■「eCANTER(イー・キャンター)」の最大走行可能距離は324km!?
三菱ふそうトラック・バス株式会社は、2023年の3月にEV(電気自動車)トラック「eCANTER(イー・キャンター)」をフルモデルチェンジして受注を開始しています。
従来モデルからバッテリーや駆動系を一新してEV車としての航続距離を向上させただけでなく、寒冷時の充電作業や運転するドライバーのサポート機能、先進安全機能を大幅に拡充しており、EVとして環境への配慮だけでなく、商用車としての利便性も高めた新しいトラックとなっています。
4月14日には新しい「eCANTER」の性能を実体験してもらおうと、栃木県にある三菱ふそう喜連川研究所にてメディア向け試乗会が行われ、そこで見てきた新しいEVトラックの姿を紹介していきましょう。
【画像】トラックもEV化が進んでいる? 注目の「eCANTER」を見る!(31枚)
eCANTERが初めて登場したのは2017年のことで、EVトラックで量産化されたのはこれが国内初です。
電動化による恩恵は、排気ガスを一切出さないゼロエミッションだけでなく、振動や騒音の低減によるドライバーや走行環境への配慮にも繋がっています。
2023年3月に登場した最新モデルは3代目となり、フルモデルチェンジと銘打つだけあって、従来モデルよりも多くの部分に変更が加えられています。
特にEV車としては肝となるバッテリーと駆動系が刷新されており、航続距離を含めた性能の大幅な向上と、車両サイズと性能が異なる様々なラインナップの拡充がされているのがポイントです。
いちばんの特徴はバッテリー部分のモジュール化で、標準はバッテリーが1個のみですが、シャシーの大きさに合わせて最大3個を搭載できます。複数搭載することで航続距離を伸ばしているといいます。
バッテリー1個を搭載したSサイズの走行可能距離は116kmですが、2個搭載のMサイズは236km、3個搭載のLサイズは324kmとそれぞれ拡大しており、大型モデルではEVトラックとして長距離輸送にも対応できるそうです。
また、従来の車両総積載量(GVW)5tクラスの他に、6tから最大8tまで複数のモデルがラインナップ。
初代、2代目では1型式しかありませんでしたが、最新モデルでは28型式にまで拡大しており、ユーザーは航続距離や積載量などから使用用途に合ったベストなモデルを選ぶことができます。
これまでのeCANTERは電動化したこと自体が一番の特徴でしたが、新しいモデルではバリエーションの拡充によって小型トラックを利用するユーザーの需要に広く対応できるようになり、より実用性を高めたといえるでしょう。
■eCANTER」の車体ディテールをチェック 航続距離以外にもいろいろ向上
試乗会場にはeCANTERの新しくなったバッテリーや駆動系が確認できるように架装を外したシャシだけの車両も展示されていました。それらを元にeCANTERのメカニックな部分を紹介していきましょう。
展示されていたのは最もコンパクトなSサイズで、モジュラー式バッテリーが1個搭載されており、バッテリーの重さは約350kgで定格容量は41kWh。
シャシのホイールベースは2500mmでラインナップの中では一番短い最小サイズです。このモデルでの総重量は5tで積載量は2t。
一番大きなモデルではLサイズバッテリーでホイールベースは4750mmになり、総重量が8tで積載量は3.5tとなっています。
バッテリーの後方には電気モーターと車軸が統合された新しい「eアクスル」があります。ここにはトラックを走らせるためのアクスルと電気モーター、それにリダクションギアとインバーターがユニットとして一体化。
モーターの出力は110kW/150PS(8tクラスのみ129kW/175PS)で最高速度は時速89kmで、登坂性能は20%以上となっています。
右側面には給電口とインバーターが装備され、給電口は通常充電用と急速充電用でふたつに分かれ、バッテリー1個のSサイズでの充電時間は、通常充電で約8時間、急速充電では約50分(50kW時)となっています。
冬場の寒さでバッテリー能力が低下する対策として、「バッテリープレコンディショニング」という機能も装備しています。
これは、出発時間をあらかじめ設定して充電状態にしておくと、その時間に合わせてバッテリーを余熱して、十分なパフォーマンスが発揮できるようにするものです。
車内装備で本モデルから新しく搭載されたのが、オプションで用意されている省エネ暖房設備です。
これは、冷房には従来のエアコンを使い、暖房では電気温水暖房(PTCヒーター)を使用するというもので、標準で装備されています。
さらに、必要部分を局所的に暖めるオプションとして、ステアリングヒーター、シートヒーター、足元インシュレーター、ウインドシールドヒーターが用意されており、暖房機器使用による航続距離の影響を半分程度まで抑えることができるそうです。
