第46回東京モーターショー2019のホンダブースには、次期フィットのプロトタイプが出展された。本来なら現時点で受注していていいハズだが、実際はそうなっていない。
発端はN-WGNの電動パーキングブレーキに不具合が生じて、生産が滞ったことだ。同じユニットを次期フィットも使うから、発売スケジュールが2020年2月に先送りとなった。不具合はどうにか解消されたので、顧客を待たせているN-WGNの生産を優先させ、その後に次期フィットへ移る。
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従って現時点で公表されている情報は限られるが、モーターショー会場で実車は確認できた。「新型フィットは売れるのか」を考えたい。
文/渡辺陽一郎
写真/編集部、HONDA
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■絶好調だった2代目フィット。打って変わって伸びない現行型
東京モーターショー2019で発表された新型フィット。八郷隆弘社長が登壇し、次期主力車を紹介した
新型フィットの話に入る前に、まず現行フィットの1カ月平均の国内登録台数が、どのように推移したかを振り返る。現行フィットの登場は2013年だから、2014年以降のデータだ。
●現行型フィットの1カ月平均登録台数
・2014年:1万6903台
・2015年:9987台
・2016年:8806台
・2017年:8161台
・2018年:7560台
歴代フィットは人気が高く乗り替え需要も多い。そのために現行型が登場した翌年の2014年には1万6903台が売れた。この年の小型/普通車の販売ランキングも、アクアに次ぐ2位であった。
しかし、2015年には売れ行きが急落した。この時期のフィットは、ハイブリッドが搭載する7速DCTのリコールに悩まされている。2015年の登録台数は、2014年の59%にとどまった。
2015年以降はあまり減っていない。2018年の売れ行きは、2014年の45%だが、2015年との比較なら76%だ。フィットは運転がしやすく、全高は1550mm以下だから立体駐車場も利用しやすい。燃料タンクを前席の下に搭載するため、後席と荷室も広い。価格は割安だから、実用性に支えられて手堅く売れている。
しかし現行型のこの売れ行きは、ホンダには不満だった。2013年の発売時点で、現行フィットの1カ月の販売計画を1万5000台に設定していたからだ。月販平均で目標を達成できたのは2014年だけで、その後は未達に終わった。
現行フィットは、先代型と比べても売れていない。先代型は2007年に発売されて2008年の月販平均は1万4576台、2009年もリーマンショックの打撃を受けながら1万3110台を保ち、2010年には1万5453台に盛り返した。
東日本大震災を経て、2012年にも1カ月平均で1万7440台を登録した。先代型は2010年10月にハイブリッドを加えるなど、テコ入れも入念だったが、本質的に人気が高かった。
快調な売り上げを記録していた初代と2代目。3代目(現行型)はそれに比べると劣る結果となっている
■一体なぜ? 現行型フィットの売れ行きを鈍らせた要因
好調に売れた先代型と対称的に現行フィットの売れ行きが下がった背景には、複数の理由がある。まず現行型は、フロントマスクなど外観の個性が強すぎたことだ。2つ目は先に述べたハイブリッドのリコール。この時には販売現場のフィットに対する熱意も下がった。
3代目(現行型)は出だしでコケた影響も大きいが、それ以外にも複数の減速要因があった
3つ目は先代(初代)N-BOXの人気上昇だ。先代N-BOXは2011年12月に発売され、2012年には好調に売れて、1カ月平均の届け出台数は1万7596台であった。
通常は翌年から下がり始めるが(現行フィットは前述のように急落した)、先代N-BOXは2013年に1万9583台で売れ行きを伸ばしている。2014年は1万4994台だが、2015年は1万5410台という具合で、多少の増減を繰り返しながら好調に売れてきた。
このN-BOX人気の影響を受けたのがフィットだ。もともとフィットは新規需要の多い車種だったが、この購買層が空間効率の抜群に高いN-BOXに流れた。
さらに2015年には、販売の好調な軽自動車が話題になり、小さなクルマに乗り替えるダウンサイジング需要がさらに増えた。N-BOXはその中心に居たから、フィットからの乗り替えも多かった。
