CLカーズ的にはあまり馴染みのないカスタムカージャンルかもしれませんが、今回USPMという痛車系(なぜ「系」なのかは後述します)カスタムカーイベントにお邪魔してきました。
痛車系カスタムカーイベント「USPM」
クルマ好きの思いが詰まったジオラマや名車たち。関西オートモデラーの集いを訪れて
ご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、痛車とはアニメやゲームのファンが自身の好きな作品のタイトルやキャラをモチーフにしたステッカーで装飾したカスタマイズ車です。諸説ありますが「(クルマを飾る)行動が痛いから」と「イタリア車の略称の痛車」をかけたのが有力とされています。
じつは、かくいう筆者の愛車のセリカLBもかつてはゲーム音楽を制作していたユニット名のロゴを貼っていた「痛車」で、ボーカルの女性とギターの男性にも存在を知られていたという過去があります。あいにくボディレストアの際にすべてのステッカーを剥がした際に、「新しく塗装したボディにステッカーはまだしもラッピングシートを貼ると保証が保てない」「せっかくフルオリジナルでレストアしたヴィンテージカーだから余計な事はしないでほしい」といろいろな人に言われたのと、「ホイール以外はフルオリジナルと言っても痛車仕様のクルマなので」という理由でクラシックカーイベントのエントリーを断られたこともあるので、以前の仕様に戻すことは断念しました。10年以上前と比べると世間の認知度は上がりましたが、それでも世間との折り合いをつけるのはまだまだ非常に難しいカテゴリーのようです。
USPMは歴史が長く、前身である「萌ミ(萌車ミーティング)」も入れると10年以上の歴史があります。初期の参加者の中にはスタンス系やラグ系等一切の萌要素のないカスタムカーに転じた人も居るため「痛車を中心としたオールジャンルカーイベント(故に「痛車系」)を名乗り、中には古い痛車乗りとの同窓会的イベントと捉える人も居るようです。
猛暑の中イベントがスタート
当日、可児市は最高気温の38℃を超える中、334台ものエントリーが集まるという猛暑に負けない熱いイベントとなりました。
痛車にすると言ってもオーナーによって、いろいろスタンスの違いがあり、
・とにかく作品やキャラを前面に押し出して飾る
・バイナルグラフィックやブラシペイント等でグラフィックやデザインにキャラのモチーフを落とし込む形で飾る
・デコトラ、バニング、スタンス、レーシングカーレプリカ等、もともとあるカスタマイズ手法と作品やキャラクターを融合させる企業コラボでラッピングバスを走らせたり、制作会社が社用車を痛車にしてしまう制作会社がスポンサードしてるレーシングカーを痛車にするというのはこの派生かもしれません。
・普段使いを重視して、ロゴステッカーやワンポイントのステッカーを貼ってさり気なく主張するというパターンもあります。
ちなみに筆者は最後のパターンでしたが、レギュレーションの厳しいクラシックカーイベントではロゴステ1枚でも、それを理由にエントリーの対象から除外されたというケースが複数回あり、今回のレストアで痛車とみなされる可能性のあるステッカーを貼ることは見送りました。面倒ですがクラシックカーはいろいろとしがらみの多い世界でもあるのです。
やはり痛車といえばラッピングとバイナル
おそらくCL読者の皆さまが「痛車」と聞いて真っ先に思い浮かぶのがこういうクルマではないでしょうか?すでにいくつかのメディアに取り上げられてご存じの方も多いと思いますが、ベースは旧型となったスズキジムニーです。モチーフとなった作品は人気パソコンゲームでテレビアニメにもなったリトルバスターズ!の「クド」。じつはよく見ると前ヒンジ化されたボンネットや、ガルウィング化されたドア以外は大きなカスタマイズは無いのですが、外装部品そのものは純正準拠でもラッピングだけでこれだけ印象が変わるようです。
「純正準拠」と言ってもほとんど手が入っているので、その手間はかなりの物でしょう。一方で「カスタマイズパーツが無いクルマ」であっても、純正部品のままカラーリングを変えただけでここまでまったく違うイメージに仕上げる事が出来る、というよい見本でもあると思います。
バンダイナムコのソーシャルゲーム、「アイドルマスターズシンデレラガールズ(通称デレマス)」の「北条加蓮」仕様のトヨタハリアーです。筆者はいわゆる「アイマス」はごく初期の業務用ゲーム機で展開していた時代しかプレイしていないため、ごく初期のキャラしか知らないのですが、当時はホイールブランドの「弥生」にちなんで「高槻やよい」を使用していました。
10年ほど前から、追従性の高いラッピングやカッティングシートが出回り始めたことでデザインの自由度が高まり、曲面の多いボディパネルにも貼る事が可能になり、まるでペインティングの様なグラフィックも可能になりました。
こういったバイナルの装飾は、クルマの元のデザインやカスタムパーツのデザインとキャラクターのイメージをどう融合させるかにオーナーのセンスの良さが現れます。ここまでくるともはや「痛車」そのものが一つのカスタマイズと言ってもよいでしょう。
見るからにキャラ愛の炸裂する「ラブライブ!」「矢澤にこ」仕様のホンダフィット。もちろん「矢澤」ゆえに、「E.YZAWA」をモチーフにした「N.YAZAWA」のモチーフのステッカーが貼られた痛車を目にすることがあります。
かつてはこういったフルカラーの痛車を製作するのは非常に困難で、専門のペイント業者にエアブラシで施工してもらうか、複数のカッティングシートを重ね張り(ただし、セルアニメの様なベタ塗の質感が再現できるという副産物もありました)のような涙ぐましい努力をするしか方法が無かったのですが、今やボディ前面にフルカラーで元作品のグラフィックをそのまま再現する事も可能となりました。
「パステルカラーのホイール」というのも本来はあり得ないものだと思うのですが、ガッツリローダウンに突き抜けるようなパステルカラーのホイールがマッチングしてしまうというのも痛車ならではのカスタマイズ手法かもしれません。
ある意味痛車のトラッドスタイル?
