変身したのだ。
テストトラックのパドックには、見慣れないC5が1台停まっていた。C5はルーフからテールにかけてリアウインドウがなだらかに傾斜していくファストバックスタイルを採っているはずが、このC5はストンと急に落ちたノッチバックスタイルなのだ。スタンダード版では取り外しのできるデタッチャブルルーフが固定されている。日本に正規輸入されなかったC5のZ06だ。
スタンダードのC5コルベットをGM自らが徹底的に改造したスーパーコルベット。エンジンはチューンされ、各部には軽量化と補強が加えられている。ルーフを固定して、形状まで変えたのは、ボディ剛性と空力性能を向上させるためだ。
乗せてもらうと、乗り心地がおそろしく硬い。脳天の先まで、ビシビシ来る。増強されたエンジンパワーは、高回転域に偏っている。Z06は、想像以上にスパルタンだった。
1年半後、GMジャパンは一転して、Z06のC6版に力を入れていた。いち早く、2005年の東京モーターショーで2006年からの導入を発表し、価格もすぐに発表した。
このZ06の前評判は高かった。なぜならば、発表された資料と諸元表を読んでいくと、クルマ好きするスペックとスタンダード版からの変更点が、これでもかと列挙されていたからだ。
さすがに今回はボディ形状までは改められなかったが、Z06専用設計は、エンジン、フレーム、ボディ、サスペンション、ブレーキ、空力など、あらゆるところに及んでいる。
たとえば、エンジン。スタンダード版のLS2の6Lという排気量にもその大きさを驚かされたが、Z06用のLS7は、なんと1L増しの7Lだ。
最高出力は、GMが開発した乗用車用としては最もパワフルな511ps。最大トルクは64.9kgm。コンロッドやインテークバルブはチタニウム製に置き換えられ、軽量化によって高回転を狙う。エキゾーストバルブは大径化され、排気効率を向上させている。
オイル潤滑システムは、コーナリング中の横に妨げられないドライサンプ式。そして、クルマ好きを最もシビレさせるのが、スチール製のシャシフレームをアルミニウム製に換えてある点だろう。これによって車輛重量が1440kgと、スタンダードのコルベット・クーペの1500kgよりも60kg(コンバーチブルからは80kg)も軽くなった。
他にも、フロントフェンダーとキャビンのフロアをカーボンファイバー製のものに変更するなど、マテリアルおたくでなくとも、いちいち感心させられてしまう。
ボンネットやフロントとリアのフェンダーなどに設けられたエアダクトがギミックっぽく見えて、乗り込むのにちょっと恥ずかしい。
だが、これらはすべて実効しているのだ。空気を取り入れたり出したり、ブレーキを冷やすのにちゃんと役割を果たしている。ギミックなのはブレーキキャリパーの色だけ。キャリパーもZ06専用だが、これだけでは性能を向上できない赤色に塗られている。
コーナリングスピードもスタンダードのC6より数割アップ
走り出しは呆気ない。アイドリングでは、スタンダードのコルベットと何ら変わるところがない。「専用バケット」と謳っているシートも、巨漢のアメリカ人だったらそう感じられるかも知れないナという程度で拍子抜けする。
重たいクラッチをつなげ、ソロリソロリと走り出しても、驚かされことはない。高速道路での100km/h巡航は1900rpm。乗り心地は重厚で快適。V8エンジンの排気音は、昔のアメ車のドロドロドロッでもなければ、最新のヨーロッパ車のような洗練も趣きもない。
もともとスタンダードのC6の完成度が非常に高いから、日常的な状況ではZ06らしさはなかなか顔を出してこない。
だが、高速道路での巡航からシフトダウンして、フルスロットルを与えた時の猛烈な加速は、まさに爆発だ。ただただ、弾け飛ばされて行く。ヨーロッパ車が精緻なメカニズムでエンジン回転数を上げ、その上に凝った駆動方式でエンジンパワーを余さず路面に伝えようとしているのに対して、ボディの軽量化と7Lの爆発力で推し出して行く。
ワインディングロードでのコーナリングスピードも、スタンダードのC6よりも数割アップしている。
シャシの軽量化と高剛性化は確実に効いていることがわかる。車体と路面がどういう状態にあるのか。ステアリングホイールへのインフォメーションが豊富だ。同時に微細なコントロールへの反応も鋭く、運転していて面白い。飽きることがない。空恐ろしいほどの速度域にあっても、デリケートな運転に忠実に反応する。ZO6の独壇場だ。
Z06は、最も強力で、最も飛ばし甲斐のあるコルベットだ。Z06専用設計と装備は、すべて性能向上に奉仕しているところが潔い。
945万円という価格は絶対的には高価だが、内容を知れば納得がいく。知らなければ納得がいかない。7Lだ、アルミだ、カーボンだと説明されないと、なかなか納得がいかないだろう。
フェラーリやポルシェやベントレーが演出している、乗った瞬間にわかる「いいモノ、いいクルマ感」は、Z06にはない。おそらく、性能を少し官能面に振り分ければ、「いいモノ、いいクルマ感」を生み出すことは可能だろう。
でも、なくたって構わないじゃないか。ガサツなところが多少は残っていても、すべては性能のためにと驀進するのがコルベットだ。コルベットに「プレミアム」は似合わない。(文:金子浩久/Motor Magazine 2006年10月号より)
シボレー コルベット Z06 主要諸元
●全長×全幅×全高:4465×1935×1250mm
●ホイールベース:2685mm
●車両重量:1440kg
●エンジン:V8 OHV
●排気量:6997cc
●最高出力:511ps/6300pm
●最大トルク:637Nm/4800pm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●0-100km/h加速:3.9秒
●最高速:320km/h
●車両価格:945万円(2006年)
[ アルバム : シボレー コルベット Z06 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
高排気量のOHVのエンジンはシンプルかつタフな仕様だと思う。問題は中回転域に仕上げるか、高回転域に仕上げるかが難しい。
最大馬力が下がってもいいから、中回転域のトルクを稼ぎたいが、最大馬力は購入の重要ポイントだから、そうもいかない。
らはらほはほら