昔から大は小を兼ねると言うが……当てはまらないケースも
今、日本でもっとも売れているクルマはホンダN-BOX。つまり、軽自動車のスーパーハイト軽である。限られた全長、全幅のなかに、まさに魔法と言っていいパッケージングによって広々とした室内空間を備え、両側スライドドアによる乗降性も抜群。多彩なシートアレンジによってさまざまな使い勝手に対応するユーティリティーも自慢のひとつだ。
【試乗】ヘタなコンパクトカーは敵じゃない! 新型ホンダN-BOXターボは軽の枠を超えた
何しろN-BOXを例に挙げると、後席の居住空間は身長172cmの筆者のドライビングポジション背後で、頭上に250mm、ひざまわりに最大450mmという、ボックス型ミニバンや大型セダンをしのぐ広さを実現しているのである!
N-BOXはもちろん、スズキ・スペーシアやダイハツ・タントなど、最新のスーパーハイト系軽自動車は走行性能や先進運転支援機能も文句なし。さらに言えば、衝突安全性能にもぬかりはない。ターボモデルを選べば、動力性能にも余裕が出て、定員4名乗車での高速走行、遠出も無理なく行えるほど。
そうした、小さな大物的キャラクターが、N-BOXの人気の理由のひとつでもあるのだが、ちょっと待てよ、スーパーハイト系軽自動車に死角はないのだろうか? 5つの項目を中心に検証したい。
1)横風による影響
まず、覚えておきたいのは、全高がN-BOXで1790mm、スペーシアで1800mm、タントで1755mmもある。しかし全幅は軽自動車の規格で1475mmに制限され、タイヤも細いため、高速走行時に強い横風の影響を受けやすいのも事実。セダン系軽自動車(アルトの全高は1500mm)が不安なく走れても、スーパーハイトになると直進を維持するのに気をつかうシーンも、非スーパーハイト軽自動車に対してあるということだ。もっとも、速度を落とせば大丈夫。横風による安定性も設計基準のなかにしっかりと折り込まれているからだ。
2)燃費性能
スーパーハイト軽自動車は背が高く、両側スライドドアを採用するため、車重が重くなって当然だ。同じプラットフォーム、エンジンを使うスーパーハイト軽のホンダN-BOX GホンダセンシングとN-WGN Gホンダセンシング(FF)の車重を比較すると、N-BOXが890kg、N-WGNが850kgと、40kgも重い。
結果、JC08モードより実燃費に近いとされるWLTCモード燃費は、N-WGNが23.2km/Lのところ、N-BOXは21.8km/Lに落ちる。スズキのスーパーハイト軽であるスペーシアと、ハイト軽ワゴンのワゴンRを比較しても、それぞれ30.0km/L、33.4km/Lと差がつくのである。そう、スーパーハイト軽自動車はその大きさ、両側スライドドア採用(構造と開口部の補強を含む)による車重増で、実用軽自動車のなかでもっとも燃費に不利な(軽スポーツカーを除く)ジャンルでもあるのだ。
ヒンジドアタイプに比べて購入価格も修理費もかさむ傾向に
3)立体駐車場の入庫容易性
軽自動車は車体の小ささや小回り性の良さによって、走りやすく、駐車しやすいメリットがある。ただし、スーパーハイト軽自動車は全高が1755~1800mmもあり、車幅は狭くても、全高制限によって立体駐車場(多くは1550mmまで)の入庫は不可。ハイト軽ワゴンも同様だが、もし、自宅の駐車場が高さ制限のある立体式で、買い物などで立体式駐車場をよく利用するというなら、軽自動車でも全高1550mm以下のセダンタイプを選ぶしかない。駐車の自由度という意味では、デメリットになるわけだ。
4)大開口スライドドアのキシミ&ガタつき
さらに、両側スライドドアゆえのデメリットも少なからずある。それは径年変化による大開口スライドドアまわりからのキシミ音、ガタつきの発生である。数年ぐらいでは気にならないレベルだが、年数や距離を重ねるうちに、走行環境にもよるがヒンジ式ドアではあまり起きないような問題が発生する可能性がある。ただしこれは、ミニバンを含む全スライドドア車に言えることでもあり、パワースライドドアの場合、修理費がかさむことも覚えておきたい。
5)価格
そして最後は価格。N-BOXとN-WGNを例に挙げると、ハイト軽ワゴンとスーパーハイト軽で比較しても、先進運転支援機能がより充実したN-WGN GホンダセンシングFFが129万8000円のところ、N-BOX GホンダセンシングFFは141万11300円と、同等グレードでも11万3300円高くなる。もちろん、頭上個空間の余裕や両側スライドドアのメリットを受け入れれば、法外に高いわけではないが、事実上、10万円以上の差があることはたしかだ。
もっとも、そんなデメリットがあるにもかかわらず、N-BOXやスペーシア、タントは売れに売れている。そもそも横風の強い日は速度を落とせばそれほど問題ではなく、燃費性能にしてもハイト軽ワゴンと比較して多少悪い程度。登録車のコンパクトカークラスを基準にすれば、スーパーハイト軽自動車でも文句なしの好燃費であることは間違いない。全高の高さによる立体駐車場の入庫容易性にしても、立体駐車場などほとんど利用しない人には関係なし。大開口スライドドアまわりからのトラブルも、乗り方や所有年数によってはこれまた気にならないデメリットとなりうる。
さすがに価格だけは絶対的なものだから、車両本体価格の予算130万円ならN-BOXはあきらめるしかないが、スーパーハイト軽自動車には、子育て世代など、使い方によって、ハイト系ワゴンのN-WGNに対する価格UPに見合うメリットがあることも事実。だからこそ、2019年9月の軽自動車販売台数で1位 N-BOX、2位タント、4位スペーシア(3位はハイト系ワゴンのデイズ)と、ベスト4のうち、3台をスーパーハイト軽自動車が占めているのである。しかも前年同月比で約110~130%増というのだから、多少のデメリットがあったとしても、その勢いは止められそうにない。
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