アストン・マーティン初のSUV「DBX」に乗って東京から新潟を目指した。
雪道でも高い走行性能を味わえる
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スノードライブは、季節限定の楽しみ。なにより、雪景色の美しさは、新緑や紅葉と比べてもひけをとらない。快適に安心に、雪の郷へと走っていくのに、じつは、アストン・マーティンDBX、かなりオススメの1台だ。
「このクルマのポテンシャルはかなり高いんです」
メルセデスAMG出身のトビアス・ムアーズ氏が、2020年夏にアストン・マーティン・ラゴンダに赴任した際、アストン・マーティン車を1台ずつ検証。その結論の一部が、上記の発言だった。
いくつもの高性能車を世に送り出してきたムアーズCEOの言葉を裏付けるように、アストン・マーティン・ラゴンダでは2022年2月に、707psと“超”がつく高出力を誇る「DBX707」を発表。「従来のどんな高性能SUVも凌駕する」とするムアーズCEOのコメントも同時に発表されたのが印象的だ。
DBXはもちろんサーキットでも、驚くほど速い。ただし、背の高いスポーツカーと思いこんでしまうと、オーナーだったら、けっこう損をしてしまうかも。なぜなら、雪道でも高い走行性能を味わえた。
ピレリ社の「スコーピオン・ウインター」と呼ぶウインター・タイヤを履いたDBXで出かけた先は、新潟県南魚沼市の「里山十帖(さとやまじゅうじょう)」。歴史ある旅館を改装して2014年にオープン。いらい、自然のなかのロケーションと、温泉をふくめて快適な宿泊体験、そして伝統素材をうまく活かしたクリエイティブな料理で、人気は衰えない。
快適なクルージング
私たちが出かけたのは、よりによって、東京にも大雪警報が発令された日。早朝に都内を出発したときは雨だったものの、関越自動車道をとおり、東京から埼玉へ入って走行しているうちに、みぞれに変わり、そのあと雪に。
DBX V8(707と区別するためこう呼ばれたりもする)が搭載する4.0リッターV8エンジンはトルクが700Nmとじつにたっぷりあるので、アクセルペダルを軽く踏んでいるだけで、出力コントロールが容易であり、ドライバーの安心感も高い。かつステアリングホイールも超がつくほどの過敏さは抑えてある。
電子制御ダンパーを組み込んだ足まわりは路面の凹凸をていねいに吸収するので、高速でのクルージングもまことに快適。そのよさは、雪中のドライブでも変わらない。
ウインドシールドに向かって降りしきる雪は、まことに異例の眺めであるものの、DBX V8ではまったく不安がない。
静粛性の高い室内、よく効く空調システム、上品な音づくりのオーディオといったものが、快適性に大きく貢献してくれている。
雪道も問題ナシ
いっきに、230kmを高速で走り、そこから目的地の里山十帖へ。
幹線道路は除雪がされているので、拍子ぬけぐらいするほど楽に旅館ちかくまで走っていけた。
「これなら、わざわざDBXでなくても……」と、思いながら敷地へ乗り入れたところ、そこからはしっかり積雪。厚く積もった雪がいたるところにあるではないか。
DBX V8、はたして、ギシギシというかんじで、新雪を踏みしめながら、真っ白い道を登っていく。途中でタイヤがグリップを失うこともなく、いっさいの不安がなかったのも、望外の嬉しさだった。
オフロード用の走行モード「テレイン」、「テレイン・プラス」を選べば、悪路走行用に最適化されるから不安は皆無。車高調整機能や360°カメラシステムなどを併用すれば、細い雪道でも難なく進めた。
“ローカル・ガストロノミー”の奥深さ
里山十帖は、冬のあいだ、雪の閉じ込められてしまうような立地だ。それなのに、宿泊客がぞくぞく到着する。やはり私たちと同様、料理が目当て、というひともいた。