もともと、EVは寒冷地が苦手という印象がありましたが、このような暖房オプションや「バッテリープレコンディショニング」といった機能を搭載することで、EVとしての弱点を克服し「eCANTER」を事業車として普及させようというメーカーの心意気を感じます。
業務車として注目なのが、本モデルから新しく追加された「ePTO」。PTOとはパワーテイクオフの略で、ダンプや冷凍車などの架装部分に動力を伝達する装置です。
従来のディーゼル車でエンジンの動力を取り出す動力伝達機でしたが、「ePTO」はそれ自身がモーターとなって動力を供給します。
これによって従来のトラックで使われていたディーゼル車の架装がそのまま使用することができるほか、電動モーターだけの静音状態で稼働させることができます。
小型トラックの架装でPTOを使うものといえば、冷凍車や塵芥車(いわゆる「ゴミ収集車」)などがありますが、これが都市部などで使われるとエンジン駆動音がクレームの原因になることもあります。
しかし、「ePTO」を利用すれば静音状態で作業することができ、効率的な業務と住民の生活環境への配慮が両立することができます。
■バイト時代は2t車乗りだった筆者が感じた、快適過ぎる走り
試乗会では3種類の「eCANTER」を乗り比べることができました。
それぞれは搭載バッテリーが「Sサイズ」「Mサイズ」、「Lサイズ」と異なり、シャシの大きさもそれに比例して大きくなっています。
用意されたテストコースは、傾斜率10-20%の長い坂道を上り下りし、平地部分は緩やかなカーブでコーナリングを体験。これをサーキットコース風に2周ほど走らせて貰いました。
筆者はライター・カメラマン業をする以前に、エアコン屋で配送のアルバイトをしていた経験があります。
その時に運転していたのはCANTERクラスの5tトラックを運転していました。運行は住宅地にある店舗と倉庫の短い往復で、小型トラックが活躍する典型例ともいえる職場でした。
そんな小型トラックに乗り慣れた筆者にとってeCANTERの第1印象はスムーズな発進と加速でした。EV車の特徴で一番に上げられるのは電動モーターによる静かさですが、貨物輸送の場合は積み荷への影響から振動の少なさも重要となります。
驚いたことに、車体重量・サイズが異なるどのモデルでも、運転感覚には大きな違うはありませんでした。
最初は「空荷だから?」と筆者と怪しみましたが、どのトラックも業務運搬を想定して相当量のウェイトを搭載していたそうです。EVのスムーズな駆動は、ドライバーだけでなく貨物にも優しいようです。
もう一つ驚かされたのが、強力な回生ブレーキです。これは従来のディーゼル車でいうところのエンジンブレーキに当たるものですが、EV車の場合は車軸に抵抗を加えてブレーキ力と電気の発電にそれを利用します。
eCANTERのこれまでのモデルにも回生ブレーキは装備されていましたが、新しいモデルでは従来の倍の4段階の回生ブレーキを装備。これは従来の2段階の上により強力な回生ブレーキを追加した形となっており、最上位ではフットブレーキのような効き具合を発揮してくれます。
これにより、トラックの減速と徐行をシフトレバーとアクセルペダルの操作だけで行うことができ、不要なブレーキ操作によるエネルギーロスと、ドライバーへの運転時の疲労軽減に繋がっています。
都市部の運転で当たり前のように繰り返す加減速。そのほとんどをアクセルペダルの操作で対応できるのは、元トラックドライバーとしては本当に便利だと感じました。
EVは環境への配慮や、運用コストの削減は一番に注目されます。しかし、短い試運転でしたが、筆者としてはeCANTERの新しい技術に小さな感動を覚え、昔を思い出しながらも楽しませてもらいました。
最後に、試乗会で商品説明を行ってくれた三菱ふそうトラック・バス株式会社のセグメント戦略部マネージャーの田中宏長氏は、業界全体の電動化を見据えて次のように話していました。
「弊社の『eCANTER』は最初の発売から5年間の歳月が経っていますが、これまではEVとお試し的に使われているお客様も多かったと思います。
これからは、弊社も含めて他社様もラインナップも増えていくので、この『eCANTER』が業界全体の電動化の波の一条になればと思っています」
※ ※ ※
確実に迫ってくるトラックのEV化の波を前に、業務車としても実益のあるEV車輌が増えていくことに期待したいです。
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みんなのコメント
あとは自動運転ですが、ここらへんは日産以外あまり良い話を聞かないので、がんばってほしいところです。
下手をすると海外勢に食われます。
三菱には頑張って欲しいです。いすゞに関しても同様です。