PCゲームメーカーの「オーガスト」(ゆえにAugust=8月で「ガレージはちがつ」です)の「大図書館の羊飼い」仕様のスズキアルト。よく見ると、あえてワークスの丸ライトを一般グレードの角ランプにするなど(もしくは通常グレードのアルトをワークスのエンジンに換装している?)チューニングカーとしてもかなり手が入ってると思われます。
単色のカッティングシートによるロゴやキャラクターの切り出しというのは、痛車黎明期からの伝統的手法と言ってもよいでしょう。痛車に限らず、ホームセンターやカー用品店でカッティングシートを購入して自作のステッカーを作って愛車に貼ったという思い出を持つ人も多いのではないでしょうか?
コナミのバーチャル恋愛ゲーム「ラブプラス」の「姉ヶ崎寧々」仕様のケーターハムスーパーセブン。筆者の知る限りでは2010年頃にイベントで見かけた記憶があります。痛車といえどもこの灼熱の中、一切の快適装備のないセブンでイベントに駆け付けるあたり、姉ヶ崎寧々とセブンへのあり余る愛が伝わってきます。Kユニットのオーバーヒート対策だけでなくオーナーの熱中症対策にも注意してください。
セブンの痛車は他にもバーキンセブンと以前はあるプロの漫画家がミツオカゼロワン(いわゆるニアセブン)を痛車にしていた事例があります。
「フルオリジナル」というしがらみのある筆者と違い、カスタム系のクラシックカーオーナーには思い思いの痛車カスタマイズを楽しむ人も居ます。一見「ナショナル」のカラーリングのサニトラですがよく見ると、「うる星やつら」の「ラムちゃん」仕様になっていました。クルマの時代考証にも合わせて芸が細かい一台です。たしかに筆者の子供の頃(1980年代)のナショナル系(現パナソニック)の電気屋さんがよくこのクルマで電化製品の配達をしていたものです。
いわゆる一般的な(?)カスタムカーも
一昔前に流行ったVIP仕様のY33シーマ。じつはこのクルマもかつては痛車だった事があります。実はこう見えて、エンジンはRB26DETTにマニュアルトランスミッション換装で、あとはグランドエフェクト等の空力を見直せば「スペック上は300km/hも狙える」という話を人づてに聞いた事があります。リアドアは開閉可能ですがリアシートは撤去しロールケージが張り巡らされ、もちろんフル公認仕様だそうです。
メルセデスベンツC200。一見フルノーマルのように見えますが…
ワンポイントのアクセントでステッカーがあったり、フィギュアが飾ってあったり、ちょっとした飾りだけでも痛車になるのがこのジャンルの懐の深さかもしれません。
CL読者の方の中にも気づいているかたがいるかもしれませんが、じつは筆者のセリカLBのステアリングコラムカバーの上にもさりげなくお気に入りのキャラのフィギュアが飾ってあったりします。
自家用車が日産クルーという筆者にとって個人的にツボにはまった1台「トヨタクラウンセダン」(通称クラウソセダン)
ちなみに「コンフォート」「クラウンコンフォート」「クラウンセダン」の外見上の識別点はフロントグリルのエンブレムがトヨタ共通CI、ショートホイールベースで、アンバーのレンズのサイドウィンカーが「コンフォート」。ロングホイールベース仕様でエンブレムがお馴染みの王冠マークでクリアレンズのサイドウィンカーが「クラウンコンフォート」。さらにテールランプが大型化されているのが「クラウンセダン」となります。
ちなみにコンフォートはクラウンではなくX80系マークIIのコンポーネンツを使用していることから一部では「クラウソ(嘘)・セダン」と呼ぶ人もいるようです。
トヨタコンフォートつばめタクシー営業車。なんと、「クルマであればオールジャンル」をいい事に本物のタクシーを貸し切ってエントリーした強者も、こういう楽しみ方もありなのがUSPMというイベントのユルさだったりもします。
ところでこの「痛車」というカーカスタマイズ、侮ることなかれ。じつは海外にも広く伝播しているようで、欧米の日本アニメ愛好家にも「ITASHA」が通じるばかりか、台湾のような漢字文化圏の国ではそのまま「痛車」の表記で通じてしまうそうです。最近ではカスタムカー文化の国のアメリカでも痛車クラブが結成されイベントを開催したり、各国のアニメコンベンションで日本のように痛車が展示されるケースも増えていると聞きます。海外から入ってきた自動車文化は数あれど、海外に広まった数少ない日本発祥の自動車文化という点は、こう見えて稀有な自動車文化かもしれません。
[ライター・カメラ/鈴木修一郎]
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