ついに日産の新世代EVとなるアリアの予約注文が始まり、その日本限定仕様の価格も発表された。その価格は660万円から。これまでのリーフなどと比べるとかなり高いと感じる価格設定といえる。
自動車業界は電動化を着々と進めている。それだけに今後はEVの大衆化も注目されるところだが、アリアの価格は「EVなんて庶民とは関係ないクルマ」という印象がより一層強まった感じもある。
開発中止は本当にない!? 名門スカイラインが低迷してしまったのはなぜか?
しかし、アリアというEVとしての性能やグレード感、キャラクターなどを考えた場合、この価格は高くはない!……のか? モータージャーナリストの御堀直嗣氏が解説する。
文/御堀直嗣
写真/NISSAN、TOYOTA、BMW、Mercedes-Benz
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■同じく日産のリーフe+と価格を比べると?
日本専用限定車「日産アリア リミテッド」は車両価格が660万円~790万円。写真の車体色は日本限定の2トーンカラー「バーガンディー/ミッドナイトブラック」
ボディサイズは全長4595 mm×全幅1850 mm×全高1655 mm。そしてこちらも日本限定カラー「シェルブロンド/ミッドナイトブラック」
日産アリア リミテッドの内装。柔らかい質感のナッパレザーシートやパノラミックガラスルーフが標準装備される
一昨年の東京モーターショーで公開された、日産自動車の新世代電気自動車(EV)であるアリアが、いよいよ発売された。まずは日本専用の特別限定車の位置づけで、4車種が発表された。
それによると、車両価格は660万~790万円である。リーフが332万~499万円であるのに比べ300万円ほど高くなる。価格に対する価値はどうであるのか、みてみよう。
国内専用特別限定車のアリアには、リチウムイオンバッテリー搭載量によってB6とB9の区別がある。B6は66kWh(キロ・ワット・アワー)のバッテリー容量で、B9は91kWhを搭載する。それは、リーフの40kWhと62kWhの区別と同様の選択肢といえる。
EVの価格に大きな影響を持つといわれるリチウムイオンバッテリー容量で比較すると、リーフe+は441万円からの価格帯となるので、容量の近いアリアのB6を比べると、およそ180万円の差といえる。
そのうえで、今回発売される国内専用特別限定車には、ハンズオフ機能を含む運転支援システムのプロパイロット2.0が搭載され、これを最初に採用したスカイラインで、非採用の車種と比較すると、車両価格に120万円ほどの差がある。
アリア リミテッドには最先端の運転支援技術であるプロパイロット2.0が標準装備となる
自動車専用道路でレベル2でのハンズフリーを実現するため、3次元高精細地図やセンサー類の追加などに原価のかかるプロパイロット2.0の採用は、車両本体価格を上げる要因であることは間違いないだろう。
そう考えると、リチウムイオンバッテリー容量がほぼ同じリーフe+とアリアB6の比較で差のあった180万円のなかに、プロパイロット2.0の分(スカイラインでは約120万円ほど)が含まれることを思えば、リーフとアリアの車両本体価格はさらに縮まる可能性が高い。
また、アリアのために新開発の電動パワートレーンを採用しているとの説明があり、プラットフォームもリーフとは別ではないかと考えれば、660万円からという金額そのものには驚かされても、中身の価値として高すぎることはないのではないか。
■車体寸法がベンツEQAに近い
ベンツEQAのボディサイズは全長4465mm×全幅1835mm×全高1625mm(標準車)
新車市場は、世界的にSUVに人気が集中する傾向にあり、そこにいよいよ日産のEVも加わることになる。
競合比較してみると、国内では、レクサスUX300eが580万円からだが、リチウムイオンバッテリーの容量は54.4kWhと、アリアに比べ12kWh近く少ない。これにより、同じ前輪駆動(FWD)比較のWLTCで、アリアが一充電走行距離450kmであるのに対し、UX300eは367kmとなる。約80kmの差だ。
ハイブリッドで培った信頼性の高い電動化技術と利便性を持つという、レクサスUX300e
マツダMX‐30のEVは、451万円からだが、リチウムイオンバッテリー容量は35.5kWhでしかない。アリアの半分強であれば、逆に高価ではないか。