ライバル車では、アクアもフィットの売れ行きに影響を与えている。先代N-BOXと同じ2011年12月に登場して、2012年には2万2214台を登録してフィットを上まわった。一新された現行フィットが2014年に好調に売れた時も、アクアは1万9434台でさらに多く売れていた。
このようにフィットは、同じホンダのN-BOX、ライバル車のアクア、2016年以降はe-POWERを加えたノートにも悩まされてきた。次期型はどうなるのか。
■強力ライバルだけじゃない、新型フィットで気になるグレード構成
アクアの設計は古くなったが、ほぼ同時期にヴィッツがヤリスにフルモデルチェンジを行う。N-BOXは依然として好調で、国内販売の1位を独走する。ライバル関係に大差はない。
そうなると、商品力の勝負になる。まず次期フィットの外観は賛否両論だ。フロントグリルを小さく見せるデザインは、マイナーチェンジを受けたフリードに似ている。
開発者は「これがホンダの新しい顔になる。ほかの車種もこの顔立ちを採用する。従来とは違う優しい雰囲気を表現した」というが、ユーザーからはどのように評価されるのか。
現行フィットは、シビックやアコードに近いフロントデザインを採用していたが、新型フィットはそこから方向転換し、マイナーチェンジしたフリードに近いデザインを採用
コンパクトカーは日常的に使うツールだから、デザインは概して控え目なタイプが好まれる。法人需要が多いことも理由のひとつだ。その意味で初代と2代目フィットは、バランスの良い形状だった。現行型はそこからはずれて人気を下げ、次期型も別の見せ方で個性を強める。
インパネも同様だ。次期型は薄型で視界がよく、機能性はとても優れている。ただしN-BOXと比べてもボリューム感が乏しく、2本スポークのステアリングホイールは、往年のN360風ではあるが貧弱に見えてしまう。
グレード構成もわかりにくい。価格の安いベーシック(BASIC)、中心グレードのホーム(HOME)、上質なリュクス(LUXE)、SUV風のクロスター(CROSSTAR)、アクティブな雰囲気のネス(NESS)という5シリーズをそろえるが、ネスの性格はクロスターと重複する。
幅広いユーザーの好みに対応する5つのバリエーションをそろえた
受注効率を向上するために、シリーズとグレードを増やしてメーカーオプションを減らし、装備の組み合わせを抑える狙いもあるが、種類が多すぎる。低価格/買い得/SUV/豪華指向の4種類があれば充分だ。
コンパクトカーでは、グレードやオプションの選定を手早く済ませたいユーザーもいるから、ウェブサイトやカタログで、グレードの指向性を端的に解説することも必要になる。
■実用性の高さと価格のバランスは申し分なし。必要なのは売り手の熱意
その一方で、メカニズムや装備の進化は歓迎される。ハイブリッドはコンパクトカーのために開発されたi-MMDで(名称はe:HEV)、エンジンは主に発電を担当する。
その電力でモーターを駆動して走るため、エンジン回転数は走行状態に左右されにくく、効率の優れた回転域を重点的に使える。電気自動車と同様のモーター駆動だから、瞬発力もあり、走りのよさと低燃費を両立させやすい。
新開発の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」を、コンパクトクラスとして初採用
緊急自動ブレーキなどの安全装備も進化する。また次期型の後席と荷室も、現行型と同様に広いから、実用的な機能は優れている。
見た人を瞬間的に引き付けるスター性のような魅力は、N-BOXにかなわない。従って1カ月に2万台近く売れることはないが、2018年に小型/普通車の登録台数1位を取ったノートの月販平均(1万1360台)はクリアできないと困る。
おそらく、発売直後の2020年には平均1万4000台前後は売れて、その後は次第に下がり、1か月平均で9000~1万台に落ち着くパターンだろう。
フィットは次期型を含めて、実用性が高く価格は割安だ。ツールとして優れているので、好調に売れる素質がある。
それなのに売れ行きが伸び悩むとすれば、N-BOXの売り方まで含めて、メーカーと販売会社のフィットに対する熱意が欠けているからだ。次期フィットは、もっと力を入れて売るのだろうか。
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