■基本設計が左ハンドルの場合は、右ハンドルは不都合が多い
日本において、ドイツ車よりもアメリカ車がステイタスだった1960年代、左ハンドルのクルマというのはじつにカッコよく見えたものだ。そのころはまだ子供だったため、使い勝手などのことはわからず、単純に「左ハンっていいな」的なことをぼんやりと感じていたものだ。
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最初に左ハンドル車を購入したのは、非常に安い価格で販売されていたフォルクスワーゲンの初代「シロッコ」であった。丸目2灯ヘッドライトの3速AT、機械式燃料噴射システムを搭載した、「ゴルフ」をベースとした2ドアクーペだった。
それまで何台もクルマを乗り継いではいたが、初めて自分で所有した左ハンドル車ということもあって、すでに出版社に勤めていたため、会社に行くときも、取材に行くときも、すべてシロッコであった。
時代は平成初期。当時、高速道路は、入り口でチケットを係員から受け取り、出口では直接現金で支払う必要があった。駐車場もチケットこそ機械から出てくるが、設置場所は大半が右側であった。普段遣いをするには、左ハンドルはとても不便だった覚えがある。
その反面、運転はとても楽だったことを記憶している。左ハンドルのほうが路肩との位置関係を把握しやすく、たとえばパーキングメーターに駐車するときなどは、ビッタリとクルマを寄せやすかった。もちろん、寄せすぎてドアが開かない、なんてこともよくあったのだが……。
その当時の輸入車の右ハンドルというのは、左ハンドル車を無理矢理右ハンドルに仕立てたようなクルマが多かったのも事実だ。
現在筆者が取材の足として使っている1998年式アルファ ロメオ「156」を例に挙げてみよう。左ハンドル車はブレーキのマスターシリンダーが、左側にある。ところが右ハンドル車は、マスターシリンダーこそ右側に持ってきているが、リザーバータンクは左側のままなのだ。
そのため、マスターシリンダーとリザーバータンクは、ゴムパイプを使って繋げられている。
また、アクセルペダルの右側にタイヤハウスが出っ張る右ハンドル仕様では、ペダル配置も左ハンドルと比べてバランスがいいとはいえない。一時期正規輸入された、左ハンドル車の156に乗ったことがあるが、ブレーキのフィーリングやペダル配置は、明らかに違い、左ハンドル仕様こそ、「これぞアルファ ロメオ」というドライブフィールだった。
考えてみれば、左ハンドルの場合、フットレストと左前輪のタイヤハウスを兼ねることができるので、3ペダルのレイアウトの自由度が高い。右ハンドルでは、右前輪のタイヤハウスが邪魔するため、アクセルペダルが中央に寄りがちになってしまうのだ。
また、かつてのBMW(直列4気筒/6気筒モデル)などでは、右ハンドルはステアリングシャフトも右側を通さなければならないということから、エキゾーストマニホールドが右ハンドル専用品となっているものもあった。しかもその右ハンドル専用のエキゾーストマニホールドが、左ハンドル用の芸術的なタコ足に比べ、まったく美しくなかったというだけでなく、性能も低下していたということもあった。
また、ステアリングシャフトが高温になるエキゾーストマニホールドの近くを通っているので、シャフトブーツなどが熱によって劣化するのが早かったという問題もあった。
こうしたこともあってか、車両は左側通行という日本でも、左ハンドル車は不都合もあるがこれがクルマとしては正しいという風潮と、またステイタスみたいなものがあった。
こうしたことが行き過ぎた結果か、右ハンドルが正規であるはずの英国車でも、左ハンドル車のほうが売れた、なんていう話もあった。現在も、ベントレーなどの高級車のリセールは、左ハンドルのほうがよいのも事実である。
もちろん、左ハンドルが基本設計でも、そもそもパッケージに無理がある場合には、ランボルギーニ「カウンタック」のように、左ハンドルでもペダルレイアウトがお世辞にもよいとはいえないクルマも数多く存在することも補足しておこう。
■運転手付きの高級車は左ハンドルが好都合!?
もちろん、現代の欧州車や米国車の右ハンドル仕様は、ウインカーレバーが左側にあることを除けば国産車を乗り継いできた人が乗っても、違和感なく使える仕上がりとなっている。
しかし、それでもスーパーカーや超高級なパーソナルカー、ショーファードリブンカーでは、左ハンドルのほうが有利である点が今なおあるのも事実だ。
まず、ショーファードリブンの場合を考えてみよう。ショーファードリブンというのは、運転手が運転し、後席に客や所有者本人が乗って快適に移動をするというクルマだ。
その場合、後席の人が乗り降りするときにドアを開閉するのは、運転手の仕事となる。
右ハンドルの場合、クルマを道路脇に停めた場合、運転手は後方からの通行車両に気をつけながら運転席のドアを開け、車両をぐるりと回って左後席のドアを開けなければならない。
しかし、左ハンドルの場合は、運転手はすぐに運転席のドアを開け車両を降り、左後席のドアを開けることができる。大事な人をお待たせしないという点では、おもてなしの国としては重要なポイントだ。
スーパーカーなどの場合は、売却するときの価格に影響してくる。たしかにここ数年は、JDMというのがとくに北米で人気となっている。JDMというのは、ジャパン・ドメスティック・マーケットの略。日本の車検ステッカーや車庫ステッカー、点検整備ステッカーなども人気があり、右ハンドル仕様の「スカイラインGT-R」など日本専売車が、北米を中心に高額で取り引きされている。
ところがことスーパーカーに関しては、売却するときに左ハンドルのほうが高値となることが多い。スーパーカーのような希少車は、日本国内だけが販売ルートではなく、世界中で取引されるバリューがあるのだ。
とくに、中国やオイルマネーが溢れている国々などは、以前からスーパーカーの主要な販売国だ。そしてそういう国々のほとんどは、右側通行、つまり左ハンドルが基本となる。そのため、右ハンドルよりは左ハンドルのほうが、高値で引き取られていく例が多い。
もちろん、エンスージアストの多いヨーロッパではいうに及ばないだろう。
では、左ハンドル車は、現在の日本で扱いにくいのだろうか。
たとえば高速道路だが、料金を支払うゲートはすでにETCが基本である。料金所で現金を払うのは、一部有料道路くらいで、その場合にも左ハンドル用レーンが整備されていることが多い。
さらに駐車場では、コインパーキングではまず問題ない。また、高級輸入車を停めるようなゲート式の駐車場では、左ハンドル用のチケット発券機が用意されているケースのほうが多い。都内のホテルでは、ランクが上であればあるほど、左ハンドル用のチケット発券機が用意されており、そもそもバレーサービスが当たり前となる。
問題となるのは、右折するときや、停留所で止まったバスを追い越す際であろう。対向車が見えにくいという問題だが、そこは安全第一で走行するしかない。
左ハンドルの国でつくられた左ハンドル車、人生で1度くらい乗ってみてもバチは当たらないと思うのだが、いかがだろうか。
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