築後約150年といい、この地域でも貴重な総けやき、総漆塗りのレセプション棟は、天井高が10mの吹き抜けで、圧倒的な雰囲気。個性的と言い換えてもよく、わざわざ出かけてくる価値のある施設になっている。
料理は、“ローカル・ガストロノミー”を謳い、地域の風土・文化・歴史を強く意識している。欧州をはじめ、各地で研鑽を積んだという桑木野恵子料理長が、地元の伝統である雪室(ゆきむろ)による貯蔵や発酵をうまく使いこなす。
「地元でしか味わえない料理の数かずを提供します」と、桑木野料理長の言葉にあるとおり、食材は畑のものも、海のものも、山のものも、地元産がこだわり。
頼んだのは、「季節のスペシャリテ里山十帖」(1万4080円)なるコースは、「春夏秋冬の保存」からスタート。
淡い味わいのしめサバの下に、地元で一般的な乾燥ゼンマイや切り干し大根が入り、そこにトマトウォーターを凝縮させたソースや、香りのいい柚子胡椒が添えられる。
手摘みの岩のりとともに、アワビ、それに蓮根しんじょうが温かい出汁に入った「立春の佐渡より」も、たいへん品がよく、かつ、味も香りもしっかり感じられる上等な一品だ。
地元では冬のごちそうというカジカの素揚げは、レンコンとゴボウと。「誰かの家でもしカジカ料理が出てきたら、それはたいへんなおもてなしなんですよ」と、桑木野料理長は、そう説明してくれた。こういうコメントが、地元ならではで楽しいのだ。
アンコウのしっかりした食感の切り身は、軽く発酵さえた白菜とともに。アンコウって、繊細な香りで、噛んでいると口中にじわじわと旨さが広がっていく。これも目がさめる1品だ。
網猟で捕ったマガモのローストと冬ネギの組合せによる「鴨が葱しょって。。」という、クスリと笑いたくなる名の料理が続く。橫にはマガモの心臓も添えられている。
私は以前、銀座の“名”イタリア料理店でマガモと、内臓とをいっしょに食べたことがあるが、そのときややへきえきとした、独特の臭みは、ここではいっさいなし。いってみれば、カモ料理のいいところだけ取り出した一品に仕上がっている。
最後は、“メイン”の「ごちそうごはん」。南魚沼の米仙人・清さんのコシヒカリを使う。なんでも、コシヒカリで知られる南魚沼のなかでも、里山十帖のある大沢のものが最良とされているとか。保管は常に湿度が90%以上で3℃前後という、天然の冷蔵庫「雪室」が使われる。
「ワインにたとえるなら、さしずめブルゴーニュのロマネ村特級畑といったところでしょうか」と、里山十帖のホームページでは、少々のユーモアとともに紹介されている。これをテーブルの上の、微妙な火かげんが可能なガスコンロで炊き上げる。
最初は、いわゆる“煮えばな”で香りを楽しみ、そのあと料理長が仕込んだタクアンなど漬物とともに。香りのよさと、甘さを含んだ味わいと、歯にすこし抵抗を感じるだけのやわらかな食感がすばらしいしめくくりとなるのだった。
窓の外は積もる雪で真っ白。「通常は泊まりがけでディナーとして味わっていただいています」というコース料理だけに、本来なら部屋をとって、新潟のもうひとつの名物である日本酒や、最近進境いちじるしいと評判の新潟のオーガニックワインなどともに一夕を楽しんでみたかった。
帰りの200km強の道のりも、DBX V8ではまったく苦痛にならない。希有な新潟の美食を、日帰りで楽しめたのは、このクルマならではの性能ゆえと感じた。
アストン・マーティンでは、冒頭に触れたとおり、さらなる高性能のDBX707なるモデルを発表した。こちら、ウインタードライブの性能がどうなるかは未知数であるものの、少なくとも雪いがいの季節なら、魚沼まで走っていくのが気持ちよさそうではないかな。
そんな期待がさらにふくらむのだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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