輸入車では、メルセデスベンツのEQAがアリアとほぼ同じ車体寸法となり、リチウムイオンバッテリー容量も66.5kWhと近く、一充電走行距離はWLTCで422kmである。この車両本体価格が640万円からとなる。
BMWのiX3の価格はわからないが、クラスが上のiXの価格はローンチ・エディションが1155万円~。したがってEQAという一車種との比較とはいえ、アリアが輸入車の同等車格での競合になってくるとみれば、その車両本体価格はそれほど高過ぎるとはいえなくなってくるだろう。
BMW iXは、「xDrive40 ローンチ・エディション」が1155万円、「xDrive50 ローンチ・エディション」が1373万円でオンラインストア限定受付されている。納車開始は2021年秋~とのこと
外観の造形においても、輸入車と競える高い水準にあるといえるのではないか。
ほぼ同等のリチウムイオンバッテリー容量のなかで、どれほどの走行距離を稼ぐことができるかがEVのひとつの勝負所であり、加速性能については、エンジン時代と異なりモーター駆動であれば瞬発力は差が出にくい。
たとえば、米国のテスラ・モデルSは、その高性能車種においてはポルシェのタイカンに引けを取らない。高性能車種とはいえ、乗用の4ドア車がスポーツカーメーカーのEVと遜色ないところに、EVの面白さや、メーカーにとっては難しさ、恐ろしさが出る。
したがって、アリアを輸入車と比較して価格と魅力を探ることは、現実的な選択肢といえる。
■家に給電できる機能も採用するはず
そのうえで、アリアのさらなる利点を探るとすれば、公式の記載はまだ見当たらないが、当然ながらEVと家を結ぶヴィークル・トゥ・ホーム(VtoH)の実現も可能だろう。VtoHは、現状販売されている輸入車のEVでは不可能だ。
アリアもリーフと同様に、充電して蓄えた電力を家庭へ給電することもできるVtoHに対応するだろう
しかも、現在、環境省や経済産業省、そして地域別では東京都でEVおよびVtoH、あるいは太陽光発電との組み合わせで購入すると、リーフe+の試算で100万円近い補助を受けられる。これが適用されれば、660万円からの売り出しとなるアリアの販売の後押しにもなるだろう。
■おわりに
EVは、単にエンジン車からモーター駆動へクルマの機構が変わり、排出ガスゼロを実現するための代替案ではない。
クルマの価値を計り知れないほど拡張するものであり、それが健常者だけでなくあらゆる人の移動の自立を促し、なおかつ、VtoHや太陽光発電の活用などによって、暮らしを支える一部になっていくことができるのである。
携帯電話が固定電話を移動で使えるようにした電話の延長であるのに対し、スマートフォンはパーソナルコンピュータの機能を基本に通話もできるという、別次元の通信端末となったのと同じだ。
温室効果ガスの削減目標や、規制、それに付随するクレジット(違反金)支払いへの懸念しか目に入らず、エンジン車やHVの代替としかEVをみることのできない自動車メーカーは、おのずと淘汰されていくだろう。
EVの計り知れない可能性を10年以上前から検証し、実証してきたのが日産であり、そのうえで誕生するのがアリアだ。
発売からわずか10日で4000台の受注を得た背景にあるのは、そうした真摯な研究と、地道にリーフを売り続けてきた知見が裏付けとなり、大きな成果を生み出そうとしている。また初期に注文したのは、リーフで充分にEVの意味を理解した消費者ではないか。
ホンダeがわずか1000台、マツダMX‐30が500台、レクサスUX300eが135台などというわずかな台数で右往左往していることのほうがいまや異様であり、いかにも時代遅れであることを象徴している。
アリアは、海外メーカーと競争し、そして勝てる可能性を持ったEVであるのは間違いない。その価格は、けっして高過ぎないと思う。
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みんなのコメント
でも、数売ろうと思ってないだろうし売れた売れたで色々と問題あるし。
でも、この性能・大きさ装備など他社のライバルの車よりかなり安いと思います。
日産もバカ売れするとは思ってないでしょうが、まだ日本でEV車をファーストカーとして所有するのは難しい所がありますよね(^^;)